第3話 いつものようすをおしえて
「教室、楽しい?」
太陽が私に給食を届けてくれるようになって十五日。いつものように給食を届けにきてくれた太陽に、私は聞く。
「へ?」
太陽が変な声を出す。
「教室」
私はもう一度言ってみる。
「まあまあかな」
太陽は眉を下げて、そう言った。まあまあかあ、と私は心の中で思う。そういえば、と、今日太陽がきてくれたら聞こうと思っていたことを思い出す。
「……聞きたいことがあるんだけど」
私は急にドキドキドキ鳴る胸を抑えて、息を目一杯吸う。
「クラスで、いじめ、ってある?」
口の中が乾く。今すぐにでもお茶を飲みたいが、返事がまだ返ってきていない。
「ない」
太陽が言った。
「ないよ」
もう一度。
胸のドキドキがすっとおさまった。ないんだ。太陽は私の顔を見て不思議そうな顔をしていた。
「私」
そう言って、太陽の目をしっかり見る。太陽もそれに応えるかのように私の目を見返した。
「いじめが、怖くて、教室に、いけ、ない、の」
なぜかは分からないが、空気が足りてないような感じがして、言葉を変なところで区切ってしまう。一度おさまった胸の高鳴りが、また元気を取り戻して暴れ出す。太陽は黙って私の目を見つめている。
「へえ」
太陽が言った。言ってからすぐに目を逸らせた。
「た、太陽、ごめん、教えてくれてありがとう」
私は出来る限り明るく言う。
「私教室に行ってみる」
勢いに任せて私は言った。そう、これでいい。こう言いたかった。私は安堵のため息をつく。太陽の顔を見たくて、少し上を向く。
「だめ」
太陽が言った。え、と思う暇もなく、太陽は次の言葉を口にかけていた。
「絶対だめ」
「なんで…」
私は、大きい声で言ったつもりだったのだが、か細い声が私の耳には届いた。
「やめた方が」
太陽は俯いて、すぐに顔をあげた。
「俺、翠のこと独り占めしたいから」
「え」
私は思わず言ってしまう。
「だから、だめ」
太陽は私に向かって優しく笑いかけていた。なぜか悲しそうな顔をして。先生がいるのにも関わらず、そんなこと言っちゃうなんて。
「ちょっ、太陽、でも」
突然の言葉に戸惑う。でも、私は気付いている。ちょっと、嬉しいってこと。
「でも、じゃない、だめなもんはだめ」
私の言葉を全否定する太陽。そこまで私のこと独り占めしたいの、と思うと少し恥ずかしくなってくる。
「教室行こうかなって思ったのに」
私は少し強めに言う。太陽はまだ笑っている。
「返事は?」
太陽が言った。
「告白の返事」
そこで私は顔から火が出そうなほど照れてしまう。手汗が出てきて、きっと私の顔は真っ赤。そんな私にかまわず太陽は言葉を続ける。
「翠が俺のこと振るなら、教室行っていいよ」
太陽が声を立てて笑う。自分の言ったことが面白かったらしい。でも私はというと、なんだか複雑な気持ちだった。自分の振った人と一緒のクラスで、自然にはきっと喋れないし…。
「いいじゃないの、仲良しカップルで教室行けば」
先生の声がした。
やっぱ聞いてたんだっ、私はそう思ってまた顔が熱くなってしまう。
「先生、なんで聞くの…」
「だって貴重な中学生の告白シーンよ?」
先生がそう言ってからかってくる。私は恥ずかしさのあまり手で顔を覆う。
「うぅ」
変な声が口をついて出た。
ははは、と隣で太陽の声が聞こえる。
ーーーーー続く
読んでくれてありがとうございます
入れて欲しいエピソードとかあればコメント欄に書いてください
結構後になるとは思いますが取り入れます
♪(´ε` )
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