第3話
突然、ねずみが横穴から大慌てで顔を出すと皆に叫んだ。
「水が来る!大水がくるぞ!ゲリラ豪雨だ。急がなきゃ、急いで逃げなきゃ」
上流の下水管の奥の方から、大きな音が聞こえ始めた。
蛇はうんちゃんたちをきつく睨むと、最も大切な話をした。
「いいかい、お前たちには生んだ人間の思いが込められている。その思いを天に還すことが、お前たちの宿命だよ。その宿命を果たせないと、お前たちを生んだ人間たちに不幸が訪れてしまうんだ。さあ、迷わず行きなさい。辿り着くべき場所はもうすぐだよ。それと、そこに居る、水状の仲間も連れていってあげるんだ」
言われた方向を見てみると、油が浮いていた。
油が僕らの仲間なのかと疑問に思いながらよくよく見て見れば、ビチャビチャうんちゃんが油にくっ付いて浮かんでいた。
バナナうんちゃんは、奥からの水の音に危機感を覚えながらも、ビチャビチャうんちゃんに叫んだ。
「急ごう!水が来る前に行かなきゃ!」
しかし、ビチャビチャうんちゃんは青白い顔をして動こうとせず、か細い声で言った。
「ぼ、ぼくの事はほっといて」
コロココうんちゃんが口を挟んだ。
「ふん!ほっとこうぜ、なんだか病気持ってそうだから、近寄らない方がいい」
バナナうんちゃんはそう言われても、どうしても連れて行かなきゃとの思いが強くあった。
「駄目だよ。ここに居たら君を生んだ人間が不幸になっちゃうよ。役目を果たして、君も幸せになろうよ」
それでも渋るビチャビチャうんちゃんを、バナナうんちゃんは手を伸ばして無理やり引っ張った。
油からなんとか剥がされたビチャビチャうんちゃんを連れて、辿り着くべき場所を目指す決心をした。
轟音が鳴り響き、下水の量が増え始めた。
蛇も下流に逃げながら、うんちゃん達に叫んだ。
「いいかい!自分を信じて進むんだ!分らなくてもいい!必ず辿りつけるから自分を信じなさい!」
バナナうんちゃんはそう言われても、流れに任せる以外になかった。
(でも、行けと言われてもどこに・・・)
水量が爆発的に増え、流れが急激に速くなる中、うんちゃん達は手を繋いで離れないよう必死だった。
すると、流れの先で二方向に分かれているのが見えた。
コロコロうんちゃんが叫んだ。
「おい!先が分れているぞ!どうするんだ」
バナナうんちゃん反射的に答える。
「わ、わからない!」
バナナうんちゃんには、わからなかった。
迷っている時間などないほどに、目前に迫ってくる。
その時だった。天井付近を飛ぶコウモリが叫んだ。
「左だ!左がお前たちの行く方向だ!」
そう、一言を残してコウモリは消えていった。
信じていいのか、正直バナナうんちゃんにはわからなかった。
でも、自分の心は言っている。
信じようと。
もう、自分を信じるしかない。
うんちゃん達の顔を見れば、皆決断を待っている。
信じるんだ!
バナナうんちゃんは、必死の覚悟で叫んだ。
「左だ!」
それを聞いたうんちゃん達は、流れの左側に乗れるよう必死に体を動かした。
ギリギリのところでなんとか、左側の下水管に入れた。
右側は豪雨時に、緊急的に川に放流される門へと繋がっていたのだった。
コウモリの言葉を信じると決意した自分を、バナナうんちゃんは貫いたのだった。
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