17 新聞部
城の地下で自分たちの系譜の秘密と力の源を知ったレントレートとナナミ。
しかし、それを知ったところで真祖会議に意見できるわけでもなく、曲剣を常に帯剣する以外は変わらぬ日常を過ごそうとレントレートは努力していた。
今日も変わらず授業に出席し、そして午前4時。ナナミと共に城を出てブルーブラッド3号寮へ帰ろうとしたそのときだった。
「レントレートさん!」
知った声が背後からレントレート達を呼び止める。
振り返れば、チエミがナイトと一緒にいた。
腕章を見ると、ナイトは変わらず青色腕章だったが、チエミさんの腕章が赤紫色腕章になっていた。
チエミさんに戦闘力はあまりないはずなので、守護騎士であるナイトが決闘に勝って腕章を主であるチエミさんに献上したというところだろうか。アデリーナさんもだが、学園長の魅了の魔眼に耐えた二人だから、不思議なことではない。
レントレートは内心やるじゃないかと思っていた。
「チエミさん、それにナイト。私達に何か用?」
「はい。実は……私ヴァンプリアナ新聞部に所属することにしたんですが……」
「新聞部に……?」
ヴァンプリアナ新聞。ここヴァンプリアナにおけるメインの情報調達手段だ。
決して城に通う生徒たちだけが読者ではなく、周囲の商業区や一般市民区画の者たちもみなこのヴァンプリアナ新聞を毎朝のように読んでいるらしい。レントレートもヴァンプリアナに越してから、数度購入して読む機会があった。
内容は学園内でのこと以外に、この学園都市ヴァンプリアナ全体での情報が多かった。
やれヴァンプリアナの◯周年記念行事はいつだ。花火大会はいつだ。今日はこの店が半額だなどという文言が踊っていた。
「それで、レントレートさん達にインタビューが出来ないかって皆で話してて……」
「私達に?」
レントレートはナナミと顔を見合わせる。
「はい。できればナナミさんとお二人で30分くらいでいいので時間を作って頂けませんか?」
「それは……私は構いませんけれど……ナナミは?」
「私はレントレート様がお受けになれとおっしゃるのならば……」
ナナミはそう言ってこくりと頷くだけだ。
私が決めなければならない。そう思うレントレート。
「じゃあ二人でインタビューお受けします! 今からですか? それなら空いてますけど」
「えっと後日でよろしくお願いします。私以外に新聞部の先輩方も加わる予定なので……この日はいかがでしょう?」
チエミと共にインタビューを受ける日程を詰め、そしてインタビューは明後日、学校が終わってからということになった。
何を聞かれるのかは分からないが、大方エドガーとの決闘やアレクとの戦闘試験についてだろう。そう考えるレントレートだった。
∬
二日後。授業を終えたところにチエミさんがナイトと共に迎えにやってきた。
そうして城の一室へと案内される。
部屋に入ると、魔導カメラを用意した記者らしき生徒たちが数人待ち構えていた。
そのうちの眼鏡をかけた女性が私達に話しかける。
「こんばんは! 私は新聞部部長のノエル・カーマイン。これでも一応3年の珊瑚色腕章よ! よろしくレントレートさん! それにナナミさんも!」
腕章を指し示しつつそんな自己紹介をして、気さくに握手を求めてくるノエルさん。
レントレート達は握手に応じると、椅子に座るよう促されたのでナナミと共に座った。
「まず最初に1枚撮らせて頂戴。あ、合図をするので10秒くらいまばたき無しでお願いします。そうしないと半端に目を閉じた写真が出来上がっちゃうから! はい! じゃあお願いしまーす」
そう言って、10秒間まばたき無しで椅子に座ったまま静止するレントレート達。
レントレートは魔導カメラで撮られるのは初めての経験だった。きっとナナミも同じに違いない。
「はい! ありがとうございました。それじゃあインタビューに入らせて頂くわね。まず第一に入学式での学園長の最終試験について……」
レントレートとナナミは思い出すようにインタビューに答えていく。
入学式での魅了の魔眼抵抗試験に始まり、ヴィクターの新入生狩り、エドガーとの決闘……。
そして話は戦闘試験におけるアレクとの戦いの話になった。
「あのトゥルーヴァンプに最も近いと言われている男を倒した感想は?」
「えっと……無我夢中だったので勝ててよかったです」
「それだけ? もっとこう何かないかしら?」
「えっと、強いて言うなら力を暴走させることなく勝てて良かったなって……」
「暴走ですか?! レントレートさんの力は制御が難しいのでしょうか?」
「あぁ……えっと、はい。あの時初めてまともに力を使ったので……」
記者はレントレートの受け答えを詳細にメモしていく。
そしてナナミとの魔力暴走事故についても聞かれた。
「なんでも1年の珊瑚色から真紅色クラスにおけるルナーテ先生の特別授業で事故が起きたとか……? それもレントレートさんの力の制御が難しいことに起因しているのでしょうか?」
「それは……そのように思います。ナナミとルナーテ先生がいなかったらどうなっていたか……」
「レントレートさんの暴走した魔力をナナミさんとルナーテ先生が処理して事なきを得たと……?」
「はい。そうなります」
「ナナミさん、どうしてそのようなことが出来たのでしょう? ナナミさんはただの人間の守護騎士ですよね?」
「はい……まぁ……これ以上はお答えできかねます」
ナナミがレントレートの方に視線をやってから、ふるふると首を横に振った。
「ではレントレートさんにはどうしてそのような力があるのでしょう? 準男爵家出身者として何か特別なことをしておいでですか?」
「いえ。特別なことは何も……」
毎日ナナミの血を青血化して飲んでいるなどと口走らないように注意しなければならない。ましてや真祖の血族だとか、ナナミの特殊な血のことなどを明らかにしてはならない。レントレートは緊張でいっぱいだった。
「これ以上はお答えできません。別の話に移って頂くか、これでインタビューを終了させてください」
レントレートの緊張を察してかナナミがそう言葉を挟み、それ以上追求はされなかった。
「では最後にもう1枚写真を頂きます! はい、いきまーす」
ぱしゃりと1枚写真を最後に撮られて、インタビューは終了となった。
「はい。お疲れ様でした。じゃあチエミちゃんあとはよろしく!」
「は、はい! レントレートさんナナミさんお疲れ様でした。城の入口までお送りします」
チエミさんがそう言い、レントレート達は新聞部を後にした。
「わ、私、レントレートさんを友達だと思っていましたけど、知らないことがたくさんありました。レントレートさんは公爵家のご令息にも負けない凄い人なんですね!」
道中チエミさんがそう言って自身の項の辺りを照れくさそうに擦る。
「そんなことないよ。私は私だよ。これからも友達で居てね、チエミさん。それにナイトも!」
「はい! それはもちろん!」
チエミさんが優しく微笑み、ナイトが「おうよ!」と答える。
そうして城の入口まで来た、そんな時だった。
突如として、数人の吸血貴族らしき人影に周りを囲まれるレントレート達。
ナナミは臨戦態勢を取り、ナイトもそれに続く。
「何者だ!」
ナナミの発した言葉に、一人の吸血貴族らしき男が進み出た。
「我々は真祖会議が一柱、疾風のアルバトロ・ヴェント様の騎士だ。
レントレート・ヴァエル殿とその守護騎士のナナミ殿とお見受けする」
「それがどうしたというのだ! 無礼だろう!」
ナナミが大声で一団を牽制する。
「できれば戦いはせず、我々にご同道願いたい」
そう言う男だったが、その手には剣が握られていた。
「悪いが断る! レントレート様はここヴァンプリアナに所属している学生の身分だ! 最低でも学園長であるミレイユ・ブラッドムーン様を通せ!」
ナナミの言葉にレントレートも覚悟を決め、曲剣を抜いた。
「では……少々痛い目に会って頂く」
敵の吸血貴族が言い、戦闘が始まった。
吸血貴族と人間の守護騎士 ~母の遺言で雇った守護騎士が実は勇者と聖女の娘だった!? 彼女の血を飲み続けることで大幅パワーアップ。どうやら真祖の頂点も夢ではないようです~ 成葉弐なる @NaruyouniNaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。吸血貴族と人間の守護騎士 ~母の遺言で雇った守護騎士が実は勇者と聖女の娘だった!? 彼女の血を飲み続けることで大幅パワーアップ。どうやら真祖の頂点も夢ではないようです~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます