お隣の女優と嫉妬の話

今日も普段通り何事も無く学校が終わり、この後の予定を話しているクラスメイトを尻目に帰宅の準備をしていた時だった。


「隼人〜」


僕の名前を呼びながら一人の女子が近付いてきた。

彼女の名前は瀧本美鈴で小学校からの付き合いだ。僕の中学校からこの高校に進学したのは僕と彼女だけで、話しかけてくるのはほとんど彼女の方からだが、時折り話す仲である。


「どうしたの?」


「いや、最近生存確認してなかったと思って!」


明るく言うと僕の顔をまじまじと見始めた。


「うん。顔色は悪くなさそうだね!顔色が悪かったら、ご飯を作ってあげようと思ったのに」


「前からそう言ってるけど、美鈴は料理出来ないだろ?」


小学校の調理実習ではほとんど僕がやっていた思い出しかない。


「うーん、隼人の為だったら作れそうな気がする?」


「なんで、そう思うの……」


呆れながら僕が問いかける。

すると、彼女はまるで何か誤魔化すように少し笑った。


「えっとね、えへへ、内緒!」


そう告げると彼女は「またね!」と一言言って足早に教室から出て行った。

何だったんだと思うが、彼女は前からたまによく分からないことを言う。

深く考えても仕方ないと頭を切り替え、今日の夕食はどうしようかと考えながら家路についた。



「ねぇ、隼人君。前から思ってたんだけど、私が行きたいって連絡すると毎回大丈夫ですよって言ってくれるけど、本当に大丈夫?」


場所は僕のリビング。

何故、一日は二十四時間しかないのかという愚痴なのか、文句なのか分からない話が終わると急に話題が変わった。


「僕はまったくと言っていい程予定がないので気にしないで下さい。それに水野さんとお話するのは楽しいですし」


「それなら良いけど…… でも、友達に遊びに誘われたらそっちを優先して良いからね」


「恥ずかしい話ですけど、遊びに行く友達がいないので……」


そう僕が言うと、彼女は心配そうな視線を向けてくる。

このままだと重い雰囲気になりそうなので、僕は慌てて口を開いた。


「いや、でも、美鈴っていうたまに声を掛けてくる知り合いはいますよ」


彼女に安心してもらおうと、一応、話をする存在がいる事を伝える。

少しは効果があると良いのだが……


すると彼女の表情は何故か険しくなってきた。

どうやら、僕はまた不用意な発言をしてしまったらしい。


どこがいけなかったのかを思い返す僕をよそに彼女はボソボソと「えっ? 美鈴って事は女子だよね。しかも呼び捨てだし……」と呟いている。


「あの、水野さん?」


僕がおそるおそる声を掛けると彼女は勢い良く顔を上げた。


「隼人君、コーヒーのお代わりを…… 今夜は長くなると思うから」


そう告げると僕が思わず目を背けてしまうような迫力のある笑顔を浮かべるのだった。


コーヒーを注ぎ、僕が席に着くと早速彼女は口を開いた。


「一つずつ確認していきましょう。まず、その美鈴さんは女子ですか?」


何故だか、尋問口調の彼女。

僕は何かスイッチを押してしまったのだろうか。


「……はい、女子です」


「やっぱり、女子か。ちょっと待って。名前を呼び捨てって事はもしかして……恋人!?」


突然、彼女は慌て出しグイグイ詰め寄ってくる。


「何の話ですか!? 取り敢えず、落ち着いて下さい! 誤解があるみたいなので説明します!」


何とか彼女を落ち着かせると小学校の時に何度か遊び、その時に呼び捨てで呼ぶようにそれが今もなお続いているだけと言うことを伝えた。


「なるほど。隼人君は女子に慣れてなさそうだから、女の子の知り合いとかいないと思ってたけど、まさかそんな子がいるなんて」


「小学生の頃によく遊んでいたからか、あまり異性って感じがしないんですよね」


彼女は肩をすぼめて落ち込み始めた。


「私だって小さい頃から遊んだり、呼び捨てで呼び合う関係になりたかったな。やっぱりそういう関係って絆が強そうだもん」


「僕は水野さんとの関係が一番強いと思っていますよ」


「本当に? 気を遣ってない?」


彼女は上目遣いで聞いてくる。


「家族以外にこんなにご飯を食べてもらえたりする事もなかったですし、こんなに沢山の時間お話ししたのも水野さんだけですよ」


こんなに深く関わることなんて人生でそんなにないのではないだろうか。

僕は今、彼女とそういう関係でいられていると心から思ったいる。


「私も家族以外でこんなに手料理を食べた事ないし、ここまで素を見せられたのは隼人君だけだよ」


すると、彼女は突然僕に抱きついてきた。

しかし、僕は驚く事はなく当たり前の事であるように彼女を受け入れていた。

そして、自然に僕は彼女の背に手を回していた。

ただ抱きつかれる事に慣れただけだろうか。

それとも僕も彼女を求めているのだろうか。

彼女は初めは驚いていたが、すぐ笑みに変わる。


「初めて隼人君も抱きしめてくれたね」


「僕も抱きしめたくなりました」


そう言うと彼女はビクリと震える。

強く抱きしめ過ぎただろうか。

心配になり、彼女の顔を覗き込むと顔が真っ赤の彼女と目があった。


「突然そんな事を言うなんて、可愛すぎ。ずるい。……でも嬉しい」


そして、しばらくその状態でいると彼女は小さく呟く。


「ねぇ、隼人君」


「なんですか、水野さん」


「これからも一緒にいてくれる?」


「……勿論です」


「…‥約束だよ?」










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