第5話 夏美の末路

 クリスマスイブ。

 俺は梓ちゃんの家でご両親とともにクリスマスパーティに参加させてもらっていた。

 梓ちゃんは夏祭りでの出来事をご両親に話したようだ。俺の考えにご両親の信頼度はグッと上がったらしく、ご両親にお付き合いすることを許してもらうことができた。お陰で、こうして家族だけで楽しむはずのクリスマスパーティにまで誘っていただくことができた。

 梓ちゃんとは、お互いに性のことをきちんと学んでいきながら、慌てずに関係を深めていくことを約束した。

 ……でも、バイト帰りに自動販売機の前で、たまに抱き締め合ったりすることがあるのは内緒だ。


 一方、夏美は大変なことになっていた。


 二学期に入り、特に中盤以降は学校であまり夏美を見かけなかったので、学校までサボり始めたのかと呆れていた。俺の部屋から隣の家の夏美の部屋は手の届く位の距離にある。灯りが灯っていたので声をかけようとしたのだが、俺への夏美の歪んだ表情を思い出し、思い留まった。どうせ俺の言葉は届かないだろう。


 そして、十二月の初めの頃だっただろうか。夏美の部屋から怒鳴り声や泣き叫ぶ夏美の声、物が倒れたり壊れるような音、ガラスの割れる音が響いた日があった。学校をサボっていることを両親にこっ酷く叱られているのだろうが、それにしてもあの優しい夏美のお父さんやお母さんがここまで怒るのはよっぽどだ。

 それ以来、夏美の部屋の窓のカーテンは閉まったまま。夏美、大丈夫だろうか。


 後日、母親から事情をすべて聞くことになった俺は驚く。夏美は学校をサボっていたわけではなかった。自宅に引きこもり、学校に行くことができなかったのだ。


 夏美は妊娠していた。


 親ともずっと顔を合わせないようにしていたらしく、両親が気が付いたときはお腹がもう大きくなっていたらしい。どうするべきなのか、部屋でずっと悩んでいたようなのだが、そうするうちに堕胎できる時期は過ぎてしまっていた。せめて、俺だけにでも相談してくれていれば……


「赤ちゃんなんてそう簡単にできない」

「この薄いゴムが夏美と俺の愛を隔てる壁になっている」

「外に出すから絶対大丈夫」


 女性に対してあまりにも思いやりのない、そして馬鹿にした言葉の数々。普通に考えれば、こんな男とHしようだなんて絶対に思わないだろう。しかし、夏美はこれを『男らしさ』と感じていたようで、金髪と避妊せずにHを繰り返していたらしい。

 さらに驚いたのは、夏美があの金髪以外の不特定多数の男性とも関係をもっていたことだ。たくさんの男性経験を積み、経験豊富な女性というのがステータスだと考えていたそうだ。どこでそんな情報を仕入れたのかは分からないが、そういう女性はセックスを楽しむためにきちんと避妊をしているだろうし、性感染症の予防で男性にもコンドームをさせるだろう。その上で楽しむのであれば、そういう考えもありなのかもしれない。しかし、避妊もせずにHにふけっていれば、そりゃ子どもができる。しかも、彼氏のいる高校生。大問題だ。


 あの金髪も影で浮気をしていた夏美に激怒していたようだが、父親の分からない夏美の子どもを出生前親子鑑定(出産前に行うDNA鑑定)した結果、あの金髪の子どもであることが確定。夏美の両親は、金髪にどう責任を取るのか迫ったところ、金髪は高校を自主退学して、両親とともに姿を消したらしい。慰謝料やら養育費やらが莫大な金額になりそうだし、三十六計逃げるにかず、というところだろう。どこが『男らしい』んだ。


 結局、こういう時に泣く羽目になるのは女性の方だ。

 ひとりで子どもを産むことになった夏美。出産は春頃だろうか。年明けには高校を自主退学するそうだ。一応、ご両親がしばらくはサポートするらしいが、夏美の家もそれほど余裕のある生活をしているわけではない。生まれてくる子どもが幸せな環境で育ってほしいと心から祈っている。



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