カマキリ
動画を上げたとして、実際これを見てくれる人はどのくらいいるのだろうか?
いや、ちょうど僕みたいな層に需要はあるのだろう。
人は自分より下を見て安心する。そんな層。下と言うのは別に人物だけの話ではない、様々な物事に対してだ。
僕は社会の底辺だ。だからきっと人生に不安を抱えた思春期の学生や、引きこもりや不登校になってまだ間もない奴らは僕を見て安心するだろう。
そんな奴らは「どんな事が起こっても、この人より下にはならない」、余裕から励ましの言葉を投げかけるはずだ、実際に僕もかつて投げかけたし、投げかけられているのを見た。
だがその結果がこれ、今の僕だ。
人を下に見ても得られるのは一時の安心感と優越感のみ、それが悪いことだとは言わないが、もしわざわざ下に見る人を探しに行くなら。
そんな馬鹿なことはないだろう。
だが実際にいるのだ。わざわざ
引きこもり 生活
ニート 生活
などと検索して安心する奴らが……じゃなきゃただ人が髪を切る姿が100万再生などされないし、引きこもりの実態の動画が400万回もされるはずがない。
僕もかつてはこれで安心していた。完全に馬鹿だった。 その結果がこれだ。全く笑えない。
下に見るべきなのは過去の自分なのだ。
過去の何も出来なかった自分を下に見れば得られるのは優越感と安心感ではなく達成感である。
達成感は自信に変わり、自信は行動に変わる。
そして行動は結果へと繋がる。
言うのは簡単だが実現するのは難しい。まず、自分を下に見るための行動を起こさなければならないからだ。
それさえ出来れは好循環だが、出来ないからこんな事になり、あんな動画を見るのだろう。
あんな動画と言っちゃいるが僕自身あんな動画をアップロードしようとしているのだから、笑えない。
………うん、どれだけ
だからここは動画をアップロードするべきだろう。
それだけだ。
どれだけ人間について語ろうが自分の状況は変わらないのだからまあ無駄……なんだろうがやめられない。
これも引きこもりのうちに身についてしまった癖だ。恐らく暇つぶしの一つ、これが11年間の集大成の1つがこれとは、悲しくなる。
まあいい、これでやることは決まった。
まずはスマホに適当な動画編集アプリを突っ込んでから編集し終わったものをネットにアップロードする。
そして次は部屋の掃除だ。
それから……うん、身の回りを整えてから職を探そう。
ほかには……………
……思った以上にやるべきことが少ない。これなら夏休みの宿題のほうが多かったくらいだ。
10年以上前の記憶だが、実際そうなのだろう。
いや……待て……他に……何か……
必死にやるべきことを探す。
いや、きっと……
いや恐らく……
いや……………絶対……
そうだ。認めたくないだけだ。11年間、こんな淡々とこなせるものがずっと出来なかったことを。
自分の社会復帰の足に付けられていた鋼鉄の鉄球は外側だけで、中身はただの発泡スチロールだなんて。
カマキリは自分より大きな人間にも体を大きく見せ威嚇するらしい。
そんなもの人間だったらデコピンで終わりだし、二本指で捕まえられる。
だけど行動を起こすまでは分からない。
カマで切り裂いて来るのかもしれないし、噛みついてくるかもしれない。もしかしたら何か毒のようなものを
僕には分からなかった。
髪を切ってパソコンを壊す。
こんな全て一日で出来そうなことに11年間の準備期間を費やしたのか……それが引きこもりなのか。
たが僕は次の段階、動画編集を1時間もない準備期間で実行しようとしている。
過去の僕が出来なかったことを行い、圧倒的に上に行き、成長している。
優越感……ではないこれは達成感だ。
うん、そうだこれでいい。
11年間掛かったという点では全くよくないが。
突然だった。
誰かが階段を登り、僕の部屋まで来ている足音がした。
現在時刻は少したち、午前3時40分。
おっと、やはりパソコンの破壊に掛かった時間は10分程度か。
こんな時間にな………違う、こんな時間ということは……まあそういうことか、悪いことをした。
さて……
だんだん足音は大きくなり、ついにはガラッと勢いよく部屋の引き戸が開かれる。
引きこもりはかつての夢を見る 谷春 蓮 @asutorarutai
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