第2話

そんなうんちゃん達を、下水道管の天井のくぼみにぶら下がって見ていたコウモリが、厭味ったらしく言ってきた。

「何が優しいだ。お前たちは汚い汚い汚物だ。この世界にはいらないものなんだから、さっさと消えて無くなれ。あ~臭い臭い」


コウモリはそう言うと、ぶら下がりながら糞を落とした。


バナナうんちゃんは、そう言われて心が傷ついてしまった。

(やっぱり、そうなんだ。僕はやっぱり不要物なんだ。みんなそう思っているんだね。早く消えてなくなりたい・・・)


コロコロうんちゃんは言った。

「ははは、そりゃそうだろう。なんてたって排泄物なんだからな。お尻から出てきた不要なものなんだから。わざわざ言われなくても、そんなことぐらいわかっているわ!」


コウモリはそれに言い返す。

「わかっているなら、さっさと消えて無くなれ!あ~臭い臭い」


横穴からねずみが顔を出してきた。

「なんだなんだ喧嘩かい?こんなところで、喧嘩しても何にもならないよ」


コウモリはねずみを見ると言った。

「お前には関係のないことだ。なんでもかんでも首を突っ込むな。偉そうな奴だ」


ねずみはコウモリの言い草にカチンときた。

「なんでもかんでも首を突っ込むのは自分だろ。暗い所ばかり居るから性格も陰険だ。ああ嫌だ嫌だ」


コウモリの怒りが爆発する。

「このやろう、何が陰険だ!ねずみのくせして調子に乗るなよ!下水に落としてやる!」

そう言うと、コウモリはネズミに体当たりするかのように襲い掛かった。

ネズミも牙を剥いてコウモリを迎え撃つ。

その時、下流側の暗がりからニョロリと蛇が姿を見せた。


「なんだいなんだい、うるさいね~」


ネズミは蛇の気配を感じると、慌てて横穴に走って逃げた。

コウモリも、蛇は苦手なのかどこかへ飛んでいった。

気づくと、辺りが一気に静かになって水の音だけとなった。

蛇は白い体をした白蛇だった。

蛇は邪魔もの達が消えたのを確認すると、うんちゃんたちに語りだした。

「お前たちは、自分について悩んでいるようだね」


バナナうんちゃんは、縋るように蛇に尋ねた。

「僕たちは、なんのために生まれてきたの?」


蛇はうんちゃん達を見渡しながら言った。

「この世の全ては循環でできている。全ては、グルグルと円を描くように回っているんだ。それは絶対であって、例え宇宙であっても変えることはできない。お前たちはその循環の中で存在している、言わば一種のエネルギーみたいなものなんだよ」


バナナうんちゃんは意味がわからず何も言えなかった。

「・・・」

蛇はギョロリとバナナうんちゃんを見つめると、舌をシュルシュルと出しながら言った。

「つまり、この世に不要なものなど何一つないんだ。私も、お前たちも、一見ゴミと思えるものも、汚れた水さえも、全てはこの星にとって、はたまた宇宙にとっては、とてもとても大切な存在なんだよ」

蛇は話を続けた。

「不要かどうかは誰かの勝手な考えであって、そんなのはちっぽけな世界の話さ。大きな世界から見てみれば、それはとても尊く儚いものなんだ。もし、もう二度とこの世に存在することができないものがあるとするなら、それはどれほどの痛みだろう。きっとその事実を味わったものは、それを受け止めきれずに溶けて消えてしまうかもしれない。でもね、この世界を作った神様はそうならないようにしてくれた。全ての存在に、小さな光を持たせたんだ。その光は永遠であって、そして、何にでもなることができる、すごいものなんだ」


バナナうんちゃん達には難しい話だったが、それでも自分を必要とされていることに心が癒されたのだった。


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