最終話 優しさの価値
「家まで送ってくださって、ありがとうございました」
クリスマスパーティが終わり、梓ちゃんのご両親にもう遅いからと自宅まで車で送ってもらった。お父さんの運転する高級セダンの後部座席から梓ちゃんが降りてきた。今日はおさげではなく、髪を下ろしている。普段と違う梓ちゃんも可愛いな。
「優斗さん、今日はお付き合いいただいて、ありがとうございました」
「こちらこそ。とても楽しかったよ。梓ちゃん、ありがとう」
突然、俺の首に腕を巻き付けたかと思うと、梓ちゃんは思いっきり背伸びをして、俺の頬にキスをしてくれた。
「優斗さん、メリークリスマス。大好きです」
そのまま後部座席に戻る梓ちゃん。
隣に座るお母さんに「よく頑張った!」とか言われて頭を思い切り撫でられていた。梓ちゃん、顔を真っ赤にしてすごく嬉しそうだ。
運転席のお父さんからは、じとーっとした目で睨まれていたが、俺が焦った様子を見せるとプッと吹き出して、軽く手を上げて許してくれた。寛大なお父さんで良かった。
「梓ちゃん、メリークリスマス。あとでLIME送るね」
嬉しそうに頷く梓ちゃんを乗せ、車は闇夜をヘッドライトで切り裂きながら走り去っていった。
自宅に入ろうとした時、夏美の部屋の窓の灯りに気付く。窓には夏美の姿があった。梓ちゃんとの今のやり取りを見ていたのだろう。ほんの数秒、夏美と見つめ合った。夏美は俺に頭を下げ、そしてカーテンを閉めた。
優 いつでもメッセージ送って
優 俺たちには話を聞くことしかできないけど
優 それで心が少しでも軽くなるなら、いくらでも話聞くから
梓 私はまだ子どもなのでお役には立てないかもしれませんが
梓 同じ女性としてお話を受け止められるかもしれません。
梓 今はとても不安ですよね。何でも言ってくださいね。
送ってもらってから三十分後、俺はまだ自宅の玄関前にいた。
夏美の部屋の窓のカーテンが勢いよく開かれ、夏美は驚きの表情で俺を見ている。
俺と梓ちゃんのグループチャットに夏美を招待したのだ。もちろん梓ちゃんにも事前に了解を取ってある。
夏 ふたりとも優しすぎるよ
優 男らしくないからな
梓 優斗さん、夏美さんをイジメたらダメですよ!
優 www
夏 ふたりともありがとう。
夏 私、がんばるよ。
夏 でも、どうしても辛い時は話を聞いてくれる?
優 俺たちはそれしかできないしな
梓 もちろんですよ!
夏 私、ふたりにあんな暴言吐いたのに……
優 もう忘れた
梓 私も!
夏 ふたりとも本当に本当にありがとう。
ここからでも夏美が泣いていることが分かる。きっとこれまでの軽率な自分の行いを反省しているだろうし、『優しさ』の価値を再認識できたと思う。
これから夏美に待ち受けているのは、出産、そして育児という現実だ。第三者の俺たちにできることは少ない。でも、夏美の心が折れないように、そして夏美の子どもが少しでも幸せになれるように、俺と梓ちゃんとで夏美の心の支えになれればと思う。
『優しさなんて一円にもならない』
そんな風に言うひとがいる。まぁ、それもひとつの真実だろうと思う。でも、それってちょっと違うとも思う。『優しさなんて一円にもならない』のは当たり前だからだ。『優しさは金銭に換算できないほど価値のあるもの』なのだから。物事の尺度を計るのは金銭や数値だけではない。すべてをデジタル的に数値で判別することなんてできないのだ。
今は、そんなアナログな『優しさ』を理解してもらいづらい時代なのかもしれない。それを理解してくれる梓ちゃんと出会えた俺は、本当に幸運だったと思う。
「優斗さん、大好き」
俺の優しさには一円の価値もないのかも知れない。
それでも、俺は優しい男であり続けたい。
梓ちゃんの笑顔をずっと見ていられるように。
梓ちゃんと手をずっとつないでいられるように。
優しさの価値 〜幼馴染みを寝取られた高校生の俺がある女子中学生と出会って価値がないと言われた優しさの本当の価値に気付くまで〜 下東 良雄 @Helianthus
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