第4話 睡眠の質が実に良い「天国」

とある東国にある神社の御祭神であるタヌキが運営している「でっかい私塾」誰が呼んだか「教育ユートピア」であると。


「あー実に睡眠の質が良い」

主人公はぼそっと呟いた。ここに来てからというもの実に睡眠の質が良い。天国のように素晴らしい。それまでは朝起きるのが苦手だったので、夕方から出勤できる居酒屋に勤めていた。居酒屋はピーク時は注文を捌くのに大変忙しいが、早起きして出勤しないで良いというのが実に素晴らしいと思っていた。次の日は昼の12時まで寝ていても大丈夫という職種。


しかしここに来てからというもの、朝は大変早いのだが、睡眠の質が劇的に改善して寝るのが楽しみになってしまった。


寝ても疲れが取れないとか、不眠症の人は一発で完治する可能性がある。


そして一般の会社と違って、ここは眠気を誘うような装置に満ち溢れてる。見るだけで眠気を誘うようなコデックス(法典)や、会議、その他諸々、寝なくてもウトウトするだけで何となく疲れが取れた気がするような行事も盛り沢山だという。


もう会社勤めには戻れない。事務所勤務とてこんな素晴らしい眠気に誘うような環境はここ以外にどこにも存在しないからだ。


去年の夏休みに帰ったら、世間の特に商業施設のわさわさした空気が吸えなくなった。風の谷のナントカというアニメのようだ。もう、静寂の眠たくなる環境にしか暮らせない。ダラダラと夏休みを過ごしながら思ったものだ。そこは、昔のゲームの宿屋のように、夜寝てもすぐ朝になるような気がするのに。


夏休みは特に何もせずにダラダラ過ごした。昔いた大将の店すらも手伝う気にならなかった。毎日ハードなのであるが、実に離れたくないような快適さに満ちている。世間でやってられるか!バカヤローという感覚が潜在意識下で進行してるような気がする。


もう銭のためには働けなくなった。どうやらその体質に変わったようだ。元気の出ることの基準が、世間一般から別の軸にシフトしたようだ。


世間一般の「楽しいもの」と思われてるすべてがなぜか虚ろに感じられる。特に銭を得るために働くことが耐え難いと感じるようになったのだ。虚ろどころか天上の美を感じるものが滑り落ちてる気がした。みんな元気が出にくいご時世なのはよく分かるのだがな。


一人だけその答えを見つけた気がしたのだった。新約聖書で、ひと粒のからしだねが神の国という大木に人知れず育つ、そのような話に感じられた。


銭は虚ろだ。そのようなものを追いかけるには人生はあまりに短い。ま、だらだらしてる方が人生が短くないとは、タイムイズマネーとか、昔某国の大統領が言った言葉を信じるビジネスマンには信じがたい事なのだろうがな。


宵越しの銭を持たぬ江戸っ子、その精神で毎日を生きてる、「でっかい私塾」は未来を思い煩う事なく、実に希望に満ちていた。何が起きても受け入れられる。


メンタルが低燃費というのは実に身軽で素晴らしい事だった。

 

このご時世にあって、燃えるような未来の希望に満ちてるのだから。


世間には天上の美を感じるヴィジョンと、蒼穹の色をした明るい未来が必要なんだ。誰が何と言おうとそれがない世界は人が生きられない。


そのような静かな、ソロキャンプの篝火のような燃える情熱が静かに、ゆっくりと培われて行くのでした。

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とある教育ユートピアの物語 まりさろばーとそん @palmonsen

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