第9話
勇真は飼育ケースの中を見つめて、自由帳にヒカリを
今日は八月一日。ヒカリが生まれてから、今日で十二日。
五センチほどの大きさに成長したヒカリは、最初よりもだいぶ見た目が変わってきた。ツルリとした肌の感じと、灰色メインの色合いは変わらない。しかし、体の大きさはあまり変わらないのに対して、長い
そして、目と目の間から背中にかけて、小さな角のようなトゲトゲが
「カッコいいぞ、ヒカリ」
勇真が声をかけると、ヒカリは
最近よく観察しているからか、ヒカリの動きで、言いたいことがなんとなく分かることが増えた。今までなら、気のせいだろうと思ったかもしれない。
ううん、気のせいだとか、そんなことも考えなかったかもしれない。
こんな風に感じるようになったのは、カミサマが、勇真にヒカリの視界を見せてくれてからだ。
あれから五日たった。あの後、勇真はとても反省して、ヒカリに
最初まったく相手にしてくれなかったヒカリだが、二日たつころには、少しずつこちらを向いて反応してくれるようになった。そして、ピンピンに
ぼくのこと、
何の表情もないように見えるけど。人間とはまったく
ぼくとヒカリ、何もかも、ぜんぜん
初めてそんなことを考えた。
「できた!」
ヒカリの絵を
《ほう、
自由帳を机の引き出しにしまっていると、カミサマが言った。
「うん、図工は好きだよ。絵を
《なのに、自由研究はやりたくなかったのか? 色々調べて新しく知識を得ることは、楽しいことじゃろ?》
「う〜ん、そうなのかな。でも授業で新しい単元に進む時はイヤになるよ?」
《なぜじゃ?》
勇真は引き出しの中を見た。そこには各教科の教科書やノートが並んでいる。
「新しいこと知って楽しいっていうより、
一学期の間に習ったのは、きっとまだこの教科書の半分にもならない。まだ開いてもないところに、
カカカ、とカミサマが笑った。
《それは勇真、おぬしがまだ“知る”ということの本当の楽しさを分かっていないのじゃな》
「本当の楽しさって?」
《知りたいことを知り、新しい疑問が
勇真は目を見開いて、学習机の
「なにそれ! 無限ループじゃん!」
《おお! 無限の楽しみじゃの。何を調べても知ってもよい。自分
「そうかなぁ……」
課題を出された方が、やるべきことが分かって楽チンだ。何でもいいと言われると、何を調べるべきなのか、
あ。そういえば、「夕ごはん何がいい?」って聞かれて「何でもいい」って答えると、母さんは嫌そうな顔をするなぁ。「“何でもいい”って言われることが一番難しいのよ」ってブツブツ言ってたのは、そういうことなのか。じゃあ、今日からは
《……おぬし、もう他のことを考えているな?》
「え、別に」
そんなことを話していると、一階から母さんの「勇真、お昼ごはんよ」という声が聞こえた。
○ ○ ○
お昼ごはんに出された
《嫌々食べているという感じじゃなぁ》
カミサマの
だって魚は嫌いなんだよ。
一方的に話しかけられるのは困るので、最近の勇真は部屋から出る時、
《なぜ嫌いなんじゃ?》
「勇真、お魚もちゃんと食べてね」
カミサマの声と、母さんの声が重なったので、勇真は思わず声に出してカミサマに答えた。
「だって骨が多いから、魚は嫌いなんだ」
「あら、それでいつも魚を残すの?」
母さんは少し
「骨があると、すごく食べにくいんだもん。前に小さな骨が歯ぐきに
すると母さんは、勇真の皿を自分の方に
「そうねぇ、確かに骨がなかったら食べやすいわよね。そういえば母さんも、子供のころは骨を取るのが苦手だったわ」
「母さんも?」
「そうよ、サンマの塩焼きなんて、味は大好きなのに小骨が多くて!」
確かに。食べたくない魚の第一位かもしれない。
話している間に、母さんはササッと骨を取ってほぐした
「お
思わず変ないいわけをしてしまうと、母さんは笑う。
「でもねぇ、骨があるから美味しい身になるのよね、きっと」
「え? 関係あるの?」
「あるわよ、骨がないと体を支えられないでしょ? 体を支えられないと、生き物ってぐにゃぐにゃのタコとかナメクジみたいな生き物になっちゃうんですって!」
勇真は
「タコ? ナメクジ!?」
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