第16話 欲しかった言葉、その相手1
ギルド長に指定された集合場所はリーフマーケットというローランド商会が経営する総合売り場近くの公園だ。
公園にあるベンチに座り空を見上げながら僕は集合時間を待っていた。
「おい、緊張しすぎだもう少し肩の力を抜けよ」
「お目付け役? ベンさん」
隣のベンチに誰かが腰を掛け話しかけてくる。
肩を複数回叩かれ、その叩き方と声で隣の人物がベンさんだと判断し彼を見ず前を向き続ける。
「違うわい。元々土地勘のない余所者だけで作戦を進めるのは問題があるというギルド長の判断だ。他の組も冒険者だけではなく領兵を絡め、必ず地元の奴を入れて班を作ってる」
「そ、でも肩の力を抜くのは無理かな」
己の震える手を見ながら言う。
「なら帰ったほうがいいんじゃないか? 足手まといが増えても意味ないしな」
「ヒュー、初対面の人間に絡むな。済まないな」
顔を上げると目の前にはヒューと呼ばれたモヒカンの男性が笑みを浮かべ、それを黒髪の男性が肩を掴み
黒髪の男性が頭を下げるとそれに合せ会釈をする。
そして黒髪の男性は僕とヒューの間に入り。
「でもヒューこの子だって気負って固くなっている様子はないだろ」
「確かに……ま自力がなきゃ使えるかどうかはわからないしな。ただでさえ足手まといが一人いるんだから」
ヒューは不貞腐れたように口を尖らせ、黒髪の男性の肩からこちらを覗く。
「ヒューやめろ」
「いいでしょ兄貴。地元でもない、その上本人がいないんだから。てっか、いつまで来ないんだイアンの野郎は」
ヒューの言葉に男性は語彙こそ強めているが、溜息を吐きその態度はどこか投げやりだ。
そして黒髪の男性が強気に出ない事を良いことにヒューは胸を張り「は」と腹から声を突き出すように笑っていた。
笑っていたヒューだが、時計を見た途端、目付きを鋭くさせ地面を強く踏みつける。
黒髪の男性はそんなヒューの様子に今度は何も言わず目を逸らした。
「えっと」
「ああ、この二人はいつもこんなんだから気にしなくていいぞ。ちなみにイアンってのは昨日裏路地でお前を殴っていた眼鏡の奴な」
彼らの顔を交互に見つつ、何があったかわからず首を傾げていた。
ベンさんは耳に口を近づけ、小さな声で教えてくれた。
そこでようやくイアンが他所者としてシリウスに来れた理由がわかった。
イアンという男は大した実力はなく、そしてプライドが異常に高いコンプレックスの塊のような男だ。
それは僕の嫌いな男マティアス・ローランドように。
支部を股にかけ活動をするための裏技の1つがパーティーを組むということだ。
パーティ内の1人が高ランク冒険者なら彼に付き添って貰う事によって余所者として他所の支部で活動することができる。
普通パーティーとは個々の欠点を補う為にある。
高ランク冒険者が自身の力をより活かすためにパーティーを組む、それならギルドも応援に呼ぶ際認めないほうがおかしいだろう。
しかし今の問題はそこではない。
ベンさんの話しを頷きながら聞いると何かが頭の中で引っかかった。
ポンと左手を皿にして右手で叩く。
(イアンって確か裏路地で伸びているような?)
腹部に思いっきり電撃を流した為今日一日は起きないだろう。
しかもその場に放置してきたのだ、起こす人間がいるとは思えない。
「はは」と目を右に逸らす。
ベンさんはまだしも、眼の前で口喧嘩をしていた2人もこちらを凝視していた。
「おい、待て君何か知っているだろう」
そして黒髪の男性は膝を曲げると肩に手を置き、真正面からこちらの目を見る。
「えっと……はい実は」
頭をかきながら先程あったことを話した。
仲間を傷つけられた事を激怒されるのではと、肩を掴まれていた為逃げる事も出来ずに体を縮こまらせていた。
話しを聞き終わった男性は僕の肩から手を離し立ち上がるとヒューと向き合い互いに手を叩き合った。
「はは、最高だぜお前、よし兄貴俺はこのガキを認める」
「さっきと言っている事が違うだろヒュー、でも俺も同感だ。そういえば自己紹介がまだだったな俺の名はグレアム、こっちはヒューだ」
「はい、グレアムさん。よろしくお願いします。えっとヒューさんも、何ですか?」
彼らは笑みを浮かべ僕を見る。
ヒューと呼ばれていた男性は笑いが収まらないらしく、腹を抱え今も笑っている。
そして黒髪の男性、グレアムさんは手を伸ばしてきた。
急ぎベンチから立ち上がるとグレアムさんの手を両手で取り握手をする。
ニッコリと笑みを浮かべるグレアムさんの後ろで笑い終えたヒューさんが眉を潜めながら身を屈め、緊張した面持ちでグレアムさんを見ている。
「おい、どうしたヒュー?」
「いえ、兄貴大丈夫ですぜ、おいガキ正解だ馬鹿野郎」
その視線に気付いたグレアムさんは手を握りながら後ろを見る。
ヒューさんは背筋をピント突如伸ばし、何故か僕を見てサムズアップをした。
「えっと」
「そんなことより君の名前を教えてくれ」
ヒューさんの意味のわからない行動に首を斜めに傾けていると、グレアムさんがこちらを向いて優しい顔で言う。
冒険者生活内で此処まで好意的に接されたのはベンさん以来だ。
胸を押さえながら息を深く吐き出し。
「はい、僕の名前はロスト・シルヴァフォックスです。急遽お世話になることになりましたがよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
「おう、よろしくな銀狐」
「銀狐?」
「だってようシルヴァフォックスだろ、気に入らないか?」
「いえ、銀って所が気に入りました」
笑みを浮かべながら手を上げたヒューさん。
今まで言われた無かったあだ名には瞬きをしながら頭を傾げたが、名前の後ろが由来だと聞くと数年ぶりに自然と笑みがこぼれた気がした。
銀、つまり鉄だ。
それが師匠の残してくれた愛に思えて。
「お前、笑ってるぞ」
ベンさんの驚いた声。
彼に振り向くと余計な事を言うなと睨みつける。
頭をかきながら目線を逸らすベンさんを見て頭に手を被せ溜息を吐く。
グレアムさんの温かい雰囲気、ヒューさんの真っ直ぐな心根、そしてベンさんが与えてくれる見守っているような安心感に少し肩の力が抜けた気がする。
それから数十分後、僕とベンさんはベンチに座り、ヒューさんはその場で屈伸運動、グレアムさんはそれを見守っている。
彼らの様子からまだメンバー全員が集まっていない事が予想できる。(イアンを除く)
メンバーが集まるのを待てない僕は目を細め膝を揺する。
心の中では尽きぬ焦りとゆっくりとした時間に徐々に苛立ちが湧き上がる。
ベンチから立ち上がり、体を動かそうとした時だった。
「私が最後ですか?」
下を見た一瞬、脇の内側から自分ではない手が伸びていることに気付く。
そして腹部分に巻き付き持ち上げられ足が宙に浮く。
背中に感じる男性とは違う、女性のしなやかで柔らかな体の感触。
それを受け、僕を抱き上げている背後の人物に腰を回し肘鉄を繰り出した。
だがその肘鉄は空を切り、手を離されたことで地面に4足歩行で着地する。
「ちゃんと食べてますか? やけに軽いですね」
「失礼だと思うんだけど」
立ち上がると、目の前にいる金髪の美しい女性を睨みつけつつ、額にびっしりとかいた汗を左袖で拭き取る。
僕には知られたくない事がいくつかあるが、その一つが体重だ。
眼の前の女性は僕を抱き上げ軽いと言っていた。
体重を測るに近しい行為をされた、警戒心が跳ね上がる。
「お、揃ったようだ。ロストこの人が班のリーダールシアさんだ」
「グレアムさん、ありがとうございます。初めまして僕はロスト・シルヴァフォックスです」
「よろしくね。グレゴールさんから話は聞いてるよ、ま聞いたのは別件でなんだけどね」
何も考えられず腰に掛けてある剣を掴もうとした時だ、ベンさんに肩を叩かれる。
意識外の事で体を飛び上がらせ剣から手を離す。
その間もルシアと呼ばれた女性は僕をじっと見つめていた。
首を振り、自身の緊張感を振り払うと睨み着けながら彼女に頭を下げた。
顔を上げると、ルシアさんは手の指をバラバラに動かしこちらに少しずつ近づいてくる。
それを見て僕は急ぎベンさんの背後に周り姿を隠す。
(それに別件か)
ベンさんの背に体を預けながら顎に手を置き考える。
ルシアさんは手を止めると他のメンバーに目を移している。
だがベンさんの背中から少し顔を覗かせる度に彼女と目が会った。
彼女が僕に送る目を言葉にするなら品定め、それでは一言足りないじっとりとした目で僕を観察している。
高ランク冒険者は変人が多いという話をよく聞く。
いや、変人と決めつけていたほうがきっと精神衛生上にはいいはず……なのだが、いや今はこの考えを抑えるべきだろう。
そもそも目的が違う。
今僕のやらなければいけない事はシルヴィアの救出、それ以外は雑音だ。
「ベンさん、グレゴールさんから貰った今日の作戦をお願いします」
「ああ、でもこれは必要ないもんだよな」
「「「は?」」」
「え、グレゴールの依頼に作戦なんてあるの?」
ルシアさんがベンさんに目を向けると、彼は脇から茶色い封筒を取り出した。
その中から一枚の紙を手に取ると、笑顔で縦に破り始めた。
他のメンバーはべんさんの行動に目を見開きその場で固まる。
彼らは既に背中を合わせて作戦を行なってきた。
そこにはメンバーがどんな人物かといった人柄の把握もある程度はあった筈だ。
ベンさんの行動は3人全員が固まる程度には驚かせる結果を作った。
それにはギルド長から貰った作戦書を破り捨てるという破天荒な行動も確かに関係しているだろう。
僕はというと、ベンさんが縦に破いた紙を手に取り内容を目に通す。
そこには一枚の地図が書かれているだけ。
ベンさんから茶封筒を貰い中を見るが他には何もない。
そこで目を細めつつ頭をかく。
ベンさんとは付き合いが長い、だからなんとなく次の行動がわかる。
「おい、ロスト仕事だ」
「ベンさん何しているんですか!!」
ベンさんは右側にいる僕の肩を掴むと中央に寄せ、皆の前に突き出す。
そこでルシアさんも正気に戻り、体を震わせ声を荒げる。
しかしベンさんはルシアさんを見ずに僕に目線を向けたままだ。
「お前の仕事だ、最短距離で行こう」
「わかった、わかったよ。いつも通りってわけね」
肩に置かれたベンさんの手を振り払い溜息を吐く。
そして目を細めながら笑みを浮かばせベンさんを見つめると、彼は僕と似たような悪い笑みを返す。
振り返ると僕らの様子を見て他の班のメンバーは頭を傾げていた。
だがまぁ話さなくていいだろう、時間が勿体ないし。
ベンさんは行っていた最短最速でと、あいにく僕も同じ考えだ。
こんな所で作戦会議をちんたらやってはいられない。
最短最速でシルヴィアを救出してやる。
より笑みを深め胸元から鈴を取り出した。
*
「で、どうするんだ」
ヒューさんは辺りを見渡しながら言った。
ベンさんはそれを聞き背中を伸ばし胸を張る。
そして僕の背中を押すのだが、ついつい溜息を吐いてしまった。
ベンさんに連れられ僕らはリーフマーケットの裏の住宅街に来ていた。
そこの特徴は複数人が同じ屋根の下に住むアパートとい形態が多いが、問題として少しガラの悪い奴らが多めに住んでいる。
ローランド商会は警備の面もかなり力を入れている。
そのおかげで地元の人達も安心して買い物に来ているが、一歩深く入ればこのような場所はシリウスにも数多くある。
「ベンさん何故資料を破ったんですか? あれには領兵やこの地区の冒険者が集めた情報があったんですよ?」
「問題ないさ」
依然咎めるようなルシアさんの言葉を軽く流し、ベンさんは僕を見ている。
「本当に此処でいいの?」
「ああ、頼む」
大きく息を吐き出し、指を鳴らす。
次の瞬間魔法を使うが、返ってきた反動でしゃがみ込みその場で胃液を吐き出した。
「大丈夫か?」
青くなった顔を見てグレアムさんが近寄り背中を擦ってくれる。
手で大丈夫だと、示してから立ち上がる。
そして左手で眉を揉みながら背後のリーフマーケットを見る。
さらにはベンさんを睨みつけた後溜息を吐いて住宅街の奥に無言で足を進めた。
「おい、何処まで行くんだよ」
「悪いなヒュー、それとロスト近かったか?」
「近すぎ、ちょっと人に酔った。はぁ信じるんじゃなかった」
「悪い悪い」
「いいよ、早る気持ちは僕もあったから。丁度いい薬だ」
ヒューさんが先に進む僕に手を伸ばそうとしたがそれをベンさんが肩を掴み静止。
吐いた原因であるベンさんの謝罪を耳で聞きそして足を止めた。
他のメンバーは先ほどの位置と何が変わった? と頭を傾げている。
先程からずっと右手で持っていた鈴の着いたチョーカを首に着け、ベンさんの方に向く。
「ベンさんやるよ」
「ああ、頼む」
そして首元にある鈴を魔力を込めた右手の親指で弾く。
首に着いた鈴からは綺麗な透き通るような音が響く。
ヒューさんはともかくグレアムさんとルシアさんは耳を閉じ、その音に聞き入っていた。
音は響き、波は広がり続ける。
そして波が通った場所、そこから滝のような情報が頭の中に直接叩き込まれた。
思わず眉を細め、全身から汗が吹き出る。
だが入ってくる情報はどれも有用だ。
目には見えない薄くなった魔力の残滓、砂などの靴に運ばれたきた残留物、肉眼では見えなく成る程薄くなった足跡。
建物の木材の味などそれこそ様々。
(最後のは余計か、センサー切っとかないと)
口から唾を数度吐き出し、教えられた味を吐き出そうとする。
これがレティシアが王都に向かっておよそ2年、試行錯誤の後に会得した魔法だ。
僕は魔法がまともに使えない。
初級魔法のファイヤーボールは魔力を炎に変換して放つだけの単純な魔法だがそれすら習得出来なかった。
理由は簡単、体質だ。
僕は体質により魔力を他の物質に変換出来ない。
もしファイヤーボールと似た事をしたいのなら、自前で火を用意→魔力を送り込み火を制御、また魔力を燃料に火の火力を増強→敵に向かって放つ。
普通の冒険者が意識1つで出来ることを複雑な手順を加えてやらねばならない。
この体質のせいで一般魔法と呼ばれている物は全て習得出来なかった。
そんな僕が縋ったのがオリジナル魔法。
専門的な知識がいる魔法を作るという作業、諦めの悪さと運良くリーザさんという魔法に詳しい人と知り合えたことでなんとか形になった。
僕の魔法体質のいい所は主に2つ。
あくまで魔法ではなく自然に発生する現象への調整が主な為、魔法感知などの警戒網には一切引っかかず、極めて隠密性が高いことだ。
そしてもう1つは燃費がいいことだ。
何かを生み出す。
それは少量でさえ多くのエネルギーを使う。
よほど連続で使わない限りは魔力切れはないと考えていい。
ここまでの説明だと僕の体質がさしたる問題ないように感じてしまうだろう。
だがそんなことはない。
何かを生み出せないということは案外攻撃には向かないものだ。
僕は戦いたい。
真正面から挑み、相手をねじ伏せ、相手を見下ろしたい。
そこで相手を貶めたいとも、優越感に浸りたいとも思わないけど。
とにかく真正面から相手をねじ伏せたい。
子供っぽいかもしれない、でもそれが憧れだ。
僕はオリジナルの魔法の総称を代償魔法と名付けた。
そして今使っているのが、その中の1つである探知魔法。
自然界の似た能力でいうならエコーロケーション。
そこから魔法で色々感知できる物をくっつけたのがこの魔法だ。
違う点は音で出した振動をあくまで魔法の媒介に使うだけであって、音の反響で情報得ている訳では無い。
反発回数で1度の波で使える魔法の発動頻度に関係するが。
365度全ての角度から、目で見れるよりも小さい物を鮮明に、見落としなく情報を頭に叩き込んでくれる。
そこには実際に触ったような触覚もある僕の切り札だ。
(これは)
左側の2階建てのアパート、その中に見覚えのある魔力を感じ取った。
それは先ほどシルヴィアを攫った男達の1人、その残留魔力と考えられる。
この薄さから考えると3日前のものだろう。
左に顔を向ける。
それに合せベンさんを除いた他のメンバーの目も同じくアパートに向う。
呼吸が乱れる。
つま先立ちになり視界が極端に狭まる。
だがこの班のリーダーであるルシアさんの方を向いてから、足並みを揃える為前傾姿勢だった体を起こそうとするが。
「行け」
胸元から葉巻を取り出し、火を着けたベンさんの一言が背中を押し前に出る合図となる。
そして右足で地面を踏みつけ駆け出した。
魔法により叩き込まれる情報を下にアパートの1階部分に突っ込む。
2階建てのアパート、しかしその内部の構造は想像とは異なる。
1階部分の内側の壁は全て破壊されており、ワンフロアとなっている。
さらには家具が散乱、違法な薬物も平然と置かれていた。
不用心だが唯一残されている警戒心は玄関口のみ。
おそらく彼らの間に合言葉などという、使い古された判別手段はない。
1つの扉を除きドアにはトラップが仕込まれており、正解のドアから入らねば敵と認識し、トラップに引っかかった部外者を問答無用で殺すだろう。
だが関係ない、全て見えているから。
左から3番目の扉、そのドアに向かって投げナイフを投擲する。
ナイフが命中すると音を立て内側の玄関で椅子に座っている見張りの男が反応する。
「誰ですかね、たっく」
男はお立ち上がりドアを僅かに開け外を覗く。
そのドアを開けたほぼ同時、ドアの隙間から鞘を男の鳩尾に突き立てる。
男は鳩尾を突かれるが、それでは意識を奪うには威力が足りなかった。
男はお腹に突き立てられた鞘を掴む、そして首を背後に向け仲間を呼ぶために声を出そうとするが、直後鞘の先端から電流が流れ男は体を震わせ、口から変な音を出しその場で倒れる。
ドアの隙間に突き立てれた状態の剣、鞘から剣を僅かに抜きドアチェーンを音を立てずに切り部屋の中に侵入する。
この電流は僕の魔法だ。
媒介は体に流れる、信号。
それを増幅、制御し相手に流す。
力のない僕が相手を殺さず制圧する時には重宝している。
足を緩めず部屋の中に入ると、腰袋から取り出した煙玉を下投げで部屋の中に転がした。
直後煙玉は部屋の中全てを白煙に染め上げた。
現在窓は全て締め切られている。
半径10メートルを白煙に染める代物を投げたのだ、部屋の中は白いだけではない。
ソファーに寛いでいた男達の殆どは煙を吸い込みその場で蹲る。
例外は1人だけだ、煙玉を足元に見た男は口を塞ぎ窓を壊して外に飛び出した。
「お前ら窓に突っ込め、開けてる暇なんかなないぞ」
男は外に出ると身を屈め、手で口を抑え煙が晴れるのを待つ。
その時男はある音を耳にした。
鈴の音だ。
何回何回も、何か家の中にいるのはわかる。
だが視界が利かぬ中に飛び込む勇気はない。
そして外に脱出した男は震え始めた。
外の男の様子を探知魔法で確認しながら部屋の中を目と口を塞ぎ歩く。
足元で蹲る男の首筋に鞘を突き立て電流を流して淡々と処理し続ける。
中には剣を構えている者もいたが、煙で視界が利かず首を激しく左右に振って雑に周囲を把握しようとしている。
男の首の振りに合せ懐に潜り込むと、剣を前に構え両手で持っている男の手首に左手で持った鞘を振り下ろす。
手首に鞘が当たるが男は意地でも剣を離さない。
両手で力強く剣の持ち手を握りしめ、鞘を振り払うことよりも剣を手放す事を拒否した。
鞘が未だ男の手首に触れている状態、鞘から電流を流し男の手首を麻痺させるとまずは右手が剣から離れる。
そして右手を払いのけた鞘は男の左手に接触、再び電流を流し自然と男の手の中から剣が滑り落ちた。
最後に体を捻り、右拳を男の腹部に突き立てる。
体をくの字にした男の腹部に追加で電流を流し、後ろにあるソファーに倒した。
「ったく、何なんだよ、お前ら外に出てこい」
外から聞こえる唯一脱出した男の声。
煙が薄くなり始めたからだろう。
煙の中を覗こうと、近づいてくる。
体を固くし、ただ煙を見ながら不用心に中に入ろうとする男の足を狙って、腰袋から取り出した投げナイフを投擲した。
「っが、俺の足がぁぁぁ」
男の左右の足には2本の投げナイフが刺さりその場で蹲る。
騒ぎ立てる男は、僕が眼の前に立っても気付かない。
「まってくれ、俺は死にたくない」
男の顔面を鞘で殴り顔を横に寝かせると顎を右足で踏みつけ頭部の裏に鞘の先端を押し付ける。
すると男はその場で涙を流しながら命乞いを始めた。
「大丈夫、殺しはしないから」
優しい声で男に囁き掛けると電流を流す前に男は激しく首を振り、そのまま意識を失った。
「これで終わりだ次にいこう」
男の顎から右足を外すと部屋から煙を追い出すために窓を全て開けに行く。
それら全てを終えた後は男達の両手両足を縛り外に並べた。
ついでだ、足を傷つけた男の止血はしておこう。
普通なら1人位は起こして置いた方が良いだろうが。
だが興味がなかった。
男の言葉も持つ情報も。
何処に行くべきかはすでにわかっていたから。
そして部屋の中央にあるソファーに目を向けた。
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