第14話 スライムさんは―――

 リチュ達が村に戻ると、マザムさんが、孤児院から駆け寄ってくる。


「ガキン!キズ―!アンタら、また勝手に抜け出して!!」


「やべぇ!マザムだ!!」


 ガキンが、マザムから逃げようと走る。しかし、彼はすぐに、捕まってしまう。


「逃がさないよ!今度という今度は、許さないからね!!」


 マザムは、ガキンの耳を引っ張りながら、リチュの元に移動する。


「リチュさんも、彼らが来たら、まず、こちらに戻ってきてくれないと困りますよ。」


「ごめんなさい。」


 リチュが頭を下げると、慌てて訂正するキズー。


「まって、マザムさん。リチュお姉さんは、僕たちを連れて戻ろうとしてたんだよ。

 でも、その途中で問題が起きて、夜になりそうだったから、仕方なく『ヒューマノン』に行ったんだ。」


「そうなのかい?勘違いして、ごめんなさいね。」


 マザムが、リチュに頭を下げる。リチュは、慌てて「頭をあげてください」という。


 マザムは、謝罪をした後、ガキンとキズーを連れて、孤児院へと戻る。


 ――――――――――


 夜、私が孤児院から出ると、すぐに、ナイトバード達が飛んでくる。私は、彼らに餌を与えた後、スライム達の村へと足を進める。一羽のナイトバードが斜め上を見ながら、動かなかったのを気にしつつ。


 村に着くと、いつものスライム達が、私の周りに集まってきた。私は、昨日、ここへ来ることが出来なかった理由と、冒険の話を彼らに話した。


 ――――――――――


 スライムの村の上空で、リチュ達を見張る1台の空飛ぶカメラ。映像の送信先は、黒髪ロングのメガネ女の部屋、そこにあるパソコン風の機械だ。


「スライムが、群れを作って、村の中で生活をしている。驚いたな。もし、こいつら全員が、人間の味方をするとなると、厄介かもしれないな。

 これは一刻も早く、手を打たなければ。」


 女は、通信機を取り出し、クローバーに連絡する。


「あ!アタイが、頼んどいた、スライムの住処の確認、終わった?」


 クローバーが、女の通信に出ると、直ぐにそれを口にした。

 女は、答える。


「ええ。それどころか、スライムが複数体、村を作って暮らしていた。こいつらが、皆、人間の味方に着けば、なかなか厄介なことになりそうだ。

 クローバー、何とかできるか?」


「ぷふー、なぁに馬鹿な心配してるの?どんだけ集まろうと、雑魚は所詮、雑魚でしょ?アタイに任せな、最っ高の絶望も、一緒に包んで、良い報告を持っていくから。」


 その言葉を残し、クローバーとの通信は切れた。


 ――――――――――


 次の日、私は、朝食を済ませると、マザムさんのお願いで、お風呂用の木を切りに、斧を持って出かける。

 森を少し進むと、子供の悲鳴が聞こえた。

 私は、声のした方に駆け寄った。

 いつもは臆病だったのに、何故だろう。


 彼女の声が、あまり危機感を感じなかったから?

 これまで、何かと上手くいっていて安心していて?

 平和に過ごしすぎて、感が鈍っていた?


 私が、声のしたところにたどり着く。そこには、緑の短髪少女が、ドラゴンに襲われそうになっていた。

 私は、少女の前に立つ。


「貴方、大丈夫ですか?」


「は、はい。」


「でしたら、早くお逃げ下さい。

 私は、あれを倒す程の力なんてありませんから。」


 私が、そう言うと、少女が立ち、走り去る。


 私は、安堵する。これで、姿を変えても問題ない。

 タンクさんの言っていた、相手を威嚇する方法。

 それをする為に、私は、目の前の唸るドラゴンより、大きなドラゴンの姿に変身する。


 私が、ドラゴンの唸り声を真似する。ドラゴンがしり込みをする。と思いきや、急に私の顔を、舐め始めた。


「おぉ〜!辞めてください。」


 私は、スライムの姿に戻り、その後、人型に戻ってしまった。それでも、ドラゴンは、私に頭をこすり付けてきた。


「見ましたか!!

 あのスライムが、ブラックドラゴンを使って、アタイを襲ってきたんです。」


 突然、私の後ろから声がした。

 私が振り向くと、そこには先程、逃げ出した少女と、リードさん達がいた。


 ――――――――――


「リチュさん…貴方…スライムだったのか。」


 リードが、静かに言う。リズが、杖を構え、叫ぶ。


「やはりな!私は、初めから怪しいと思ってたんだ!」


「ま、待て、リズ!これは、きっとなにかの間違いだ。」


「タンク!いい加減目を覚ませ!!

 あいつは、人間を騙す、化け物だ!!」


 リズの言葉に、リチュが悲しそうな顔をする。


火炎魔弾ファイアーボール!!」


 リズの杖から、火の玉が放たれる。リチュを庇うドラゴン。


「見たか!? あのドラゴンは、どう見てもリチュを守ってやがる!!」


「だ、だからって、人を襲うと決まったわけじゃ…」


 タンクの言葉を、遮るように、ドラゴンの咆哮が響く。


「くそ、お前ら、とりあえず撤退だ!!」


 リードが、そう言って、緑髪の少女、クローバーを抱え、その場を去る。

 リズとタンクも、リードを追いかけ、場を離れる。


 4人が、しばらく走り、安全を確認する。


「はぁはぁ、分かったろ?あいつは、私らを騙してた危険なスライムだ。」


 リズが、タンクに言う。


「とりあえず、この事を王に連絡しよう。」


 リードが、そう言うと、付け加えるように話すクローバー。


「実は、この近くに『スライム達の村』が存在するんです。

 アタイは、そこに連れ去られそうになりました。」


 クローバーの言葉に、3人が驚く。


「何だと!? それは見逃せないな。

 とりあえず、先に君を安全な所に送らなければ。」


 クローバーは、リードの言葉に、首を振る。


「いえ、もう大丈夫です。アタイもこの近くですから。」


「そ、そうか。それじゃあ、気をつけてくれよ。

 リズとタンクは、周りの村に、このことを報告してくれ!」


 リード達は、その場を去る。

 その光景を見て、心の中で笑うクローバー。


「(ふふふ、計画通り。)」


 ――――――――――


 私は、何が起きたのか分からず、その場で呆然としていた。しかし直ぐに、ドラゴンの殺気によって、意識を取り戻す。

 ドラゴンの殺気は、今までと違い、絶対に勝てないと思わせる。

 私は、急いでその場を逃げた。そして、『ヒューマ』の村にたどり着いた。

 だが、村には、リズさんもいた。


「あ、ああ。」


 私は、ゆっくりと後ずさる。


「あ!リチュ姉!!」


 ガキンさんの言葉に、こちらを見るリズさん。


「貴様!まだ、この子達を狙うか!!

 火炎魔弾ファイアーボール!!」


 リズさんが、私に火の玉を放つ。私は、急いで避けて森の中に逃げる。


 リズさんの足音が、遠ざかったのを確認した私は、スライム達の村に向かった。村に辿り着いた私は、その場で倒れ、二日間眠っていた。


 ――――――――――


「君達、これを、都市中にばらまいてくるのだ。」


『ヒューマノン』王が、リード達に手配書を渡す。

 そこには、『スライムの素材、1つにつき、1億Gゴールド』と書かれていた。


「これは?」


 王は、リードの質問に答える。


「見ての通りだ。君達も知っての通り、スライムの素材は貴重だ。丁寧に狩らないと、すぐに壊れて無くなってしまうからな。

 だが、スライムの集まる村があるなら、狩り放題だ。これを機に、多くの勇者や、騎士から素材を持ってきてもらおう。

 危ないスライムも消えて、素材も手に入って、一石二鳥だ。」


「王!お言葉ですが!」


 立ち上がって抗議するタンクを、リズが止める。


「黙ってろ!タンク!!」


 タンクが黙り、しばらくして、リードが王に言う。


「分かりました、早速こちらを配って回ります。」


 ―――――――――


 私は、目を覚ますと、スライム達が寄り添ってきてくれた。

 私は、村の人にスライムであることがバレた事、森の中に巨大なドラゴンがいて危険なことを話した。


 その後、新たに作る、私の家の素材を手に入れるため、村を出る。


 そして帰ってきて、唖然とした。

 村は焼け、そこら中に、スライムの死体と思われるものが転がっていた。

 次々と、消え去る死体を見て、私は息を荒らげる。


 これは、人間族の仕業?どうして?リチュは、人間族彼らを傷つける気なんて、なかったのに。リチュは、ただ生きていたかっただけなのに。ただ、ただ、皆と…暮らしたかっただけなのに…


 リチュの中で、何か良からぬ物が湧き上がる。それを、押し殺そうと自分の体をつねる。


 突然、声が聞こえた。


「『ここから先の展開は、貴方が選びなさい。』

 『怒りのまま、人間に復讐・・するのか。』

 『それとも、生きてくため、人間と共闘・・するのかしら。』

 『選ぶのは。』


 『さぁ、選ぶのです。』」

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スライムさんの生存戦略 HAKU @HAKU0629

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