「これは……‼︎」


 芦高山の中腹、廃坑の中は異様な有様だった。沢山の人間が、にかわのようなもので地面や壁に固められ閉じ込められている。

『奴が卵を産み付けているんだ。気の毒だが……もう助からん。奴を倒したら、焼き払おう』

「くっ……むごいことを」

 クルナが持つ松明たいまつ代わりの光る仕掛けに照らされる村人たちに戈門が南無三、と短く念仏を唱えた。その時、

『危ない‼︎』

 クルナが戈門を突き飛ばした。すれすれで、戈門は怪物の酸の唾液を浴びずに済んだ。だが、

『上だ!……くうっ!』

 クルナの左腕からは、しゅっと白い煙が上がり彼女は苦痛に顔を歪めた。天井に張り付いていた怪物が、二人の目の前に飛び降りて来た。

「クルナ!」

『大丈夫、軽傷だ。戈門、奴の動きを止めてくれ!』

「心得た!」

 戈門はクルナより譲り受けた光の剣の動弁スイッチを押した。ぶん、と音がして白熱の光の刃が形成される。

『刃に触れるなよ戈門。それは束ねて締めたいたずちで、烈火の炎だ』

 必殺の拳銃を構えながらクルナが警告する。

 戈門は駆け出した。怪物が吠えた。連続して飛来する酸の塊。だが来ると分かってむざむざそれを浴びる戈門ではなかった。鎌の尾は、光刃剣の逆袈裟さかげさに斬り飛ばされた。三本の腕が次々と戈門に掴み掛かったが、戈門の体捌たいさばきを上回って彼を捉えることは出来なかった。

「しえええええぃッ!」

 気合い一閃、巨大な飛蝗ばったの足を戈門の剣閃が一文字いちもんじに断った。

「今だ‼︎」

 た、たーんっ!

 坑道に二発の銃声が木霊こだました。

 戈門は見た。

 一発は怪物の巨大な頭部のかぶとのような部分に弾けたが、もう一発は怪物の口の中に確かに飛び込んだ。

「やった! うっ!?」

 勝ったと思った一瞬の隙に、戈門を掴む腕があった。怪物は苦痛にうめきながら戈門の首、右手と左手を三本の腕で掴んだ。

「くぁ……」

 息ができない。ぼきりと右腕から音がして、光の剣が地面に落ちた。不思議と痛くはなかった。

『カモン!』

「見事だクルナ。これでこいつは死ぬのであろう。おぬしは退け。俺のことは気にするな」

『しかし……‼︎』

「芦高の村人は残念だったが、こんな化け物が世に放たれなくて良かった。礼を言う。ありが……とう……」

 クルナは一度目を閉じ、そして大きく開けた。

『ダグ、ゴアヘデ砲だ』

『無理だクルナ。ゴアヘデ砲の使用申請はしていない。無許可の使用は服務規定にも連続体条約にも重篤じゅうとくな違反になる。今からの申請では最短でも』

『うるさい! 規則がなんだ! 責任は全て私が取る!』

『……分かった。安全シークエンスは省略する。クルナ、カモン──幸運を』


 次の瞬間、世界が真っ白になった。

 それは、辺りを見たし、目を瞑っても暗闇を許さない圧倒的な光だった。


 戈門は、自分が死んだのだと思った。


 だがそれは、間違っていた。



*** 了 ***

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光刃剣 邪獣斬り 木船田ヒロマル @hiromaru712

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