第2話 片先 太陽

 私は次の日も学校に行った。12時頃に保健室の扉をノックし、いつも道理「おはようございます!」と元気に挨拶をする。

「スイちゃん、今日も来れたんだねえ、偉い偉い」

 先生はそう言って褒めてくれた。私は上機嫌で保健室にある翠Roomにカバンを置いてから、勉強道具を持って長机に向かう。

 溜まっている宿題を少しだけ終わらせて、給食を待つのんびりタイム。翠Roomにはソファーがあるため、私はそこで読書をすることにした。『僕の地球管理記』と幻想的な色で彩られた表紙の文字が、躍るようにして書かれている。表紙をめくった1ページ目には、大きく宇宙の惑星のイラストが描かれており、その次のページには、虎と青い虎の仮面を被った男の子が描かれている。ワクワクとした気持ちで次のページをめくろうとした、その時、コンコンコンとノックの音がした。

「はーい」

 先生が言った。私は、もしかして同じクラスのあの子かなあと思い、翠Roomから少し顔を出す。

「大森さん、給食届けに来たよ」

 昨日も聞いた、優しそうな男の子の声。保健室の中に入ってくると、顔がはっきり見えた。

「ありがっ、と…?」

 思いっきり元気にお礼をしようと思った。だが、彼の顔を見て私の声はしぼんでいってしまう。

「い、痛そう、どうしたのっ?」

「あらら、大丈夫?」

 私と先生の声がかぶる。彼は目元の傷を指して、

「引っ掻いちゃった」

 と言った。

「給食ありがとう」

 私はそう言って、彼が持っている給食を貰う。

 先生が彼の怪我の手当をしている。消毒をして、絆創膏を貼って。人が怪我をしているところを見るのが苦手な私は、静かに目を伏せていた。

「オッケー」

 先生が言ったので、私は顔を上げて彼を見る。

「大丈夫?」

「大丈夫」

 彼はくしゃっと目を細めてそう答えた。

「あ、今日もありがとう」

「いや、全然いいよ」

 そして、私は尋ねる。昨日来てくれていた時に聞きそびれていたこと。

「名前なに?」

「あ、俺、方先太陽」

 太陽、いい名前だなあ、と思った。

「太陽っていい名前っ!」

 私がそう言うと、太陽は少し目を細めたような気がした。いい意味でも、悪い意味でも。太陽は言った。

「大森翠もいい名前」

 私は顔いっぱいに笑って、

「でしょ?」

 元気よく言った。

「うん」

 太陽も頷いてくれる。その後数分間ほど2人で呑気に話していたら、

「片先さん教室戻らなくていいの?もう多分給食食べる時間だよ」

 先生がパソコンを見ながら言った。でも、太陽は慌てた様子もなく

「いや、もうちょっといます」

 と、答えた。

「そうなの?戻らないの?」

 私は少し心配になって聞いてしまう。

「戻んない」

 しかし、その後何分経っても、私が給食を食べ出しても、太陽は一向に教室に戻らなかった。今日の給食はミートボールスパゲッティ、トマトの味が濃厚でとってもおいしかった。制服にトマトソースを飛ばしてしまって、私は大慌てだったけど。

「美味そうに食べるなあ」

 そう言って、太陽はずっと私の食べているところを見ていた。

「太陽も食べりゃよかったじゃんか」

「まあ、給食は毎日美味いからいいや」

 太陽はそう言って笑った。給食を先生に片付けてもらっている間、私たちは話していた。

「太陽、もしかして教室しんどかったりする感じ?」

 私は思っていたことを聞いてみた。それも私の乏しい勇気を振り絞って。

「…、え?」

 太陽はどこか戸惑っているように見えた。だから、私は慌てて言い訳をする。

「戻りたくないってことはそうかなーって…いや、ただ単に私がそう思っただけ!」

「そんなことは、ない」

 少し突き放すような言い方だった。私は関係が崩れるのが怖くなって、

「そ、そだよね、ごめん変なこと聞いちゃって」

 と、言った。少しだけ、気まずい空気が私たちの間に流れ込む。

「大丈夫、全然!」

 太陽が元気な声で言った。そこで空気の緊張が解けたことに私はほっとして、太陽もきっとそうで、私たちは話を続けた。


     ーーーーー


 読んでくれてありがとうございます

 レビュー嬉しかったです(一部の人に関係ある話)

(・◇・)/~~~

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