第4話 まあ、その

「分かった?いいね、来んなよ?」

 文字で書くと冷たく見えるが、実際の太陽の声は暖かくて優しかった。

「うん…」

 結局私は頷いてしまって、教室に行くのは先延ばしに…なった。

「まあ、その、返事はいいや」

 太陽が言ったので、私は「え、なんで」とつい言ってしまった。

「…別になんでもないよ、また来るわ」

 太陽が手を振る。私もそうする。どちらも冴えない微妙な笑顔で。太陽は静かに保健室を出ていった。私は何もいえなくて、太陽が出ていった後、机に伏せた。

 教室に行かない方がいい。だめ。太陽がはっきりと口にした言葉。それは、一見優しさや愛が中心にあるもののように見えるけど、私は考えるほどに分からなくなっていった。

「スイちゃん、どうするの?」

 先生の声が遠くで聞こえる。

「わかんない」

 私は小さい声でそう言った。

「まぁ、事は時間が解決してくれるよ」

 先生はそう言った。いつもののんびりした声で。


 自分の部屋にリュックを置いて、私服に着替えてリビングに降りると、お母さん大の字になって寝ていた。起こさないように静かに歩く。

「すーちゃん?」

 起こしちゃった、と思い、私は少し焦る。

「あ、ごめんお母さん」

「んーっ、よく寝たよく寝た。おかえりすーちゃん」

 お母さんは大きく伸びをして、上半身を起こす。

「よし、行こっか」

 そう言ってにっこりとお母さんが笑う。

「起きたばっかりじゃん、大丈夫?」

 私は一応心配しておく。

「大丈夫よー」

 お母さんはぴょんっと立ち上がって、洗面所に行った。

 私は玄関で待つ。お母さんは髪の毛を一つに結んでいた。

「よーし出発!」

 私は元気にそう言った。


 桜公園について、私はTシャツを短パンの中に入れ、髪の毛をお団子にする。

「よし、いけ、すーちゃん」

「いきまーす」

 私はそう言って、手を真上に伸ばし横に一回転。側方倒立回転、いわゆる側転だ。

「オッケー、きれいにできてるよ」

 次は手をつかずに側転をする。

「グーッド」

 お母さんが隣で褒めてくれる。

 次にバク転。腰を大きく反って、手を地面にしっかりとつく。そして、足を大きく跳ね上げ、手で地面を押して着地。たんっ、と気持ちのいい着地の音が耳に伝わる。

 転回、宙返り、ロンダート、と、次々に技を決めていく。

 私は宙返りが特に好きなので、何度もする。ぐるり、と、世界が回るような感覚が気持ちいい。

「もうちょっと高く飛んでみればかっこいいよ」

 お母さんがアドバイスをくれる。

「分かった」

 私はそう答えて、もう一度挑戦してみる。

 足で地面を思いっきり蹴って、上半身を縮める。遠心力を使い、素早く一回回る。とん、と足がつく感覚がいつもより遅くなった気がした。

「そうそう、きれい」

 お母さんが横で拍手をする。

 少しアクロバット系に飽きてきて、倒立をする。足で地面を弱く蹴って、お尻やお腹の辺りに力を入れる。足が完全に上がった感じがした。

「お母さん、まっすぐになってる?」

 逆さまの状態でお母さんに尋ねる。

「うん、なってる」

 そして、少し歩く。手で全体重を支えるのは辛く、普通に歩いて五歩くらいの距離しか進めない。元に戻る時は、片足ずつ。

「跳ねるマットだったらもっとできるんだけどなあ」

 独り言を言った。

 なぜ私がアクロバットをできるのかというと、お母さんが元体操選手だからだ。小さい頃からお母さんに教えてもらっていて、ここまで上達したのである。学校の体育の代わりに、私は毎日ここで運動をする。


 それから、約二時間。マラソンや縄跳びをし、私は汗だくになって、お母さんも汗だくになって、家に帰ったのでした。


     ーーーーー


 読んでくれてどうもありがとうございました

 翠がアクロバットできる設定にしたのは

 まあ、私が得意だからです

(T . T)

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きっと、ずっと、思ってたこと。 岩里 辿 @iwasatoten

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