夜の火事
夜が冷たくなると思い出す。
暖かい部屋でゲームに熱中していると、ふと西の外から異様なざわめきが響いてきた。
何かが起きている、その予感が背筋を駆け抜け、僕はゲームコントローラーを手放していた。
外に出てみると、いつもは穏やかな家並みが、空っ風に煽られた大きな炎に照らされていた。
そこには大勢の野次馬が集まっており、不気味な熱気が渦巻いていた。
火事の現場は、僕の家から南西方向、直線距離で50メートル足らず。
その景色は荘厳で、息を呑むほど美しかった。
不謹慎だとは思ったが、それでもその炎は美しく鮮烈な色で夜を染めていた。
隣近所の人々が、自分の家を守ろうと必死にホースで水をまく姿が目に入った。
やがて消防車が何台も到着したが、消防士たちは燃える盛る家屋を前に立ち尽くしていた。
どうやら、水の確保ができなかったらしい。
その無力感が、現場の空気をさらに重くした。
家屋は全焼してしまったが、その火事での死傷者はゼロだった。
しかし、家主の所持品は全て燃えてしまった。
あの炎の中で、家主の想いも灰になってしまったように感じられた。
物などあるから、余計な執着が生まれるのかもしれない。
死を前にして、本当に必要なものがどれほどあるだろう。
断捨離をして、あらゆる執着を手放さなければならない。
しかし、やるべきだとは思いつつ、なかなか実行に移せないでいる。
僕はまだ死を甘く見ている。
タナトフォビア @omuro1
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本気と建前/@omuro1
★54 エッセイ・ノンフィクション 連載中 33話
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