第6話 そして僕はこの道を選んだ 3


 冒険者ギルドから逃げるように家に帰った。


 まず家の中の鍵を掛ける。

 玄関は勿論裏口も、窓も、そして日が入らないように布か木の板でそれらを塞ぎ、それを終えた頃だ。


「ロスト、出てきて」


 外からレティシアの声が聞こえた。

 思わず玄関に手が伸びた。


 だが頭には先程の光景が浮かんぶ。

 罵倒と賞賛、日の当たる場所と暗闇。


 彼女の僕を見る目が変わったのかも知れない、そう思うと玄関に向かう足が止まる。

 そして、2階にある自室に向かい、布団に飛び込んだ。


「聞いて、私はね」


 微かに聞こえるレティシアの声、だけど今は聞きたくなかった。

 掛け布団を被り、枕を耳に押し付け、目を瞑りじっと耐える。


 声は次第になくなり、今度はドアを叩く音が聞こえる。

 ドンドンと、だがしばらくするとその音も無くなった。


 静かになってからしばらくして布団から起き上がった。

 部屋にある時計を見る。

 

 時刻は朝の5時。

 耳を塞いでいた時に、寝てしまったようだが全く寝た気がしない。

 今も瞼は重く、足はおぼつかない。


 恐る恐る1階に降り、玄関に手を伸ばす。

 そして内側から鍵を開けると、いない筈のレティシアを警戒しながゆっくりとドアを引く。


 顔だけを外に出し左右を見渡す、そして正面を見ると見慣れた鞄があった。


 家の外に足を踏み出し鞄の前で座り込む。

 そして鞄の中を開けると、パンと一枚の書き置きがあった。


 明日も来る。


 と殴り書かれた紙、それを丁寧に折り曲げポッケに入れた後、鞄に入ったパンを口にする。


 喉に押し込むように食べていると涙が出た。

 敷布団がビシャビシャになるほど泣いたはずなのに、パンを噛めば噛むほど涙が出る。

 

 どんなに嫌でも明日は必ず来る、だけど明日は来てしまった。


 あんな連中と仲良くなりたいか?

 

 でも、レティシアとはこれからも仲良くしていたい。

 友人だし、手を引っ張ってくれた恩人だから。


 だから今日は、レティシアに会うためにギルドに行こう。

 そう決めた。


 カバンを大事に抱えながら家の中に戻る。

 裸足で外に出てきてしまったので、足の裏に着いた砂を、左手で払い家の中に入った。


 カバンを居間に起き洗面所に向う。

 泣き腫れ赤くなった瞼を鏡で見つめながら、両手で頬を掴み笑みを作る。


「酷い笑みだ」


 ぎこちなく、下唇が上がらない閉まらない笑みを鏡の前で続けた。


 *


 再び玄関が叩かれるまで、洗面台で笑みを作る練習をしていた。


 そして戸が叩かれると急ぎ玄関まで走っていく。

 だけど玄関に触れようとした時、またしても足が止まってしまう。


「ロストいる?」


 立つくす僕だが、その時ゆっくりと玄関口が開いた。


 開いたドアからレティシアの顔が現れる。

 眼の前に現れた彼女に体をビクつかせたが、下を向きつつ逃げずにその場に立っている。


 息を飲んだ声と、ゆっくり近付く足音。

 目を瞑ってただ成り行きに身を任せた。


 首に何かが巻き付いた後、体に温かな物が密着した。

 目を開けるとレティシアに抱きしめられていた。


「レティシアごめんね、昨日は」

「もう、会えないと思った」


 彼女の腕を掴みながら掠れた声で言った。

 レティシアは首を何度も振り、その場で泣き出してしまった


 頭をかきつつ、溜息を吐きながら笑みを浮かべる。

 それから30分間レティシアは泣いていた。


 その後、腕を引かれながら冒険者ギルドに向かった。

 だが心の傷は深いようで、ギルドの赤い屋根を目にすると足が止まる。 

 

「大丈夫、今度は私が守るから」


 レティシアは振り返ると胸を叩き昨日と同じように笑った。


 目を瞑り深呼吸をする。

 

 レティシアの僕を見る目は変わらなかった。

 なら僕も覚悟を決めよう。

 彼女に追いつくための努力を今日から始める。

 大丈夫だ、これでも体の頑強さと体力には自信がある。


 拳を握り目を開くと、ギルドに向かって歩き出す。

 そして自分の意思でギルドのドアを開け中に入った。


 ドアが開けば何人かはこちらを見る。

 

 ギルドの人間には何も期待しない。

 そう心に決めて入ったはずなのに、思わず足が下がり外に体が出ようとする。


 喉が乾いた。

 また罵声をぶつけられると思っていたら、僕に目を送っていた冒険者は、数秒後興味なさげに目を逸らした。


「ありがとう」

「ほら、大丈夫でしょ」

 

 その場でほっとし足の力が向けそうになった所を、レティシアが肩を掴んで支えてくれた。

 彼女の言葉に頷き、ギルドの中を歩いて受付の職員さんに話しかける。


 すると今日の日程を教えてもらった。


 僕らは今日、先輩冒険者に連れられ山を登るらしい。

 

 そもそも僕らの立場は冒険者ではなく冒険者見習い。

 問題を起こさなければ、2ヶ月後に冒険者に繰り上げされる。

 だから気楽に頑張れば良いよと、職員の方に励まされてしまった。

 

 そして9時に先輩冒険者に連れられシリウスの外に出る。

 幸いレティシアとは同じ班だったから、孤立したわけではない。


 ただ少し舐めていた。

 冒険者からの悪意を。


「おい、遅れているぞ新人共」

「早すぎない?」

「何を今さら、冒険者は危険な職業だしっかりやれよ、ほろ同期のレティシアを見習え」

「あれは別格でしょ」


 冒険者の先輩に連れられ僕らは山を登っている。

 高い所からこの周囲の地形を見て、少しでも土地勘を養わせようというのが狙いだ。  

 

 引率の冒険者にレティシアは涼しい顔で付いていき、前を歩いている同期の見習い冒険者は遅れながらも、軽口が叩ける程度には余裕があった。


 問題は僕だ。


 喋る余裕もなく歩く速度も遅い。

 元々身長も低く、歩幅も小さいのだ、普通に歩いていても距離は開いていくだろう。

 

 そしてレガリアを持った時の倦怠感、風邪でも引いたのかとおでこに手を伸ばし体温を調べるが、熱はなく変わりにベッタリと汗が手を濡らし、それをズボンで拭き取る。


 ここまで不利な状況でも辛うじて追いつけているのは、山を歩き馴れているからだ。


 そして折り返し地点である、山に作られた簡素な展望台にたどり着いた。

 

「ほら頂上だ、いい景色だろ」

「凄い景色ですね」

「ロスト大丈夫?」

「はぁ、はぁ何とか」


 肩で息をしながら背中を丸める。

 レティシアは僕の背中を擦りながら優しく声を掛けてくれた。

 まだ少し息が整っていいないが、背筋を伸ばし笑ってレティシアに応えた。

 

 そんな互いに笑いあっている僕らに、引率の冒険者は冷たい目を送っていた。


「なんだ、やっぱり大したことないな」


 目を細め感情が入っていない声、悪意を向けられたのには気づいていた。

 

 レティシアと雑談しつつ、休憩が終わるまで引率冒険者から意識を切らない。

 何かやらかして来るならその準備をこの休憩中にしてくると考えていたからだ。


「レティシアちゃんで良いよね。もし見習いじゃなくなったら一緒に組まない?」

「いえ、私はまず同性か、知り合いと組むって決めています。正式に冒険者になったとしても最初の内は勝手がわからないと思うので、まずはゆっくり、その後でよろしければ」

「そっか」


 レティシアの下に寄ってきた同期の冒険者は、レティシアにやんわり断られると、下を向きトボトボ離れて行った。

 離れていく際にこちらを何故か睨みつけていたが。

 

 どうやら僕は同期からも嫌われているらしい。

 もしかして同期くらいは仲良く出来るかもと、期待していたのだが。


「じゃぁ帰るぞ」


 休憩が終わり山を下る。


 だが、その時のペースは登ってきた時より倍近く早かった。

 

 同期の冒険者も、これには着いていくのがやっと。

 転べばすぐに引率冒険者を見失い、山に取り残されるだろう。


 基本的にだが、山を降りる際は登る時より速度を落とすものだ。

 体に勢いが着いている為、咄嗟の行動が遅れるし、また体に負担が掛かるため怪我のリスクが高まる。

 とても新人の引率がやることではない。

 

 思ったよりもしょうもない手口、頭に血が上る。


 レティシアの方を向く。

 彼女は常に僕の方を見ていたようで、すぐに目があった。


 そして視線をずらし同期の冒険者に向けた。

 首を振るレティシアを睨みつけ、もう一度同期の冒険者に目を向ける。

 彼女は溜息を吐きつつ、同期の冒険者の後ろに入るとフォローを始めた。


 そして僕は引率冒険者の走っているルートから外れ、独自の道を走り出した。

 そもそもこの引率冒険者も、規定のルートを使わず、独自のルートで展望台まで先導していた。

 

「へへ、この道が一番早く展望台にまで行けるのさ」


 と鼻の下を擦りながら同期の冒険者に言っていた。

 その時僕は「は?」何処が? と心の中で思っていたが。

 

 つまり条件はほぼ同じだ。


 木々を飛び乗り、誰にも知られていない小さな洞窟を滑り抜ける。

 そして街道を抜け、城壁に走り込んだ。 


 遠くから背後を見て、笑みを浮かべる引率冒険者が見える。

 レティシアは頼んだように同期の冒険者の背中を押し、足をもつれさせながら歩く彼を補助していた。


「よし……点呼ーー」

「どうしましたか?」


 城壁の前で点呼をしようとした、引率冒険者の背後から声を掛ける。

 彼は振り返ると信じられない物を見るような目でこちらを見る。


「ごほん、全員いるな。では解散」


 顔を赤くしつつ引率の冒険者は人数を数えず解散すると、シリウスの街中に早足で戻っていった。

 そして、同期の冒険者もこちらに何も喋らず、避けるように去っていく。


「ざまぁ見ろ」

「レティシア、ありがとう。我儘を聞いてくれて」


 そんな彼らを無表情で見つめていると、引率の冒険者が去った方向にレティシアは舌を出していた。

 感謝を彼女に述べると、レティシアは頭を傾げるがすぐに手を叩いた。


「だって、私もムカついていたし。それにロストなら勝てるって信じていたから」


 一回転し、レティシアは後ろで手を組み、そして満面の笑みを見せてくれた。


「帰ろうか」

「ふふ、うん」


 レティシアの笑みに照れてしまい頬をかく。

 そして僕らもシリウスの中に戻っていった。


「ロストまた明日ね」

「うん、また明日」


 城壁の中に入ると僕らはレティシアの家で解散した。

 

 そもそも、僕の家とレティシアの家はそれほど近くない。

 僕の自宅はシリウス東の職人街。

 レティシアの家は南側の商業街だ。

 

 まっすぐ家に帰ると布団に飛び込む。


「どうして」


 うつ伏せに倒れ、顔に枕を押し付ける。

 

 今回の山登りで確信した。


 何故かは分からないが、僕の体力は異常なほど落ちていた。

 少し前までなら、あの程度の、山の登り降りでは息切れ一つしていなかった。

 

 レガリアを使ってから体がドンドン重くなる。


「クソ、クソ」


 布団で頭を包み、不安を押し殺すように泣いた。


 僕はレティシアに追いつく為の根拠であるスタミナを失っていた。

 

 *


 僕とレティシアがギルド試験に受かってから3ヶ月が経った。

 正式な冒険者になってから1ヶ月といった所だが、残念ながら状況は変わらない、いや悪化していた。


「はぁ」

「すまない、っぷ」

「いい気味だぜ」


 ギルドで併設されている食堂で昼食を買い、食事をお盆に乗せ席を探している時だった。

 

 歩いてきた1人の冒険者が、湯気の出ているスープを右手に持ち、こちらを通り過ぎた時だった。


 頭上から何か水気と軽い衝撃に襲われる。

 特段抵抗はしなかったが、目は瞑り、持っていたお盆を体から出来るだけ離す。


 そして右手で目元を拭き、背後にいる冒険者をじっと見つめる。


 頭にスープを掛けた男は口で謝り頭を下げているが、肩が震え笑っていることを把握出来る。

 周囲の人間も、僕がスープを掛けられる所を誰一人見逃さず笑みを浮かべていた。

 

 この場にいる人間全てが確信犯。

 馬鹿なことをしている一味だが、そんな事は気にしてもしょうがないと無言でその場を離れる。

 

 この一ヶ月、延々同じイタズラをされている。

 せめてもう少しイタズラの種類を増やしてくれ、退屈で退屈でしょうがない。


 最近気にしているのは、食堂で買った食事にスープが入らない事だ。

 この食堂で出される日替わり定食を気にっている、今はその味がスープが入り変化してしまう事の方が嫌だ。


「すいません、タオル下さい」

「本当に大丈夫? 火傷してない?」

「大丈夫です、気にしないで下さい」


 笑みを浮かべながら頭を下げると職員の方は嫌な顔せず、後ろの引き出しからタオル手渡してくれた。

 

 タオルで顔を拭き、頭を、その後濡れた上着を脱ぎ丸めた物を床に置いた。

 拭いたものの、ベタつく感覚が服や髪に残る。

 料理には塩など料理には欠かせないものが入っている、となると水を掛けられた時よりも後処理が面倒くさいのだ。


(一度家に帰って体を洗って来ないと。ついでに服も変えるか)


 まだ午後からも仕事がある。

 

「あっちに戻らなくていいからここで食べなさい。仕事も手伝って貰ってるし、それくらいはさせてね」

「はい、ありがとうございます」


 一瞬他の受付カウンターにも目を送る。


 昼食時はギルドの職員さん達も交代で食事に行く、なのでギルドの受付を半分程締めているのだ。


 滅多にはないが、職員さんの半数がお昼休憩を取っている間に、お客さんが大量に掛け混んで来ることがある。


 これはギルドに入ってから知ったことだが、受付のカウンターは職員さんの個人デスクも兼ねている。

 だからこの職員さんが良いと言っても、依頼のお客さんが来てしまえば仕事が出来ず、色々なところに迷惑が掛かってしまう。


 今はそれほどお客さんも居ないから大丈夫か。


「本当に気遣いが出来るな」

「いえ、当たり前のことですから」


 職員さんに椅子を貸して貰ったが、椅子を使わず立ったまま食事をする。

 この椅子も、眼の前の職員さんの管理物となっている、汚れたまま座れば後で掃除をする事になってしまうだろう。


 パンを食べ、そしてスープを口にする際ついつい思い出した。

 前まで、スープを掛けられて時は床の上をのたうち回ったが、慣れとは怖いもので、熱いなとは思いはするが、心と体は動かない。


 少しは成長したのかな? と頭を傾げながら考えてみたが、首を左右に1回動かしその考えを否定した。


「ごちそう様でした」

「午後も期待してますよ」

「はい、頑張ります」


 職員さんに頭を下げてから、お盆を両手に持ち食器を食堂に返しに行く。

 この間、冒険者が座っている椅子には近づかないのが大事だ。


 足を伸ばし、こちらを転ばせようとする人間がいるからだ。


「ごちそうさま」

「はい、いつもありがとうね」


 食器を返すと、そのまま家に帰る為にギルドの入口に向かう。

 そして扉を開こうとした時、背後の騒がしさが気になった。


 背後を向き、そこに目を向けると人の輪が生まれており、中心人物は2人、レティシアと、王都の本部から一時的に、シリウスのギルドに移籍している冒険者のアイリーンという女性がいた。


 僕とレティシアは、正式に冒険者になってから一緒に行動していない。

 それは不仲になったとか行き違いがあったわけではない。 

 方向性、依頼の受け方が違うのが大きな理由だ。


「レティシア、俺達と一緒に依頼を受けないか?」

「いや俺達が先に誘ったんだ。後から来るなよ」

「レティシアちゃん、あんなむさ苦しい男共ほっといて私達女性だけで依頼に行きましょう?」

 

 和の中にいるレティシアだが、顔を動かし、ギルドの中にいる誰かを探しているようだ。

 その人物がギルドの出入り口にいるのを見つけると、彼女の顔に花が咲き声は色づく。


「ロスト」

「……」


 声は聞こえなかった。

 でも彼女の口の動きが自然と僕の名前を読んだ気がした。

 

 だがあくまでレティシアが、僕を呼ぶのを気付かない振りをしてギルドを出た。

 出来れば今の姿を彼女に見せたくない、また心配させてしまうから。


 午後の分の仕事もある。

 自宅に帰ると急いで体を洗い、服を着替え、朝干した洗濯物を取り込んでからギルドに戻る。


「流石は人気者か」

 

 ギルドに戻ってきた時には、既にレティシアの姿はなかった。

 

「謝りたかったんだけど」


 先程の無視、その負い目からギルドのロビーで彼女の姿を探すが見当たらない。

 それから、ギルドの練武場や倉庫など様々な場所を探したが見当たらない。

 彼女を探すのを諦め依頼を管理する担当受付嬢の元に向かう。


 遠目からギルドの受付を見ると、1つだけ依頼を全く受けていないカウンターがある。

 そのカウンターにいるのは亜麻色髪の綺麗な少女だ。

 美人で名高いギルドの受付嬢だが、彼女が隣にいればその美しさも霞んでしまう。


 目線を下げ、何かを書いているその亜麻色髪の少女に声を掛ける。


「ステラさん、午後の分の依頼を下さい」

「ないです」

「え」


 亜麻色髪の少女は感情が一切籠もっていない目でこちらを見つめる。

 目だけではない、声も、表情も、それに怯みつつ、机に手を起き、前傾姿勢で話しかける。


「僕の担当受付でしょ。仕事を出してよ」


 そう訴えると、ステラさんは溜息を吐き受付から立ち上がる。


「ないんです。もうギルドが貴方に強制している、1ヶ月分の配分依頼は全て消化し終わりました」

「そんなはずはないと思う。今日でまだ10日だよ。一ヶ月が終わるまで20日ある、それなのに」

「ないものはないです、それでは」


 ステラさんは綺麗な亜麻色の髪を靡かせ、そのまま去ってしまった。

 その彼女の姿に、ロビーに残っていた少ない冒険者が恍惚とした声を上げる。


 ステラさんが管理する受付の椅子に座り、背もたれに体を完全に預ける。

 そしてギルドの天井を見つめながらレティシアの事を考えた。


 先程心に1つ嘘をついた。


 僕がレティシアから離れた理由は、冒険者からの嫌がらせから逃げるためだ。

 落ちこぼれで、コネで冒険者になった男。

 だがこの程度の非難要素で、歩合制でお金を稼ぐ冒険者が継続的に僕に手を出す事はない。


 身も蓋もない話、僕はギルド2大美少女にお近づきになれていると勘違いされていた。

 攻撃されている理由は純粋な嫉妬だ。


 レティシアもああ見えてガードが固く、ステラさんに至っては必要のない関わりは完全無視。

 

 二人共全く隙がなく、また新しい人間関係も開こうとしていない。

 その鬱憤と嫉妬を僕に向けているのだろう。


 とばっちりもいいとこ、だけど僕は彼女達を恨んではいない。

 

 そもそも彼女達が原因でスープなどを掛けられているわけではない。

 彼女達の存在が最後の一押しになっただけで、大本は僕が落ちこぼれという点に集約される。


 それでも、レティシアから距離を置けば、冒険者達から攻撃性を発揮される機会は少なくなった。


 レティシアへの嫉妬なら、まだ受けよう。

 ただステラさんに対する嫉妬を、僕にぶつけるのはおかしいと思っている。


 ステラさんの事が好きで告白したい、でも関係を進めるどころか。話す事もできない、だから僕に嫉妬心を向けてしまう。

 これなら納得出来るし、むしろ協力したい。


 だけど実際の所は、彼女の美しい容姿に惹かれただけ。

 なら大人しく目の保養だけしていてくれないか。


「ギルド長の娘さんに手を出す勇気もないくせに当たらないでよ」

 

 首をだらしなく上げながらも、理不尽な嫉妬への非難を溢した。

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