番外編 羽根ハタキとファーストキス?
「ねえ
いつものごとく、裏山にごみ捨てに来たくるみは、一枚の黒い羽根を突き出した。せっせと草むしりしていた
「のわっ!?」
「なに? なに? 僕の羽根が欲しいの? 僕の供物の印が欲しいの? 僕のものになる気になったってこと!?」
「ち、違うよ! すぐ調子乗る〜!」
ぺしり、と頭を叩くと、芥は、ちえっまぎわしいな、と手を離した。
「じゃあ、なにに使うの? そんなにぷちぷち抜けるものじゃないよ。一応、神力が籠もってるんだから」
「そうなんだ。残念。別に絶対必要なわけじゃないよ。ただ、あると助かるな〜って思っただけ」
くるみは握った一枚の黒い羽根をまじまじ見つめ、日にかざした。
「芯がしっかりしてて、毛先がふわふわで、こんなにおっきい羽根、なかなかないからなあ」
「……そんなに気に入ったの?」
芥はまんざらでもない表情で、頭をかいた。
「分かった。くるみがそんなに言うなら、何本かあげる。特別だよ?」
「ほんと! やった!」
後日。
芥の羽根を束にまとめて棒の先にくくりつけて、ぱたぱたと羽根ハタキを振るうくるみを見て、芥は目を剥いた。
「く、くるみのばかー!!」
「わ、わあー!? 芥!? お屋敷に来ちゃだめだってば!!」
書斎の本棚のホコリを払っていたくるみは飛び上がった。ベランダの手すりにとまったカラスがいきなり口を利いたからだ。カラス姿の芥はくるみに叱られても、ギャアギャア喚いていた。
「そんな使い方するなんて聞いてないよ! 罰当たりだよー!」
「いや、洋室はホコリが溜まりがちで、便利で……」
「返して」
「ちゃんと芥にもらった最初の一枚は大事にしまってあるよ?」
「返してー!」
「ええ〜」
は、とくるみは気づいて、ほくそ笑んだ。
「指輪と交換ならいいよ?」
「! それはやだ!!」
「じゃあ私も返さない」
してやったり。少しは欲張りな自分自身を鑑みればいいんだ。芥はぐぬぬ、と身体を震わした。
「……分かった。返さなくていいよ。その代わり、使用料はもらうから」
「ふえ?」
どろん、と芥は人型になる。ベランダからずかずかと洋室に入り、くるみを本棚まで追い詰めた。黒い翼に覆われて、さながら鳥籠のように捕らわれる。じっと凝視する
「あ、あくた、さん?」
「くるみの、なにかちょーだい」
「いや、結局それ!?」
「別に目玉とか小指とかじゃなくてもいいよ。軽めで」
「軽め!?」
「だって、僕は僕の一部をあげたんだから、くるみの一部をもらうべきでしょ」
「私、あげられるものなんかないってば!」
「そう?」
つ、と芥は
「ひあ!」
「よく考えて。あるでしょ」
鋭い爪がくるみの下唇をつっついた。血が出ないよう、優しく、ふにふにとさせる。えええ、とくるみは声にならない悲鳴を上げた。
(ま、まさか、異国では当たり前と聞く!
それはどうなのか、とくるみが内心でつっこみを入れていると、ぐんぐん芥が顔を寄せてきた。慌ててくるみは顔をそらそうとしたが、両手でがっちり頬を掴まれて身動きすることもできない。
「あ、芥、謝るから、羽根ハタキ、か、返すからあ!」
「僕、悲しいなあ。くるみが僕の自慢の羽根をそんなに気に入ってくれたのかと感動したのに。お掃除道具にするなんて」
「ひ〜! ごめんて! だ、誰か来ちゃう、見つかっちゃう、からっ……!」
「もらうものもらったら、すぐに帰るよ。だから、静かにして? ね?」
だめだ。怒らせた。吐息がかかるほど近づいた芥の唇に慌てふためく。──すっかり忘れていたのだが、こう見えて芥の顔は端正なのだった。美形にとんと免疫がないくるみは汗だくになる。ぎゅっと目を閉じ、
「だ、だめっ、待って……んぎゃ!」
──ぐにり、と芥は両手の親指でくるみの口の端を吊り上げさせた。
「笑って、くるみ。僕、くるみの笑顔が見たいな」
「ふあ!?」
「だって、くるみ。あんまり笑ってくれないじゃん。怒ったり、困ってるばかりで。だから、ね? それで許してあげる」
芥は手を離し、自らも、「ほら、こうして〜」とニコッと無邪気に笑ってみせた。くるみは脱力した。気が抜けたあまり、へら、と釣られて情けなく笑った。芥はぱあっと花を飛ばす。
「かわいー!! やっぱり、笑ったほうがかわいいよ!!」
「はあ……それはどうも……」
「くるみの笑顔が見れたから、もういいや! 羽根ハタキ、大事に使ってね! またね〜!」
どろん、と芥はカラス姿に戻ると、ベランダからあっという間に飛び去っていく。
くるみはずるずるとその場にへたりこんだ。握りしめたままの羽根ハタキに気づき、ぶるぶる身を震わせ、ぺしり、と絨毯に叩きつける。
「乙女の
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