第11話 微かに見える掴まない希望 1
朝はとても重要である。ある人は最も集中力が高い時間という。
ある人は充実する一日を過ごすための準備をするタイミングだという。
だが僕の考えは違う、朝とは己を愛しているかそれを理解する時間だ。
寝起きが良ければきっと貴方は充実した人生を送っている人物だろう。
寝起きが悪ければ明日を望ない、少し摩れた考えの持ち主だろう。
これは個人的な意見だから他人に考えを押し付けたいわけではないし絶対にこの意見が正しいとも思っていない。
でも僕は師匠が死んでからスッキリと朝起きれた試しがない。
夜は1人になるからよく考え事をしてしまう、昨日のように過去を現在を未来を。
だから倒れるまで体を動かす、泣きながら、叫びながら、もう小綺麗な布団の上では寝られないから、せめて虚勢であっても朝は自分を愛したい。
その結果が額に感じるジンジンとする擦りと口についた土の苦い味だ。
「またやってしまった」
口に入った砂を吐き出しながら立ち上がる。
昨夜庭で剣を振りながら寝てしまった。
刃の付いた真剣を振りながらの寝落ち、しかもこれをしたのは今日が初めてではない。
週に4度、というか自宅で眠る時は殆どしている。
残り3日はギルドの依頼で野宿をしているので防げているが……もしやこれは週7で野宿しているだけでは?
「流石に寝る前の素振りは刃の潰したものに変えた方がいいかな?」
足元に落ちている剣を振り砂を振り払い、刃のない部分を右の指で触り剣の形をなぞらえる。
本来なら家にいる同居人がせめて刃のついていない木剣にしろと怒るはずだが、生憎僕は1人暮らし故に誰も咎める者がいない。
これを不運と捉えるかは人次第だ、そして僕はこれを幸運と捕らえた。
「刃潰してある剣は剣じゃない。それはそうと支度しないと」
そして刃のある部分で人指少し指を引く。
指先が薄く斬られ血が溢れてくる。
人差し指を口に入れながら剣を片付けるために自身の鍛冶場に向かった。
剣を片付けると腕を大きく回し体を伸ばす。
そして疲れが残った体に反し透明感すら感じられる脳で昨日やり残したことを整理する。
「洗濯と装備の確認か」
野宿で溜まった衣服を取り出し庭の井戸から水を汲み洗った。
石鹸で1つ1つ丁寧に手洗いをし最後に絞り桶に入れる。
次に倒していた物干し竿を起こすのだが、その際2つの物干しざおを結ぶ縄を貼るのだが、この際ピンと伸ばすさなければ生乾きになってしまう。
ただでさえ今の季節は1月だ、ここはしっかりやらねばならない。
生乾きの独特な匂いが染み付いた服を着るのは僕はイヤなのだ。
2階の自室に戻り、左側にある小さな机と向き合った。
そこで留め具の確認、緩んでいたら締め、錆び始めていたら一度バラシ部品を変える。
使わなかった投げないナイフであっても専用の砥石で手入れをする。
そして道具をそれぞれ道具箱の指定の位置に入れるのだ。
最後に普段上に来ているジャケットの隠しポケットが破れていないかを確認してい自室を出て朝食を作るために下の台所に向かった。
ロビー入る日差し、洗濯を始めた時はまだ周囲は暗かったが、今は空がうっすら青くだいぶ日が昇ってきた。
それでも人の往来がまだ少ない時間帯だ。
包丁を使いベーコンとレタスを刻むと沸騰した鍋の中にコンソメと共に入れる。
具材を煮込んでいる間に油を敷いたフライパンに卵と牛乳、砂糖を少し入れて混ぜた液体に漬けておいたパンを3人前入れ焼き始める。
パンが一部が焼けカリカリになった所で裏表をひっくり返す。
片面が焼ける前に解いた卵を鍋の中を一周回すように入れ、そのまま放置。
最後にパンの裏面が焼けるまで待ってからお皿に乗せ机の上に持っていく。
「あらら」
食卓には3つの皿と3つの深皿が置かれているがこの家にいるのは僕一人だ。
昨日の依頼が上手くいき僕は今朝気分がよかった。
そんな気分がいい時は師匠が生きていた時の癖で3人分の料理を作ってしまう。
多めに作った朝食を急いで腹に流し込み台所で洗う。
そして朝食を作る前に玄関から持ってきた今日の朝刊を手に取り、今までの焦っていた時間を忘れるようにゆっりと読むのだ。
新聞を読み終えると袋などを着けているベルトの中央部を背中に回し、おヘソの近くで金具を使い固定する。
そして家を出てギルドに向かう訳だが、いつも玄関の鍵を掛ける時手が止まってしまう。
ギルドに行って何になるのだろう?
どうせ侮られ馬鹿にされるのが落ちだという声が心の奥底から聞こえる。
顔の両頬を叩きそれらを振り切ると差し込んでいた鍵を右に回し抜く。
そしてズボンの右ポケットに自宅の鍵を入れ家を離れる訳だが、家の仕切り内を出る寸前で振り返る。
「行ってきます」
そして返って来るはずのない返事を待ち目を瞑り耳を澄ませる。
3分その場で立ち止まってから前を向きもう今度は低めの声で。
「いってらっしゃい」
己の声で背中を押し今日の仕事に向かった。
*
準備こそ急いだが時間には余裕がある。
余白とは己を見つめ直すいい機会だが思い出したくもない朝の倦怠感に今は目を向けざる負えない。
「行きたくない」
ギルドの近くにある公園、そこにある足の着かないベンチ、その肘置きで頬杖を着きながらギルドを眺めていた。
「はぁ〜〜」
誰もいない公園でため息をわかりやすく吐き肩を落とす。
首を揺らしながら先程拾った枝を動かし、それを目で漠然と追い続けた。
確かに変な寝方をしたため体の節々は痛いが習慣になっている行動だ、それはさしたる問題にはならない。
憂鬱な原因はわかっているそう仕事だ。
ベンチから正面にある赤い屋根の建物が冒険者ギルドだ。
目と鼻の先でも足が進まない。
まだギルドの受付があくまで1時間程時間がある。
今言っても準備をしている受付の人の邪魔になってしまうだろう。
僕はそれを免罪符にして今此処でだらけているわけだだが。
そもそも動けと脳に命じても何故かこのベンチに戻り座っているのだ、だらけるのはしょうがない。
仕事が問題とは言え今日の分だけではこうはならない。
僕は迷いの森へトールの依頼を受け4日間籠もっていた。
だがトールの依頼は指名依頼という形になる。
あくまで個人間の依頼、つまりギルドが冒険者に課す配分依頼というノルマにはなんの関係もないわけだ。
もし僕が今日ギルドに向かえば溜まった4日分の依頼と向き合わなければいけないのだ。
「とはいえ配分依頼はやらないと不味いんだよな。ステラさんが僕を見る目がさらに冷たくなる」
左腕を大きく振り、持っていた枝を投げた。
枝は宙に浮き、地面に着くと3回跳ね転がる。
その間も目で追ってた訳だが心は配分依頼の事をずっと考えていた。
配分依頼。
ギルドから冒険者に割り振られる依頼であり所謂ノルマだ。
期限はだいたい月毎に区切られているため緊急性はない。
所属地区の冒険者には必ず専用の受付が着くのもこの配分依頼の管理をしやすくする意味が大きい。
内容の9割がほぼ街の雑用だが専門職など経歴があればそれに応じた仕事が割り振られる。
僕だったら鍛冶、昨日行ったダレイオスの料理人ダンさん、彼の包丁研ぎは1週間前に行なった事だ。
もちろん報酬は出る。
なんなら強制な分多少はギルドも報酬に色を付けてくれるが若い冒険者はやりたがらない。
「オレっちはBIGになる」
そんな事を行っていた去年の4月に入った冒険者は配分依頼をやらずに今年の7月にクビになっていた。
冒険者の花形、モンスターの討伐などは配分依頼の合間に行う自主性に基づいた仕事だ。
配分依頼をこなしていけば日々の生活、お金で困る事はない。
貯金も問題なく出来るのだ、経営者としてギルドはかなり考えてこの辺りの仕組みを作っている。
しかし冒険者になったばかりの新人は勝手な妄想でお金もギルドのランクも魔物を刈ったほうが儲かると勘違いをする。
魔物刈りの実態はあくまでギルドが課している仕事に+αを加算できるだけなのて効率が良いどころかむしろ悪い。
新人が憧れている冒険者像といえば魔物を正面から打ち倒す人々に称賛される英雄譚だ。
現実を知らない以上しょうがないかも知れないが配分依頼を軽視するのはオススメ出来ない。
気性が荒く、明確な個体認識できるレベルで危害を加えた魔獣でなけれな手配魔獣にはされない。
ゴブリンなどの群れを作り襲ってくる弱い魔物を狩る場合も纏まった数、100匹単位で狩れねば配分依頼に比べてギルドからしたら仕事をしているとは判断して貰えないだろう。
配分依頼を受けなくていいのは余所者と言われる支部間の垣根を超えて仕事ができる高ランクの冒険者連中だけだ。
ギルドが配分依頼をなぜ行なっているのか?
大きな理由として国からの見られ方が挙げられる。
ギルドの存在は国にとって指揮下にない武装組織以外の何者でもない。
だからギルドは国の手が届かない雑用をこなし国や貴族の統治に協力しているというアピールをしなければ存在が許されない。
ギルドが国と共存し国際組織と認められるその屋台骨は配分依頼なのだ。
だからギルドの内側、職員などと信頼関係を築きたいならば配分依頼を疎かにしては行けない。
それを理解しているからこそ気が重いのだ。
山のように積まれ逃げられない仕事をやりたくなくて。
「はぁ〜〜」
「では行きましょうか」
「え」
背後から聞こえた声、伸ばされた手が後ろ襟を掴み強引に体の向きを動かす。
ベンチから引きずり降ろされた時、お尻が地面と激しく衝突しないように優しく支えながら地面に添えられ優しいと心の中で感動した次の瞬間、一切の躊躇なく引きずられギルドに連行される。
進行方向とは逆の方向を眺めているという、見慣れた光景を大人しく受け入れていると、手入れの行き届いた亜麻色の長髪が目元まで落ちてきて顔をくすぐる。
そして僕を引きずっている人物に話しかけた。
「何でここにステラさんが?」
「ギルドを数日空けるたびに公園で黄昏れてたら誰でも気づきますよ」
「わかりました、それはわかったけどこの状況は何?」
まだギルドの受付が開く時間ではない。
それなら僕がここで1人黄昏れていてもそれは個人の自由だ。
というかまだ心の準備がまだ出来ていないから公園のベンチに戻りたい。
元いた場所に戻して欲しい。
「私からの親切です」
「親切?」
「ええ、どうせやらねばならないこと、ならさっさと済ませてしまいましょう。大丈夫です、まだギルドは受付時間外ですが、担当との合意があれば少し早めに行なっても問題ないですから。」
「合意は、ねぇ合意はどこにあるの?」
声色も表情も何を言っても変わらないであろう彼女に僕はギルドへと連れ込まれていった。
通りを引きずられる際に近くにいた街の住人に目を向けると皆口元に笑みを作っていた。
子供が引きずられていくその光景を街の人々が当たり前だと認識していることに僕は多少の苛立ちを覚えながらもほんの少し噛みしめるように口角を上げる。
家の外で1人寂しく返ってこない返答を待つくらいならこれくらい賑やかな方が僕は好きだから。
*
ギルドの受付に放り投げられるはずがそのまま職員しか入れない深い区画を引きずられる。
引きずられる現状を「どうにかして」とすれ違う職員に目で訴えるが皆温かい目を向けられるだけで誰一人手を差し伸べてくれない。
それに床に置かれた本や木箱が足先やお尻の端に当たって地味に痛い。
物が置かれた僅かな細道を引きずられながら奥へ奥へと連れられる、そして着いたのがギルドの支部長室前だ。
後ろ襟を離された僕は立ち上がり、眼の前の支部長室を見つめ両手で頭を抱えた。
(何? トールの件で怒られるの?)
あの依頼はお咎めがあったとしても軽いと踏んでいた。
森番は人でなしの集団ではない。
死んだ者を埋葬できない。
その事実は先輩森番達が皆心の中で隠してきた傷の1つだ。
そして僕はステラさんに体を縮こませ、両人差し指を就きながら向く。
「僕の今日の仕事は?」
「今月の配分依頼は一週間前に終わっていますよ」
「あの地獄はそういうことか」
目に浮かぶ年末年始の仕事量。
ベテラン冒険者にご飯をたかりながら乗り越えた地獄の一週間、目を閉じれば容易に思い出す。
胸をなでおろしながら息を吐き出す。
(そうか、今月はあんな地獄はもうないんだ)
僕の性格上仕事は早めに済ませることを好む。
それに他人の配分依頼を頻繁にやる為それを彼女は理解し早めに配分依頼を振ってくれたのだろう。
僕のスタイルに合わせたよくできた受付嬢と考える事が出来れば幸せだろが。
(絶対余計な配分依頼の手続きをやらされて怒ってるんだろうな)
他の冒険者の配分依頼をやったとしても書類の受理と完了の手続きをするのは依頼をこなした冒険者の担当受付嬢だ。
本当の所はいらぬ事を増やす僕への仕返しの面が強いだろう。
ま、多少の仕返しは目を瞑るべきか、非は僕にある。
「どうせ、他人の配分依頼もロストは請け持とうとするんですから、それくらいの準備は担当として調整するとの当たり前です」
数度瞬きをし、ステラさんから距離を取る。
この人は僕の心でも読めるのだろうか?
心の中を読まれたようで少し怖くなってしまったのだ。
「さてと」
そしてステラさんから離れる動作に紛れさせる形で、窓を開け、窓枠を乗り越え外に出ようとする。
だが襟を捕まれそれを防がれる。
今度は支えなどない、お尻から床にそのまま落ちた。
ゴンという音を出したがカーペットが引かれていたおかげかそれほど痛くない。
脱走に失敗した僕は耳を塞ぎ、いやだいやだとクビを振りながら言う。
「窓枠足を掛ける予備動作の時に止めるのやめてくれません? アンタはエスパーか!!」
「どうして逃げようとしているんですか?」
ステラさんの返答は聞く気がなかった。
だが足で体の向きを変えられ、僕を見下ろす冷たい目に「ひ」と怯え思わず耳から手を離してしまう。
そしてステラさんは首を縦に振り僕に言い訳を促す。
とてもうら若き少女が出していい覇気ではない。
闇組織のボスが部下の失態を罰する時の圧力に僕は目尻に涙が貯まるのを自覚する。
言い訳じみた返答かもしれない、だが扉を指さしながら僕は反論する。
「だってここギルド長室だよ、絶対碌でもない事に決まってるよね」
「いいこともありますよ」
「例えば?」
「休憩時間におやつが出ます」
「ステラさんだけね」
顔と声に一切の色気を出さずに言う彼女を見ながら大きく肩を落とす。
(そりゃそうだろ)
愚痴りながら意識をした。
ギルド長とステラの関係。
そして正確にはギルド職員でない彼女にため息をつく。
これらは全て茶番だ。
そもそもこの場に連れて来られた時点で逃げられるなんて最初から思っていない。
でもポーズを見せる事は大切だと思うんだ。
人は態度でしか他人がわからない。
思っている事を察するにはある程度の親しい関係性が必要だ。
僕がポーズを取ったのはステラさんへではない。
この扉の後ろに居る奴へである。
僕が立ち上がるのを確認するとステラさんは拳を作りその切っ先でドアを数度叩く。
「入れ」
数秒後聞こえるその声に人々は彼をどう想像するだろう?
男性で自他共に厳しいが融通が聞く、現場あがり故に細かいところに気が回る。人々が認める、理解できる威厳がその声にあった。
ステラさんがドアノブを握り扉を開け中に入る。
部屋の奥には高そうな椅子に座り、肘を立て手を組んでいる黒髪の老人がそこにいた。
ただ僕は彼の姿を見て(あ、染めたんだ)というほぼどうでもよい感想しか頭には浮かばなない、それほど身近な関係。
本来ギルド長という役職を持つ人間に対する印象がこんな軽くていいいはずはないが、それには理由がある。
「ステラちゃんありがとう、ほら疲れたでしょ、お菓子食べててね」
ステラさんを見た瞬間ギルド長は声色を180°変え、だらしなく頬を緩めた。
椅子から立ち上がりステラさんに近づくとギルド長が座っていた椅子の手前にある向き合うように置かれた2つのソファーに誘導。
そして自分の近くにある奥側のソファーにちゃっかり座らせた。
冒険者ギルドシリウス支部、ギルド長のグレゴールは他所では見せてはいけないだらしない姿をそこに晒していた。
ステラさんとグレゴールの関係性は親子だ、ただ血は繋がっていない。
普段ならグレゴールにも多少強張った態度を僕もするがステラさんと一緒の時は別だ。
というか、彼女と一緒の時にギルド長に心を張っていると落差で心がどっと疲れるのだ。
「来たかロスト」
部屋の入口で目を細めている僕をグレゴールは見つけると不自然に窓際へと移動し外を眺める。
(今更体裁を守ろうとしても遅いし)
そんなグレゴールを苦笑いで見守る。
僕も部屋に入り、そしてステラさんの対面のソファーに背を伸ばしながら座る。
「いいですよ、ステラさんにギルド長が甘いのはみんな知っているので」
「そうか……では。ステラちゃん今日も手伝ってくれてありがとね、もっと此処に来て休んでもいいのに」
「いえ、手伝うと決めて来ているんですからしっかりとやります」
「えらい、えらいね」
親としての顔をさらけ出しているギルド長を思考から消し部屋にある来客用の高級ソファーに体を埋めた。
自室のベットより質の良いクッション。
瞼が重く落ち、何度か頭が下がる、その度に反射のように首跳ね上げるのだが。
「ふぁぁぁ」
右手で腿をつねる事で眠気に対抗しつつ対面でグレゴールに出されたお菓子を無心で食べるステラさんをだぶった視界で見る。。
本来であればギルド職員は13歳ではなれない。
様々な規則やいざこざの仲裁、冒険者が受けた仕事の責任を受付の職員が負う事もあるため最低でも成人済みの15歳、そこから領地ごとの法律など覚える事は山ほどあり、ギルド職員として受付に立つのは余程優秀ではない限り20中頃が現実的な数字だろう。
僕がギルドに入った当初はステラさんは僕の受付としての仕事のみをしていた。
ランクが低い僕の依頼なら仕事の責任も少ない、当時はお手伝いの域を出なかっただろう。
そんな彼女だが今では自分よりも一回り以上も歳が離れた同僚からも頼られる存在になっている。
豊富な知識で同僚の相談に対処し、情報を統合、冒険者同士の依頼場所のブッキングを防ぎ、彼女が情報を集め作ったマップは魔物の危険度、植物の採取予想場所など数段正確さが上がっている。
僕とは大違いの眩しい人物だ、過程を知るからなおのこと。
表情を変えないまま左手で強く拳を握りしめる。
時々レティシアと姿が重なり、胸の奥が強くざわめいてしまう。
嫌いな訳ではない……だが僕はステラさんの事を苦手としていた。
なぜだか彼女は僕にとても厳しい。
依頼の回り方、薬草採取のルートを事前に決められる。
そのルート自体は安全性を考えられたものであり僕に死んで欲しいという悪意を感じるものではないが、信頼していないのではと勝手に思い込んでしまう。
僕が彼女を苦手に感じるのか?
それは僕が彼女に笑顔を向けられた事がないからだ。
笑顔どころか僕の前でステラさんは表情1つ動かさない。
早めに依頼を終えギルドで昼食を取ろうと食堂に入った時の事だ。
彼女も昼食を取る予定だったのだろう、複数人の受付嬢同士の輪の中に彼女の姿はあった。
その中でのステラさんの表情はコロコロと変わった。
年齢層相応に笑い、拗ね、心配するし、嫌悪感も顔に出す。
普段の僕の眼の前に立つ威圧感も被っている鉄仮面も存在しない、嫌いな食べ物一つで眉を動かす彼女の些細な表情の変化を見て僕は察した。
彼女に嫌われているのだろ。
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