第4話
水の流れは、ますます早くなっていく。
どうすることもできないなか、必死に手を離さないよう強く握りしめた。
すると、下水が凄い勢いで吸い込まれている所が見えてきた。
うんちゃん達は流れに逆らうことができず、その中に吸い込まれていった。
(うわーーー!!)
トンネルの中をもの凄い勢いで抜けると、突然流れのほとんどない水槽のような中に出た。
ゆっくりとした流れに乗り進んでいくと、泡がブクブクしているところに着いた。
初めての空間に、うんちゃん達は見惚れていた。
すると、たくさんの微生物がワイワイ言いながら近寄ってきた。
「うわ~とても美味しそうな色艶だね~」
「ああ待っていたよ!お腹ペコペコで、こんなに痩せちゃった」
「さあ、どんな思いがこもっているか、じっくり食べさせてもらおう」
そう言うと、微生物達は、うんちゃん達をもぐもぐ食べ始めた。
(うわーー!体を食べられる。助けて―!もう終わりだ)
もぐもぐ食べながら微生物は言った。
「もぐもぐ。大丈夫だよ。本当の君は消えたりしないから」
うんちゃん達は気づいた。全然嫌な感じがしない。
むしろ、どんどん綺麗になっていく喜びに包まれていく。
(あれ?本当だ。とても清々しいような、気持がいいような)
うんちゃん達が微生物によって体についた澱を食べられていく中で、その情景は目の前に浮かんできたのだった。
バナナうんちゃんは見ていた。
その男性は、落ち込む誰かの肩を抱いて笑顔で励まし続けていた。
また、次の場面では男性が誰かに頭を下げて必死に謝っていた。
さらに次の場面では、男性は一人涙を流していた。
それでもまた場面が変われば、皆に笑顔を振りまいているのだった。
コロコロうんちゃんは見ていた。
気難しそうな男性が、眉間にシワを寄せて皆の仕事を見守っている。
食事も不規則で栄養が偏り、水分もあまりとっていない。
細かいところにまで目を通して、間違いを指摘している。
そこまでしてまでも、達成したい何かがあるようだった。
誰かが感謝の言葉を掛けても、笑顔を浮かべる事無くその者に発破を掛けるのだった。
ひょろひょろうんちゃんは見ていた。
食が細い女性だった。
優しい性格だったが、自分を強く主張することが苦手だった。
それでも皆に優しい笑顔を振りまいた。
もっと食べなきゃと思って頑張っても、中々喉が通らず挫折を繰り返した。
周囲が心配して掛けてくる声が重荷となったが、それでも毎日ちょっとずつでも頑張っていたのだった。
ビチャビチャうんちゃんは見ていた。
毎日の生活サイクルを、ストレスとして受け止めてしまう神経質な男性だった。
責任感が人一倍強く、周りに迷惑を掛けられないと一人頑張っていた。
やがてその責任感が心配性に繋がり、毎日何かに追われているような生き方となってしまった。
視野が狭くなった生き方はとても窮屈で、ますます神経質になっていった。
何かしらの薬を飲まないと生きていられないほどに、雁字搦めになってしまったのだった。
微生物達は、お腹いっぱいになると体が何倍にも膨れ上がり、重たくなって下に沈んでいく。
下に沈んでいく微生物が、うんちゃん達に言った。
「もう安心してね。君たちに付いていた痛みや苦しみは、僕らが全部いただいたから。あとはゆっくりと、この星に戻していくよ。君たちの今のその姿が、本当の姿だよ」
そう言われてバナナうんちゃんは自分の体を見てみると、透明な水のような状態になっていた。
(うわ!体が無くなった!死んじゃったよ。消えちゃったよ)
悲しくなっているバナナうんちゃんの心に、直接声が入ってきた。
(おいおい、まだ生きているよ。これが本当の俺たちの姿なんだろう。ほら体の中に星のような光があるだろう。これが俺たちの魂なんだ)
バナナうんちゃんは、自分の体を改めて見てみると、体の中に光があった。
(ほんとだ。光がある。僕達は水だったんだ。グルグル回っていくうちに、うんちになったんだね)
やがてうんちゃん達は、大きな海に着いた。
自分達の生まれた場所に、辿り着いたのだ。
空を見上げると、たくさんの星が光り輝いていた。
バナナうんちゃんは、星を見ながら蛇から聞いた話を思い出していた。
決してこの世界に不要なものなど一つも無くて、全てがとても尊いものなんだと。
当りまえに在るものが、どれほど凄い事なのか忘れてはいけない。
グルグル回っていくのち、色々な事を背負って、見た目が変わっていくけど、本質は何も変わらないんだ。
また少し休んだら、新たな冒険が始まる。
次の冒険には、どんな出会いがあるだろうか。
ふと夜空を見あげれば、沢山の星たちが笑ってくれていた。
うんちゃんの大冒険 遠藤 @endoTomorrow
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