うんちゃんの大冒険
遠藤
第1話
「スポン!!」
長かったトンネルを抜けて、バナナうんちゃんはこの世に姿を現した。
しかし、誕生した感動を噛みしめる間もなく、バナナうんちゃんは便器に吸い込まれ旅に出されたのだった。
(うわ!どこにいくんだ?)
勢いのある細いトンネルを滑り落ちて、やがて放り出された先もまた大きなトンネルだった。
緩やかになった水の流れに身を任せながらバナナうんちゃんは思った。
(気が付くといつもトンネルの中だな)
バナナうんちゃんは、わずかな光しか届かないトンネルの中をゆっくりと流されていった。
そこに、誰かが声をかけてきた。
「おい!ずいぶん綺麗な形をして、生意気な野郎だ」
バナナうんちゃんは誰だろうと辺りを見渡すと声の主がわかった。
それは、大きな葉っぱの上に乗って流されている、コロコロうんちゃんだった。
バナナうんちゃんは尋ねた。
「僕らはどこに向かっているのかな?」
コロコロうんちゃんはソッポを向きながら言った。
「ふん!知ったことじゃないね。流れてりゃ、どっかにたどり着くだろう」
バナナうんちゃんは、コロコロうんちゃんの素っ気ない態度も気にせず、ただ、どこに向かっているのかが気になった。
(何のために生まれたのかな?)
ふと、バナナうんちゃんはそんなことが浮かんでコロコロうんちゃんに尋ねてみた。
「ねえ?僕らはなんのために生まれたのかな?」
コロコロうんちゃんは少し困惑したような顔をしてこう答えた。
「さっきから質問ばかりしやがって!黙って流されてりゃそのうち答えが出るだろう」
自分が何のために生まれたなんて考える必要もないかと、ただ流れに身を任せてみた。
流れていく水面を見渡せばたくさんのゴミが流れていた。
そんな汚れた存在たちと一緒に流れていく自分は、みんなからの不要な存在なんだと思えてきて、何だか悲しい気持ちになった。
すっかり弱った心で一点の方向を見つめていると、何かが浮いたり沈んだりしているものがあった。
意識を戻してよくよく見て見れば、それはひょろひょろとしたうんちゃんだった。
バナナうんちゃんは近くに寄るとひょろひょろうんちゃんに話しかけた。
「なにやってるんだい君?」
ひょろひょろうんちゃんは一生懸命声を上げた。
「た、たすけ・・・」
「えっ?!」
覇気の無い声は、まったく聞こえてこない。
「た、た・・・」
ひょろひょろうんちゃんは沈んでいった。
あわてて、バナナうんちゃんは水中から助け出しゴミの上に乗せてあげた。
「あ、ありがとう」
一連の出来事を見ていたコロコロうんちゃんは、面倒臭そうに言った。
「ふん!自分の力で這い上がることもできない奴なんて、沈ませておけばいいんだよ」
それを聞いたひょろひょろうんちゃんは怯えながら涙を流した。
すかさずバナナうんちゃんは、ひょろひょろうんちゃんに声をかけた。
「元気出しなよ。ああ言っているけど、本当はとても優しいから安心してね」
コロコロうんちゃんは戸惑いながら言った。
「さっき出会ったばかりで良く言うよ。俺のいったい何がわかるんだ」
バナナうんちゃんは笑顔で答えた。
「わかるよ。僕にはなぜかわかるんだ。君は優しいって」
コロコロうんちゃんは、ちょっと恥ずかしいそうにソッポを向いて言った。
「ふん!勝手に言ってろ」
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