第7話

 俺は食後に家を目指して近道の裏路地を進む。

 進んでいたのだが……

「どうしたんだい君? こんな所で……」

「……」

 俺を観察するかのように立っていたのは、毛先に向かって黄色みがかった黄昏色の髪と黄金色の瞳を持つ一人の少女。

 こんな裏路地に子供……?

「お父さんやお母さんはどうしたんだい?」

「……」

 しかし女の子は俺の質問に答えるでもなく、ただただ俺のほうを見つめるばかりで、俺自身対応に若干戸惑う。

「じゃ、じゃあ君名前は?」

「……」

 流石に名前くらいは教えてくれないと俺、どうしたらいいのかわっかんねぇぞ……!

「……ない」

「えっ…… そ、そうか」

 名前がない、となると捨て子か?

 その娘をよく見てみると、彼女が身に着けていた服…… いや、服と呼んでいいのかもわからないくらい、身に着けた布はボロボロでひどく汚れていた。

 となるとここでそのままにしておくわけにもいかないよな。

「君、うちに来ないか?」


     *


「たっだいまー」

 扉を開けて呼び掛けては見るものの、もちろん一人暮らしなので、「おかえり」は帰ってこない。 

 下級冒険者は馬小屋に泊まったりすることも多い中、家を持てるっていうのはなかなか珍しいはずだ。。

 1LDK程の広さのテーブルとイス、それといくつかの最低限の家具類だけが置かれた無機質な内観の家。

 この世界で冒険者の飾りと言ったら、狩った魔物の剥製などになるのだが、知識のない俺が剥製を作ってみても、異臭を放ってだんだんと腐っていってしまったので、あえてこういうつくりにしている。

 そして……

「……」

 俺の足元の陰から顔だけを出して家の中を見渡す少女。

 俺が「どうぞ」というとテクテクと歩いて中に入って行き、机の下や棚の中を好奇心旺盛に見て回る。

 その動作は見ていてとてもかわいいと思えてくるが、何せ彼女の体はかなり汚れているので、そのままにしておくわけにもいかず……


     *


 近くの大衆浴場にて

 あまりに汚れていて風呂場に連れて来られた小女は、二人組の女子に囲まれて全身を泡だらけにさせられていた。

「全く…… ナガレ先輩も意外とお人よしだねぇ」

「ですよねぇ…… まさか捨て子を拾ってくるなんて、私が思っていたよりもあの人には良心があったみたいです」

「でもわかんないよ? 雑用係としてこの娘をこき使うつもりかもしれないねぇ」

「ああ、あり得ます。なんたってあの鬼畜のナガレ先輩ですからねえ。その時は私がこの子の面倒を預かりましょう」

「おい二人とも! ここの風呂は男湯と女湯の壁が薄いんだからぜーんぶ聞こえてるぞ! 誰が鬼畜だこの野郎!」

 壁の向こうで本人の悪口を好き勝手言っているリアとドーチ。

 流石に俺が女湯に入るわけのもいかないので、少女の面倒見をアイツらにお願いしたのだが、失敗だったか?

 とは言っても、女性の知り合いなんて数えるほどしかいないので仕方ないことなのだが……


「それにしても先輩、あの娘をこれからどうするんです? まさか本当に雑用係として……」

「おいてめぇら俺を何だと……」

 同じ男湯で一緒に湯船につかっていたレックスから失礼な憶測と同時に、純粋な質問を投げかけられる。

「まあしばらくはうちで面倒を見てやるとして…… なぁ、この街には孤児院的な場所はあったりするのか?」

 するとレックスは俺からの質問に対してしばらく考えた後、渋い顔をしながら答える。

「あるにはあるんですけど…… やめておいたほうがいい気がするっす」

「どうしてだよ?」

 俺からの問い返しに対して、「うーん」とまたもや考え込みながらその問いにレックスは答える。


「先輩は少し前にこの国へ来たばかりだと言ってたっすよね。ここエイコーン王国は昔から大規模な農業が営まれて発展してきた国なんす。昔は農産物を他国へ輸出して利益を得てたわけなんすけど、ここ最近は土地もやせ細って農作物の量も質も悪くなり、その内に農業大国としては二番手だったウィートっていう国がこの国を抜いて、安くて品質のいい品が出回るようになったせいで、この国の経済は衰退していっているんです。だから孤児院なんかには国からの支援金はあまり出ずに環境は正直劣悪っすよ」 

「……」

「なんすか? その意外そうな目は」

「い、いや。戦闘狂バーサーカーであほのお前がここまで博識だったとは……」

 正直びっくりしている。

 なんたって五芒星のレックスは町のみんなからの共通認識として、あほの子として定着していたのだ。

「博識? ああこれは何日か前にうちのパーティの爺さんが行ってたことを丸暗記で覚えただっけっす。あとハクシキってなんすか?」

「やっぱりあほの子なのか! というかそんな普通聞き流してそうな話、なんで丸暗記しているんだよ! その脳のスペースをもっとバランスよく使えよ! 記憶脳でかすぎだよ! 自分以外の住人を追い出そうとする迷惑隣人アパートかよ!?」

 俺の異世界由来のボケはもちろん通用せず周りの後輩たちはそんな時、俺を最初からいなかったものとして無視をするのだ。

 いつもは俺を慕ってくれているはずの後輩君たちだが。

 なんかみんな…… 時々冷たい……

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虚像のナガレ  サカミナ525 @Sakamina525

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