欠片を再びその胸に 4
「ここが地下への入口か」
1階の西側にある小部屋、そこに地下への入口はあった。
入口を出すカラクリは、本棚の空いた一部に指定の本を置くだけの単純な物だ。
僕は探知魔法でカラクリの内部構造が見える。
そこから逆算すればそれほど悩まず答えがわかるのだ。
それにしても本棚の手前の方の掃除はしてあったが、その最奥を掃除していなのは隠す気があるのだろうか? まぁ、本を全て、本棚から出さないと掃除出来ないのだ、面倒なのはわかる。
だが、そこを疎かにしてしまえば、埃の溜まり方でバレるとは考えなかったのだろうか?
ともかく僕は、現れた階段を降りていく。
地下故に冷える、季節も冬だ。
体を軽く擦りながら土の壁を軽く小突くと、コン、という高い音が鳴る。
「壁は魔法で補強されてるか」
地下は土が刳り抜かれただけのトンネルだった。
崩落を防ぐための柱も何も無い。
素人が作った手作りのトンネル、それが第一印象だ。
ただ、魔法でガッチリ固められている為、地下で爆発か、魔法を使わなければ崩れることはないだろう。
そして地下通路を進む前に僕は先程マティアスの部屋で拾った剣を取り出し、見つめる。
「力を貸してくれ」
師匠から貰った剣も持ってきいるが、こちらの錆びた剣を今は使いたい。
理由は、この道は1人ではない、そんな勇気が貰えるからだ。
どんなに粋がっても自信は累積が作るものだ。
自信がない僕が、胸を張り一歩踏み出すには、自分自身を補強する他人の思いが今は欲しい。
マティアスによって殺され、そして僕と同じ目的を持っていた者の思い、囚われている子供を救うという思いが。
剣からの応答を感じる。
といっても、動くとか、声が聞こえるわけではない。
意識が研ぎ澄まされ、自然と手に吸い付く感覚がするのだ。
「ここからは静かにだね」
足音を忍ばせ地下を進んで行く。
この時緊張した理由は、固められた土が周囲にあるため、まるで洞窟のように音をよく反響させるのだ。
地下そのものが、元々反発し易いと言われればそれまでだが、より慎重な行動が求められた。
そして、少し進むと片開きの扉があった。
魔法で調べる限り鍵がかかっているようだが、探知魔法で鍵の構造を把握、取り出した鍵開けツールを使い、30秒と掛からず扉を開ける。
ほんの僅かにだけ扉を開き、波が部屋に入れるようにすると探知魔法を使った。
「数は2人、武器は抜いていないか」
部屋の中には、2人の男性が子供が入っている檻を運ぼうとしていた。
「急げよ、クロード様に怒られるぞ」
「ああ、あの人の折檻は死ぬほど怖いからな」
2人の視界を魔法で確認し、1人が奥にあるもう1つの扉に向かった所で、檻を持ち上げようとしている男性の背後に音を立てずに近付くと、首元に鞘を添え電流を流す。
「んってなんだ? なんだこのガキは!!」
眼の前にいる男性は鞘が触れた事で、こちらに気付き背後を見る。
そして僕の姿を見ると目を見開き体を捻り裏拳を放った。
男性が体を捻ったタイミングで、すでに後退しており、その裏拳は虚しく空を切る。
「は、珍しい凡ミスだな」
これは剣が悪いの出はない、僕のミスだ。
普段使っている鞘は、電気が流れやすいように特殊な加工をしている。
それを忘れ、他の剣で同じことをしようとしたら、そうなるに決まっている。
僕は今錆びた剣を持っている、それは普段使っている特殊加工した鞘ではない。
その為、鞘を通じて電流が流れず無力化出来なかった。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、ちょっとピリッとしただけだ」
部屋の外に居たもう1人の男も叫び声で気付き合流。
奇襲は失敗、2対1の状況が成立してしまった。
不利な状況なら有利に変えればいい。
まずは視界を潰す。
背中にある道具袋に手を入れ、煙玉を取り出そうとするが。
「煙玉持ってないや、ついでに投げナイフも……楽はできないな」
道具袋の中に手を突っ込んだが、えらく隙間がある。
早る気持ちで来たせいだろう、道具の補充を忘れていた。
少し落ち着いていれば、投げナイフだけでも補充はできたと思うと少し口惜しい。
「まぁでも問題ないか、元々小細工は好きじゃない、それによく見ればこいつら、シルヴィアを攫った時にいた奴らじゃないか」
背の小さい太った男に、背の高いのっぽの男。仮面の男と共に、シリウスの街中でシルヴィアを抱え逃走していた奴らだ。
「丁度いいや、一度ぶん殴りたかったんだ」
剣を持つ右手を強く握りしめ、薄い笑みを浮かべる。
不思議と不安はなかった。
心の中の空白を埋めるように怒りが体を動かす、これほどのベストな体調は、冒険者になってから一度もなかった。
緊張もなく、ただ周囲の状況を冷静に見れている。
余裕が垣間見えたのが気に入らなかったのだろう。
太っている方の男性は、その場で足踏みをし、眉を引き締め飛びかかってきた。
「粋がんな小僧、数の有利はこっちにあんだよ」
太った男が地面を蹴りこちらに襲いかかる。
剣を上段に構え、間合いに入るなり振るう。
その時僕は太った男を見ながらも、意識は彼が振るっている剣に向かっていた。
手入れもされておらず、また剣自体も腕のいい鍛冶師が作ったとはいえない。
振り下ろされた剣に合わせるよう、己の剣も振るう。
そして2つの剣は衝突した。
互いに上段から振り下ろした太刀筋。
しかし結果は、僕の振るう錆びた剣が太った男の刀身を切り落とす。
剣以外にも理由はある。
太った男はあくまで腕の力だけで振ったのに対して、僕は腰までしっかり落とした。
この結果は順当と言える。
「は?」
男性は信じられない物を見たと、己の剣の刀身に目をやり、その場で棒立ちとなる。
「下がれ」
立ち尽くす仲間に向かって、もう1人の背丈が高い男性が声を掛けるが、聞こえて居ないようで、「嘘だ、嘘だ」とうわ言のように呟いている。
「遅いよ」
腰に挟んでいた鞘を左手で掴み、それを男の鳩尾目掛けて突き出す。
男の背はくの字に曲がり、そして太った男性の顎が落ちる。
鞘を持ち替え逆手で鞘を握ると、そのまま振り上げ顎下を強打する。
脳を揺すられた事により体が動かなくなった男性は、そのまま顔面から地面に倒れ動かなくなる。
「まず一人」
再び鞘を空中で持ち直し、剣をその場に置く。
「この」
倒れる仲間の敵討ちか、それとも怯えを誤魔かす為か。
もう一人の男性は、鈍器を振るうように剣を左右に振り回しながら突撃をしてきた。
「くたばれー」
右からの振り回し、それをしゃがみ込み回避すると同時、重心が偏った足を鞘で払い転ばせる。
「ぐわ」
そして仰向けになった男に飛び乗ると、鞘の先端を男の顔面を叩きつけた。
ダンっと鋭い音が辺りに響く。
両手に肘、膝までも総動員し、全体重を鞘の乗せ利用し叩きつけた。
鞘を退かし男性の顔を見ると、彼の鼻先が曲がっており、目にはすでに生気はなかった。
「さて、どうだが」
意思が強い者なら、ここから立ち上がってくる者もいないわけではない。
警戒しながらも足で男性を踏みつけ。
「ま、一応、電気ながしとくか」
意識を失っている背の高い男性に電流を流した。
電気で意識を奪うと、一応だが体を麻痺させる効果がある。
うつ伏せで倒れている太っている男性にも電流を流し、それぞれ両手足を、部屋の中に落ちていた縄で縛り、体をたたみ檻の中に押し込んだ。
「これで、ひとまず終わり」
男達の処理を追え、ようやく子供達が入っている檻の鍵を鞘で叩いて壊す。
檻事態がだいぶ脆く、突けば簡単に壊れたが、問題はそこではなかった。
檻を壊したが、子供達は自力で牢屋の外に出ようとしない。
1人1人、檻から出すべく手を引いてみたのだが、殆どの子は抵抗し、檻から出せたとしてもすぐに中に戻ってしまう。
この檻の中が一番安全だと述べるように。
「大丈夫か?」
「……」
檻に戻らなかった唯一の男の子に優しく声を掛けるが、目に力はなくぼっとした顔で、ただこちらを覗くのみ。
本来ならここに陣取り、子供達を守るのが良いのだろうけど、今助け出した子供達の中にシルヴィアの姿はない。
つまり、他にも子供達が捕まっている場所があるという事だ。
シルヴィアが僕に出した依頼内容は、子供全員の救出。
未だ続く、扉の先の通路を眺めながら呟く。
「先に進むしかないか、でもこの子達どうしよう?」
「う〜〜」とその場で頭をかきむしる。
正直考えてなかった。
また悩みどころとして、探知魔法が得た情報の中には、シルヴィアがこの場所を通ったと思わしき証拠、彼女着ていた服の繊維と同じ物が地面に付着していた。
屋敷に連れてこられ、その後引きずられながらこの地下の奥に連れ去られたと考えるべきだろう。
彼女が抵抗をし、酷い怪我を負わされていない事を僕は祈るしかない。
思考は逸れたが問題なのは、この先で間違いなく戦闘が起きる事だ。
そんな中に、今救出した子供達を連れて行く訳にはいかないし、救出の順番を考えるなら、地下の制圧が先だった。
「一緒に行くかい」
「……」
膝を曲げ、目線を合わせると、ニッコリ笑って聞いてみが、子供達の様子は先程と変わらない。
返事がないどころか、意識の疎通ができているとは思えない光のない目。
だが、このまま助けを待つわけにはいかないのだ。
そもそも屋敷の警備には違和感があった。
地下の入口も、屋敷の主であるマティアスの自室も、本来固めておかねばならない場所の警備が薄い。
僕の後詰めである冒険者達は、この屋敷の連中を決して逃さないだろうが、僕がこの先に行かないと、最悪子供達の何人かの姿は完全に見失ってしまう。
「恐らくあるよね、地下から地上に出る別ルート」
上にいる警備は、捨てることが出来る戦力。
最悪、地下の物を運び、逃げられる時間さえ作れればそれでいい。
勿論マティアスもその捨て駒に含まれているだろう。
そう考えれば、全ての辻褄が合うのだ。
よくよく考えれば、先程僕が倒した二人組みも檻に入った子供達を移動させようとしていた。
しかも、僕が入ってきた方向とは別の扉に運ぼうとしていた。
こうなると後詰めは役に立たない。
経つようにするには。
「少し小細工をしようか」
道具袋から、インクのないペンを取り出し宙に文字を描く。
するとペン先が光、文字が宙に浮く。
今やっていることは結界の改変、内容は効果の追加だ。
大体、こういう屋敷には結界が貼ってある。
今貼られている結界の効果は侵入者の感知、だがこれは技術があれば簡単に対策できる。
そして、僕が結界に追加している効果は、通信系の魔法とその系統の魔道具の発動を禁止すること。
地下にいるということは地上の情報はどうしても疎かになる。
そこを補うため情報の伝達にはかなりの力を入れているはず。
それを封じれば、相手は地下から逃げるのが送れるし、最悪僕が負けても、1人で子供達を救助しにきた孤独な愚か者と笑われるだけで、相手は逃げず後詰めが地下の連中を確保出来るかもしれない。
この辺りの魔法技術は昔死ぬほど叩き込まれたし、その後も勉強を続けてきた。
「これでよし、おーい」
ペンをしまい、膝を曲げて男の子に目線を再び合わせる。
彼の眼の前で手を振るうが、様子は変わらない。
「一旦置いていくしかないか」
正直その選択肢が一番正しいのだろうが、子供達から目は離したくはなかった。
欲張りであるかもしれないけど、自分で助けたのだ、最後まで責任を取りたかった。
悩んでいると、先程までピクリとも動かなかった1人の子供が、僕の服を引っ張った。
「わかった行こうか、ってうぇ」
1人だけに言ったつもりだったのだが、よく見ると子供同士がそれぞれの服を掴み、5人ほどの列が生まれていた。
いつの間に檻を出たのか、それに驚きつつこの子供達の行動は恐らく。
「これは反射か?」
置いていかれることの恐怖か? それとも僕を引き止めているのか。
「だが先に進むしか無い、シルヴィアとの約束は全員の救出だからな」
*
もう隠れる真似はしない、というか隠れられない。
子供を連れているのはまだ良いが、あれから地下を進んでいるが障害物はなく、死角になるような曲がり角もない。
この地下は、逃げた子供が絶対にバレずに外へと出られないよう、あえて構造が単純にしてある。
そして子供達を連れ、今までより豪華の扉の前に立つ。
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