第20話
(なる程。その手があったか!)
零次が行った行動。それはとてもシンプルな行動だ。そう、ただ身をひるがえしドアを手前に引く。つまりは逃亡だ。
「※※!!」
「うおおお!!」
竜のブレスが発射される。それとほぼ同じタイミングでドアを閉める事に成功した零次。外界での出来事が嘘のように室内は静寂に包まれていた。
「はあっ…はあっ…はあっ……」
零次は警戒態勢を崩さない。次の瞬間にはこのドアを破壊しあの竜が乗り込んでくる可能性も0ではないからだ。
(俺はまだこの居住空間のことをほとんど理解できていない。だが手持ちの情報である程度推察することは出来る)
「考えろ。考えるんだ。思考を止めてはいけない」
零次が今一番警戒していること。それは入り口と出口が一か所に固定されているという事実だ。
(おそらくこの空間とあの世界とは次元が違っている。だからあのドラゴンのブレスでもドアは壊れなかったんだろう。耐久性に問題はない)
(だが、この空間を継続して使用するためにはコインが必要だ。残念ながら手持ちのコインは0。現時点でこの空間での籠城は不可能だ)
(そして出入口は1つしかない。遅かれ早かれ俺はこのドアから外に出なければいけない。まったくハードモードな話だな…)
零次が手元のスマートフォンを確認する。表示されたデジタル時計はゆっくりと時を刻んでいた。今この瞬間も時間は経過している。
「迷っている暇は無いか…ちくしょう。やるしかない」
今この瞬間こそが零次にとって最大のチャンスなのだ。敵が自慢の攻撃を避けたという事実。そして零次の姿が消えたという事実。予想外の事象の連続は思考を鈍らせ隙を生む。その事を零次は理解していた。
「…っ!!」
故に零次は迷いなくドアの外に飛び出す。そこには驚愕に瞳孔を開く竜の姿。
(恐れることはない。俺がやる事は1つ。その1つに集中しろ)
「※※!」
竜から放たれる音速を超えた横なぎの一撃。それを零次はスウェーで回避し竜の左側へと流れるように体を移動させる。
「※※っ!?」
「___‘アンラッキーマーク×4‘」
零次が魔法を発動。竜の左腹の同じ場所に素早く4回触れる。
(これで条件は満たされた。後は…っと!!)
巨大な腕が零次の頭部を狙い振り下ろされる。だがそれを当然のように零次は躱していた。
(初見かつ意味不明な魔法を使われた場合、まあそういう行動に出るよな)
回避と同時に零次はベストポジションを調節していた。最も効率よく刻んだ印に打撃を与えるための場所取り。その条件は今この瞬間に満たされた。
「___‘アクティベート!!‘」
無造作に踏み込まれる左足。それから0.2秒で繰り出される前方への体重を乗せた右足。近接戦における定石技の前蹴りが竜の左腹に直撃する。
「※※っ!?!?」
極大の魔力が込められた前蹴り。それを叩き込まれた竜の巨体がダンプカーに吹き飛ばされたゴミ箱のように森の中へと飛んでいく。
「まじかよ…4倍の威力で吹っ飛んだだけか…あのドラゴンちょっとヤバいかもな」
零次が使用した魔法「アンラッキーマーク」は大本の能力「二重思考」から派生させた魔法の1つだ。
(この魔法はそれ自体に攻撃性はない。だからこそ細かい条件を付けて限定的な場面でのみ効果を発揮するように調整してある。そうでもしないとここまでの威力は出せないからな)
重ね掛けが可能なマーキング魔法。同じ場所に4つ印が重なり、その上で同じ場所に攻撃が命中した場合のみ、その威力は4倍に引き上げられる。
クレイジー・モンスター ~アプリゲームで世界征服~ 骨肉パワー @torikawa999
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