お隣の女優と体型の話

「隼人から誘われるって初めてじゃない?」


六月中旬、僕と美鈴は学校の近くのカフェに来ていた。

僕はブラックコーヒー、彼女はカフェオレを頼み、それを一口飲んだ彼女は再び口を開いた。


「それで急にどうしたの? 何かあった?」


普段誘わない僕が声を掛けたからか、彼女の口調はどこか心配そうだ。


「いや、美鈴に相談したい事があって……」


「相談? どうしたの?」


これから相談する内容を思うと、とても恥ずかしい。

しかし、僕だけではどうしようもないのは確かであるし、相談する相手は美鈴くらいしか思いつかないので、ここで勇気を出すしかない。


「その、こ、告白って、どうすれば良いかな?」


「こ、告白!?」


彼女はとても驚いたようで、声が裏返っている。

やはり、彼女にも僕が恋愛事を相談するイメージはないのだろう。


「告白って、隼人がするんだよね? その……誰に?」


そこで僕は水野さんとの関係を彼女に伝えた。

勿論、女優をしている事や僕がこれを言ったら恥ずかしいというものを省く。

全て聞き終えた彼女は難しそうな顔をして思案顔だ。

しばらく経った時、彼女が口を開いた。


「成程、それは、なんというか聞いた私の方が恥ずかしくなるというか……」


美鈴はすごく困った様子だ。

何かおかしな事を言っただろうか。


「念の為に確認するけど付き合ってはないんだよね?」


「そうだよ」


そう答えると美鈴は大きく溜息をついた。


「言いにくいけど、もう付き合ってるとしか思えないよ……」


その言葉に僕も今までの事を思い返す。


「……確かに」


付き合っていないと抱きしめたりしないだろう。

今更ながらそんな事に気づいた。


「……まぁ、言葉にしないとな、と思って」


今の彼女との関係もとても愛おしいが、ずっとこのままいるのではなく、もう一歩踏み込みたいと思った。

そして、けじめをつける必要があると感じた。


「……そうか、言葉にしないと伝わらない事もあるからね」


「何て言ったら良いと思う?」


「隼人はその人とどうなりたいの?」


「……ずっと一緒にいたい」


彼女は頬をかいて恥ずかしそうにしている。


「体がムズムズするね…… でも、その気持ちを正直に伝えれば良いと思うよ。絶対大丈夫!」


「やっぱり、それが一番だよな。……ありがとう、美鈴」


「どういたしまして、応援してるよ」



「隼人君、私って太ったかな?」


「突然どうしたんですか、水野さん」


あれから美鈴と別れた僕はいつも通り僕の家で彼女と夕食を食べていた。


「マネージャーさんにね、少し太ったねって言われちゃった」


彼女は太っているようにはとても見えない。

女優だから少しの増量にも厳しいのだろうか。


「特に変わってないと思いますよ?」


「これから夏になって薄着の撮影も増えて、少しの増量も大きいからね。気を付けないと……」


「僕も今度から野菜中心のご飯を作って手伝いますよ。とにかく無理は体に良くないですから程々に頑張りましょう」


「ありがとう。隼人君のご飯は美味しくて沢山食べたくなるから、そうしてもらうと助かるよ」


少しの間の後、彼女は上目遣いでこちらを見てきた。


「ところで、聞きたい事があるんだけど…… もし私がぽっちゃりしても嫌にならない?」


「どんな水野さんでも嫌にならないし、良いと僕は思っていますよ」


「そ、そっか。嬉しいから、一杯だけおかわりしようかな」


食べたいなら素直に言えば良いのにと思いながら僕は彼女の茶碗を持ってご飯をよそいに行った。


美味しそうに食べている彼女を見て、僕は微笑ましく思いながら、今日は告白出来る雰囲気ではないなとそう思うのだった。



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