第6.5話 ただの夢、あるいは
ここがどこなのか。ユノには分からなかった。
目の前にいる和服の男が何かを叫んでいる。彼の顔はぼやけていたが、ガイアであると確信できる何かがあった。
彼は大きな声で何かを言っている場面を見たことがない。普段は温和で優しい雰囲気を漂わせ、怒るときも丁寧であることを忘れないような人。
怒鳴りつけるように張り上げた声を出さなければならない理由が彼にあったのだろう。
心配になり、前に1歩足を踏み出す。足先に硬いものが当たり、反射的に下をみる。
下半身を失ったヨルの死体の後頭部にユノの足先は触れたようだ。
悲鳴をあげようとする。しかし、声が出ない。後退りするが、足がうまくついてこない。尻もちをついてしまう。
視線がヨルの死体からガイアに移った。
声にばかり気を取られて、彼の姿や格好をやっと認識する。
全身のどこを見ても血がついている。自分自身のものなのか、返り血なのか。どちらにしろ、恐ろしい光景が広がっている。
耳にガイアの声がしっかり聞こえた。
「あなたが......」
誰に向かって言っているのだろうか。
「私に...勝てるわけがないでしょ!!」
何もわからないが、ユノはこの状況を止めなければと手を伸ばす。
視界が変わり、自室の天井を見上げていた。何も変わらないユノの自室。
頬に伝うものに気が付き、右手で頬を撫でる。手のひらに液体がついていた。自分が涙を流していることを知る。
夢は見たあと、長くは覚えていられない。このときにはすでに夢の内容を覚えてはいなかった。その為、泣いている理由を理解できなかった。理解できないことへの困惑より、悲痛に近い感情が彼女の心を満たした。
枕元に置いている置き時計を持ち、確認すると午前3時頃を示している。
まだ眠れる。彼女はベッドに横になり、寝るために目を閉じた。
クイーンズサーヴァント 柑橘系蜜柑 @sakuramik232
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