一章
第0話
その日の夕飯は喉を通るような気がどうしてもせず、申し訳ないものの僕は夕食を断った。
リビングと呼ばれる大部屋から人々が忙しく活動する音が聞こえてくる。
僕は孤独が嫌いだった。理由は、単純に一人になると自然に暗い気持ちが湧いてくるからだ。
僕は窓の外を見ていた。無意識に人の姿を求めていたのかもしれない。
昼間の地獄のような光景とは裏腹に、空は綺麗に澄んでいていくつもの星が煌めいていた。沢木は、この建物はかなり山奥で人が少ないところだと言っていた。
人の明かりが少ないから星星は美しく見える。確かにそのようだ。
外の廊下を誰かが歩く足音が聞こえる。ハイヒールの音だ。今までこの建物を歩いた時にすれ違ったのは男性が多かった。
誰だろうか。少しだけ気になってしまった。
足音が立ち止まる。……部屋の前で。
……。
一応、身構えていたのだが何も起こらない。ドアを開けられるのも、ドアをノックされるのも、そっとドア越しに僕の名前が呼ばれるのも、それすらも起こらなかった。
それがまた僕の興味をそそった。でも、僕からドアを開けるのは何か違うような気がする。だから僕は沈黙したまま沈黙する扉から目を離した。
再び足音が動き始める。時計が秒を刻むように。
僕はここで意を決して部屋のドアを開けた。
僕はその子が僕に何か話したいことがあったのだと考えていたのだが、もしかしたら違かったのかもしれない。
イミナちゃんとは真反対の、短い髪の毛。やっぱりハイヒールを履いている。彼女の正面の窓から差し込む月光が、彼女の成熟した輪郭を照らし出している。
その子は確実に僕の方を見た。
東京、血濡れた君の手を取る 魚峯 @0543687330
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