いじめられっ子
ネルシア
いじめられっ子
この教室に私の居場所はない。
毎日いじめられませんように、絡まれませんようにと祈るばかり。
お昼なんて獣目につかないように1人で食べるのが当たり前。
でも、どんなに頑張って関わりを持たないように努力しても絡んでくる獣たちはいるわけで。
授業の合間の10分休憩でも私をからかうことに余念がないようで・・・。
「あれ~?何もできない人間じゃんww」
縫い針で心をつつかれているような気分。
でも、実際人間は私だけで、特に頭が優れているわけでもないし、
イヌ科のみんなのように持久力や嗅覚も無ければ
ネコ科のように柔軟性も無いし、暗闇でも何か見えるわけではないし、
トリ科のように飛べたり目がめちゃくちゃいいというわけでもない。
海の子たちのように自由に泳げるわけでもないし。
「ほんと人間ってなんで今まで生きてこれたんだろうねww」
シャーペンを持っている手に力が入る。
苦しくて泣きそうになる。
でも言い返したところで余計ひどくなる。
何も言えない。
「泣いちゃう?www」
ただうつむいて、時間が過ぎて彼女たちが去るのを待つ。
1分1秒が引き延ばされているような感覚に陥る。
バァァァン
唐突な衝撃ともいえる音に学校中から音が消えたんじゃないかってくらい静かになる。
なんてことはない、ただドアを開けただけ。
そう、この学校の荒くれてて、成績が良くて、運動もできて、見た目もいい絶対的な女獣王が。
・・・性格は、うん、よくわからない・・・。
なんてことはない。
シャチの子。
顔つきはほぼ人間だが、多くて鋭い目。
こめかみには目じりから耳にかけて周りの肌と比べると色素が薄い半円模様。
口を開けると肉食ならではのギザギザの歯が見え隠れする。
髪は他の海の子達のように常に水をまとっているかのような光沢感がある。
この子は特に髪が長く、見とれてしまう。
体はいかにもって感じで引き締まっており、筋肉量も男獣より多いんじゃないかってくらい。
シャツはスカートから出ており、第二ボタンまで外れているが、何がとは言わないが控えめなため、煽情的にはならない。
その子がじろりと教室を一瞥すると、そそくさと絡んできた子たちだけじゃなく、普通に友達と話していた子たちも席に戻り、机に視線を落とす。
当の本人は何事もなかったかのようにずかずかと自分の席に歩いていく。
・・・そう、私の隣に。
「おはよ。」
その子が私に挨拶してくる。
「あ、うんおはよ・・・。」
正直怖い。
でも絡まれたこともいじめられたこともない。
ただ、毎日挨拶するだけの関係---だったのに。
やることをこなして。
評価され。
何をしても許される。
飽きた。
自分がこれだと思ったことは否定される。
大人たちが喜ぶことをしないと評価されない上に、自分がやりたいことさえやらせてくれない。
飽き飽きだ。
でも、そんな飽きにも1つ潤いがある。
隣の席の人間だ。
私は容姿にも体格にも種族にも恵まれた。
だからこそ隣の不完全な生き物を見ると心配になってしまう。
細くて、いつもびくびくしてて、少しでも触れたらすぐに壊れてしまいそうで。
子供のころ人間なんて都市伝説だと思っていた。
種族数の少なさもそうだが、あまりにも弱すぎる。
こんな種族がいるはずがないと決めつけていた。
きれいな三つ編み。
低い身長。
細い手足。
豊かな双丘。
どれをとっても不完全で不必要だ。
でもそれがすごい愛おしい。
友達になりたいが、挨拶しかすることができない。
全生徒から恐れられている私が友達を作ることさえためらうような怖がりなんてこんな笑い話他にはないだろう。
エコーロケーションで教室に入る前に中の様子をうかがう。
思っていた通り、あいつが絡まれている。
はぁとため息をつきながらドアを思いっきり開ける。
思わず力が入ってしまった。
全員から視線を浴びせられるが、見返すとすぐに大人しくなる。
根性ねぇなぁ・・・。
おはよと挨拶をするとおはよと返事が返ってくる。
それだけでよかったはずなのに。
ある日。
いつも通り教室に行くと明らかに具合の悪そうなあいつの姿があった。
「おい、どうした、大丈夫か。」
考えるより先に体と口が動いていた。
「あ・・・おはよ・・・今日は・・・生理なの・・・。」
せいり?よく分からない・・・。
「しっかりつかまってろよ。」
意識せずお姫様抱っこで保健室まで運ぶ。
その間、なぜかこいつは顔をこっちに向けなかった。
耳が赤かくなっているようにも見えたがおそらく気のせいだろう。
「せんせーいるかー。」
「今度はどこケガしたの~?ってあらあらあら人間ちゃんじゃなーい。」
おっとりとしたホワイトタイガーの保健室の先生。
「なんか、せいり?っていうんだけど・・・。」
「あら、それは大変ね、ここに寝かしておいていいわよ~。」
言われたままにこいつをベッドに寝かせる。
ベッドに腰かけて声をかける。
「なんかいるか?」
「ありがとう・・・何もいらないかな。」
弱弱しくこちらを見つめる目から離せなくなる。
でも授業のために戻ろうとすると、指をつままれる。
「どうした?」
「・・・そばにいて欲しい・・・なんて。」
自分中で何かのスイッチが入った気がした。
「おう、いいぜ。」
「もーしょうがないわねー。」
保健室の先生もあきれ顔で許してくれた。
少しすると気持ちよさそうに寝始めた。
その顔を見ると思わず可愛らしさから笑みがこぼれてしまう。
あぁ、好きだなぁ・・・。
「その子のこと好きなの?」
「あ・・・。」
言われて気が付いた。
好きだと思ったことも。
「あー、まじかぁ・・・。」
ははっとはにかむような笑いがこぼれる。
「この子かわいいもんねぇ。あなたと相性良いんじゃない?」
先生も茶化さず、真剣に聞いてくれるのがすごく心地いい。
だからこそスラスラと言葉が出てくる。
「こいつを見てるとなんか守らなきゃってなるんだよな。
いろんな奴らが馬鹿にするけどこいつ以上に頑張ってるやつ見たことねぇもん。」
授業でも何か優れた能力があるわけでもないのにこいつは私たち獣に食らいついている。
それがどれだけすごいことか。
人間という種族のすごさはここにあるよなとつくづく感じている。
「こんなにちっこくて弱いくせにさ。負けじと追いついてくるんだぜ。惚れるよ。」
「ふふ、じゃぁ、しっかり守ってあげないとね。」
「おう。」
「というかその子起きてるんじゃない?」
先生がにまにまといやらしい笑いを浮かべる。
「おい、起きてんのかよ。おい。」
恥ずかしさで声が震える。
反対側を向いていた顔がこっちに向く。
「全部聞いてました・・・ごめんなさい・・・。」
顔を真っ赤にして視線が定まってない。
「はぁぁぁぁぁ、いやもう知られちまったら仕方ねぇや・・・。
友達から仲良くしてくれ。」
「は、はい。」
‐数年後‐
「ただいまぁ疲れたぁ。」
「あ、お帰り。」
まだ体に馴染んでいないスーツをポイポイと投げ捨てる。
「あ、こら。」
「ん!!」
怒られるよりもまずハグを催促する。
「もぉ、仕方ないなぁ。」
守るとは言ったが今では私が守られている。
ぎゅーっと抱きしめたのち、ソファに人間を座らせて膝の上に頭をのせる。
「ほんと甘えん坊だよね。」
「うるせー、お前がこうさせたんだろうが。」
「ふふ、それもそうだね。」
今は2人で楽しく幸せに暮らしている。
いじめられっ子 ネルシア @rurine
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