第13話 決断の時 迫る

 リチュ達は、『ヒューマノン』の城の中で、一晩を過ごした。

 次の日、リチュは、用意された自室から出る。


 部屋の前には、リズさんが壁に体を預け、眠っている。

 そう、リズは、リチュがまた、夜中に外に出るのではないかと思い、外で待っていたのだ。

 しかし、そのことは、リチュにばれており、リチュは寝たふりを続けることで、姿がばれる事の対策をしつつ、夜を過ごし、事なきを得た。


「おお~!リズさん、居たんですか!!」


 リチュは、今気づいたかのような演技をする。

 その声によって、目を覚ますリズ。


「く、眠ってしまってたか。

 あ!リチュ…さん。私、変なところで寝てたようだな。」


 リズは、リチュを睨みつけながらそう言った。


「突然、廊下にいて、驚きましたよ…」


 リチュは、笑顔を作った。


「リズ、リチュさん、朝から二人で、一緒とは、仲良くなれたんですか?」


 二人が、会話をしている最中に、リードが現れる。


「二人とも、もうすぐ朝食だから、食堂に集まってください。」


 リチュと、リズ、さらに、リード、タンク、ガキン、キズ―が食堂に集まり、食事をする。

 ただ、リチュは、昨日ナイトバードに、体内の食事を渡していない為、いつも以上に、体内に食べ物が多くなって、苦しい状態になっていた。


 食事が終わると、リチュと、ガキン、キズ―の三人は、リード達に見送られ、『ヒューマノン』を後にする。


「ご飯美味しかったね。」


「だな!さすが都市!もう、いつもの飯には、戻れねぇな!

 な?リチュ姉。」


 ガキンが、振り向いて、リチュの様子を見る。


「あれ?どうした?リチュ姉。」


 リチュは、昨夜と今朝の食事で、体の中がいっぱいになり、形を維持するのに苦労していた。


「ちょ、ちょっと、食べ過ぎたかなぁ。」


「はは、リチュ姉の食いしん坊。」


 ガキンは、リチュの方を向いたまま、バックする。


「ガキン!危ない!!」


 キズ―が、そう叫ぶと同時に、誰かとぶつかるガキン。


 ガキンが、振り向くと、ぶつかった相手は、とても大きな体をした、ふくよかな、ピエロだった。


「ガキンが、ごめんなさい。」


「ごめんなさい。」


「わりぃ。」


 ピエロに、向かって謝るキズ―、それにつられて謝る、リチュとガキン。

 ピエロは、黄色く染めた唇を、吊り上げ、笑顔を見せる。


「ヒヒヒ、いいよ、いいよ。子供は元気が一番だからね。

 君に、怪我が無くて良かったよ。ボクもよそ見をして、前を見てなかったからね。ごめんね。」


「ああ、俺も、怪我ねぇし。いいよ。」


 ガキンの言葉を聞いた後、腰を曲げるピエロ。


「ありがとうね。

 あ、そうだ!ボクね、この近くでショーをしようとしてて、今お客さんを集めている所なんだよね。

 お詫びと言っちゃなんだけど、君達、見ていかないかい?」


 ピエロの言葉に、キズ―は、リチュを見る。


「どうする、リチュお姉さん?早く村に戻ったほうが、いいと思うけれど…

 お詫びと言われちゃうと、拒否できないよね。」


「うーん、どうしましょう。」


 リチュは、心の中で「(ショーというものが、なんだか分からないけれど。)」と言いつつ、キズ―と一緒に頭を抱える。


「面白そうだし、見せてもらおうぜ!!」


 ガキンが、二人を説得する。


「まぁ、少しぐらいなら遅くなっても、大丈夫ですかね?」


「うーん、まぁいいか?」


 二人は渋々という感じで、了解をする。

 最も、二人とも少し、気になっていたので、実はノリノリではあった。


 三人の答えを聞いて、唇をより吊り上げるピエロ。


「ヒヒヒ、ありがとう。

 あ!それじゃあ、この風船もプレゼントしよう!!」


 ピエロは、手に持った黄色い風船を、ガキンと、キズーに渡す。


「あら、なくなっちゃった。

 ごめんね、お嬢ちゃん。会場に行ったら、用意するから。」


 ピエロが、リチュに向かって、謝る。


「いえいえ、私は別に、大丈夫ですから。」


 リチュは、それに笑顔で返す。


「いやぁ、優しいお嬢ちゃんで、良かった。

 それじゃあ、会場に案内するから、皆、ボクについてきてね!」


 ピエロが、リチュ達に背を向け、森の奥へと進む。

 リチュ達は、ピエロを追いかけ、本来の帰り道とは違う、森の奥へと進んでいく。


「しかし、こんな所で、人間一人で、よくショーが出来るな。」


 ガキンが、ピエロにそう聞いた。

 それを聞き、足を止めるリチュ。


「え?その人、人間じゃないですよ。」


「は⁉」「え⁉」「何⁉」


 リチュの言葉を聞き、ガキン、キズ―、ピエロが、驚きの声を上げる。


「どういうことだよ。リチュ姉。」


「そうだよ、この人が人間じゃないって…」


 ガキンとキズ―が、リチュに抗議する。


「お前、なんで俺が、人間じゃねぇって分かった…」


 しかし、ピエロの言葉は、リチュの言葉を肯定する者だった。


 ピエロの、豹変ぷりに、三人は怯える。

 それでもリチュは、ピエロの質問に答える。


「だ、だって貴方。体の中が、土のマナで満たされてるじゃないですか。

 人間族は、マナを体の中に貯めて置くことが、出来ないですし。」


「お前も…まさか…」


 ピエロが、リチュを睨みつける。


「くっそ、あと少しだったのに。」


 ピエロの手から突然、小さな黄色のボールが出てくる。


「危ない!!」


 危険を察知し、急いで、ガキンとキズーを抱え、走るリチュ。

 その後、背後で大きな爆発が起きる。

 三人が振り返ると、そこには、誰もいなかった。


 ——————————


「はぁはぁ、怖かった。なんだったんだ、あいつ。」


 ガキンと、キズ―、リチュは、ピエロから逃げて、元の帰り道に戻ってくる。


「リチュお姉さんがいなかったら、危なかったね。

 しかし、リチュお姉さんはなんで、マナが見えるんだろう。」


 キズ―が、リチュの方を見る。

 その目と言葉に、「(まずい)」と焦る、リチュ。


「(そうだった、人間族はマナを見ることが、出来ないんだった。)」


「さ、さぁ、う、生まれつきだから…

 体質かなぁ?」


 リチュは、目を背け誤魔化す。

 しかし、キズ―は、リチュの言葉を信じ、それ以上は、聞いてこなかった。


 三人達は、再び、森を歩き、『ヒューマ』の村へと、帰宅する。


 ——————————


「ふーっふふ、それで、ダイヤは、その人間もどきに負けて、のこのこ帰って来たの?」


 緑色の髪と、化粧をしたピエロの少女が、黄色の髪と化粧をしたピエロ男、ダイヤを馬鹿にしたように笑う。


「うるせぇな。」


「ま、この子たちでも楽しめるから、いいけれど、この子たちも、いつ死んじゃうか分からないじゃない?

 ねぇ?ほら、ちゃんと足を上げないと、こわーい、ドラゴンに食べられちゃうよぉ?」


 ピエロ少女は、十字架に張り付けた、少年二人、少女一人の下に、ペットのブラックドラゴンを放ち、子供達を襲わせ、楽しんでいた。


「ああ、分かってるよ。クローバー。

 くっそ、今思い出しても腹が立つ。」


 ダイヤは、右側にいる少年の顔ギリギリに、黄色のボールを投げる。

 ボールは、少年の真後ろに着地し、爆発を起こす。

 その音に、少年は泣き出し、失禁する。


「ふふー、きったね。

 怖くて、お漏らししちゃうとかぁ、はっずかしい。」


 ピエロ少女、クローバーが、少年を嘲笑う。


「おい、ハート。お前も楽しもうぜ。

 気分すっきりするぜ、これ。」


 ダイヤが、赤色の髪と化粧をしたピエロ、ハートに言う。


「そうねぇ♡」


 ハートは、暇つぶしに行っていた、サーベル投げをやめ、子供達の前へ移動する。


「た、助けて…」


 懇願する子供達に、持っていたサーベルを投げるハート。

 そのサーベルは、子供達の縄を斬り、子供達を開放する。

 ハートは、落下する子供を、軽々と抱え、安全に着地させ、逃がす。


「あ!おい!ハート!!」「なんで、おもちゃを逃がすのよ!!」


 ダイヤとクローバーが、ハートに詰め寄る。

 ハートは、二人を気にせず、サーベルを回収する。


「だってぇ♡可愛くない子を殺しても、楽しくないじゃなぁい♡」


「は!この戦闘狂が。」「は!この変態きも男が。」


 ダイヤとクローバーが、悪態をつく。

 その言葉の終わりを、待っていたかのように、三人の通信機に着信が入る。

 三人が通信に出ると、通信機の画面に、青い髪と化粧をした、長身のピエロが映る。


「なぁに、スペード?新たに、公開処刑ショーに使う人物の依頼が来たの?」


 クローバーが、聞くと青いピエロ、スペードが答える。


「いや。公開処刑ショーにするか、しないか問わず、『人間に化けたスライム』を殺して欲しい。」


「人間に化けたスライム?」


 スペードの言葉に、怒りの表情をするダイヤ。


「おい、そいつぁ、金髪のガキと黒髪のガキと、一緒にいたやつじゃあ、あるめぇな?」


「ええ、その通りだ。なんだ、知り合いだったか?」


「あれあれぇ?もしかしてぇ、ダイヤが負けたっていう、人間もどきってぇ、このスライム?」


 クローバーが、嫌味な顔で、ダイヤをおちょくる。


「ぷふー、だっさ!超だっさ!

 スライムなんて、雑魚中の雑魚じゃん。そんなんに、負けるダイヤって、超雑魚じゃん。」


「うるせぇぞ!クローバー!!

 んで?そのくそスライムを、捕まえてくればいいんだな?」


「ええ、任せたよ。」


 スペードは、そう言うと通信を切る。


「ねぇねぇ、超絶よわよわ雑魚ダイヤちゃん。

 アタイが、代わりに捕まえてきて、あげよっか?」


「ああ⁉なんでだよ⁉」


 ダイヤは、怒声をあげる。

 しかし、クローバーは、声色を変えず、話を続ける。


「だってぇ、ダイヤは、そいつらに顔見られてるしぃ。

 人間じゃないってばれるヘマ、してるしぃ。

 別に、絶対に捕まえなきゃいけない、って訳じゃないなら、アタイでも十分仕事出来るよ。

 どっかの変態きも男と、引きこもりのオタク女と違ってね。」


 クローバーは、話の後、ハートの方を見る。

 ハートは、二人の話を聞いてはおらず、一人の世界にいた。


「(人間に化けたスライム♡もしかして、あの可愛いい娘が言っていた、スライムって…♡)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る