白が廻る

十余一

白が廻る

 白、白、白。視界のすべてが白く染まっている。

 曇天に立ちこめる雲よりも白く、地面を覆う冷たい雪よりもなお白い。山あいを漂う春霞のような曖昧さは無く、夏空に浮かぶ入道雲のごとく堂々としている。まるで太陽に炙られる灼熱の砂浜のようだが、白く砕ける波はどこにも見当たらない。見渡す限りのすべてが等しく平らかだ。

 目がくらむ。眩しい。強い光の色が網膜に焼きつく。たとえ目を閉じてもこの色から逃れることはできない。

 気が触れそうになるほどの白に囲まれて、人の一生は白に始まり白く終わるのだと悟る。

 この世に産まれ落ちた純粋無垢な赤子は、祝福され乳白色の産着に身を包む。けがれを知らない無邪気な子どもは無地のキャンパスに夢をえがき育ってゆく。まっさらなノートに学び書き、洗いたてのタオルで青春の汗を拭く。

 肌に白粉おしろいをはたいて大人になり、しわひとつないYシャツで人生の岐路に立つ。オフホワイトのドレスでウエディング・アイルを歩き、やがて我が子にも祝福の産着を着せる。あるいは、ひとり楽しく卯ノ花の花道を歩くかもしれない。

 大切な人を送るときが訪れれば、涙がそのまま固まってしまったかのようなパールホワイトのネックレスが首元で悲しげに輝く。そして最期は、萩があしらわれた綸子りんずの着物をまとい眠る。その世に残るのはカルシウムの輪郭のみ。

 そうして眠った先にあるのは、きっとすべてが白く清らかな世界だ。苦しみも悲しみもないこの場所で、白に同化し漂白され次の機会を待つ。さようなら、また来世。

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