かっこう

伊識

第1話

 私の家はド田舎にある木造平屋。古民家と言えば聞こえはいいが、古臭くてあちこち傷んで夏は暑いし冬は寒い。時代に合った家具や家電をいくつ揃えても不便さが勝つようなオンボロ家だ。

 特に嫌なのが、居間の天井の梁の上にある鳥の巣だ。

 いつ頃どうして出来たのか分からない。けれど時々ピョッピョと鳴き声がして、床に羽根や虫の死骸の一部が落ちている。巣にいる鳥が落としたものだろうと思うのだけれど、巣に鳥がいるところなんて今まで一度も見た事がなかった。

 実体のない鳥の落とし物を日に何度も片付ける。昔は母がやっていたけれど、いつの頃からか私の仕事になっていた。

 羽根や虫の脚を箒で掃いてちりとりに集める。羽根は黒かったり灰色っぽかったり、たまに赤っぽい色が混ざっている事があった。そういう時は箒にべったり赤い汚れが付いてうっかり畳を汚してしまい、雑巾で拭き取る手間が増えるので面倒だった。

 この赤い汚れは虫の体液か木の実の汁のようで、汚れをしっかり拭いても数日はにおいが残り、食事時には吐き気を催してご飯が喉を通らないほどだった。

 私が箸を置く横で、家族は皆平然と食事を続けている。それどころか、においなんてしないと言う。おまけに、汚いと思うから気持ち悪くなるんだ、なんて言われる始末。巣を放置している事といい、私の家族はどこかおかしいのかもしれない。

 日頃のストレスがピークに達し、家族が寝静まった頃合いを見計らい、鳥の巣を撤去する事にした。ガラス戸から入る月明かりを頼りに脚立を設置し、箒を伸ばして梁の上の巣を払い落とした。

 巣は音も立てず転がり落ち、畳の上でわずかに揺れている。早く片付けようと脚立を降りて着地した瞬間、巣から何かがわらわらと溢れ出し、私は慌てて足を引っ込めた。

 いくつもの黒い小さな塊が畳の上を這い回っている。その動きは鳥ではなく、脚の多い虫のようだった。

 ばらばらに這い回っていた黒い塊達は徐々に居間の隅に集まり、瞬きをした隙に消えてしまった。

 脚立を降りて黒い奴らが来ない事が分かると、払い落とした巣を確認した。

 小枝が集まって出来た、よくある鳥の巣。箒の柄で巣を突いてみるけれど、特に何も出て来ない。

 巣の中を覗くと、内側は外側の枝と違う、白っぽい色の小枝で作られていた。底には赤黒い汚れが溜まり、骨に肉が付いた鳥の死骸が二つ入っていた。

 直接触るのは気持ち悪いので、ガラス戸を開けて箒で庭に掃き出した。死骸の肉のにおいを嗅ぎ付けた狸か猫が持って行ってくれるだろう。箒をゴミ袋に突っ込んで処分し、手を洗って布団に潜り込んだ。


 翌朝、家族はいつもと変わらぬ様子で、私が巣を撤去した事に気付いていなかった。

 ガラス戸越しに庭を見ると、巣がなくなっていた。夜中のうちに狸か猫が持って行ったみたいだ。

 居間へ行き、天井を見上げた。梁の上には鳥の巣があり、ピョッピョと鳴き声が聞こえた。

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かっこう 伊識 @iroisigi

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