お隣の女優と告白の話
七月のある日、いつも通り食後のコーヒーを持って椅子に座ると、目の前の彼女は真剣な顔をして座っていた。
「ねぇ、隼人君」
その声はいつもに増して真剣なものだ。
「はい、なんでしょう?」
今日はいったい何があったのだろうと考えながら言葉を返す。
「私は隼人君って呼んでいるよね?」
「そうですね」
「隼人君は私の事をいつもなんて呼んでる?」
話の行先が少し分かった気がする。
しかし、まったく上手い言葉が出てこない。
「……水野さんですね」
そう答えると彼女はうんうんと力強く頷く。
「私達知り合って割と経ったよね?」
「……そうですね」
一つひとつ確認されるとだんだんと追い込まれている気持ちになり、居心地が悪くなる。
「何で名前で呼んでくれないの?」
「呼んでも良いとは思うんですが、どのタイミングで呼べば良いのか、よく分からなくて……」
普段女子と関わる事が少ない僕は距離の詰め方が分からない。
今は名前を呼びたい気持ちがあるが、始めるタイミングが分からずここまできてしまった。
「じゃあ、今日をそのタイミングにしよう!」
そう明るく言う彼女はウキウキ顔だ。
「水野さんは僕の事を最初から名前で呼んでいましたよね」
「そうだね、仲良くなりたいなって思った人は名前で呼んでいるかも」
「そう思っていてくれて嬉しいです」
「隼人君、優しくしてくれたし、女優とか気にしないで関わってくれたからね」
「水野さんがいつも自然体でしたから、僕もそんな風に関わっていた気がします」
「それも、隼人君が引き出してくれたんだよ。……まぁ、名前を呼ばないと駄目ってわけではないけど、呼んでくれると嬉しいよね」
そう言うと彼女は期待する眼差しを僕に向けてくる。
いつもの僕だとここで誤魔化していただろう。
しかし、ここは一歩を踏み出す時だ。
そう思うと短く息を吸い込む。
「えっと、ふ、風花さん」
意を決して言うと彼女はキョトンとしている。
「……もう一回、呼んで?」
「……風花さん」
「……嬉し過ぎる」
「改めて、面と向かって言うと恥ずかしいですね」
頬を掻きながら言うと彼女はニコニコ笑顔だ。
「すごく良かったよ」
「喜んでもらえて良かったです」
「ありがとね、隼人」
今度は僕がキョトンとする番だ。
「……もう一回呼んで下さい」
「隼人」
自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「……風花さん、ズルいです」
僕がそう言うと彼女はニコッと笑って答える。
「隼人が距離を詰めてくれたから、私ももっと距離を詰めたくなっちゃった」
「嬉しいよ、風花」
彼女の言葉に胸が一杯になり、思わず僕の口から彼女の名前が漏れていた。
「……は?」
そう言うと彼女は顔を真っ赤にして固まってしまった。
「どうしたの? 風花」
「隼人が敬語を使ってない!さらっと呼び捨てだし」
彼女は大興奮だ。
「僕ももっと風花に近付きたくて」
「嬉しい、すごく近く隼人を感じる」
そして二人で笑い合った。
「風花」
「何? 隼人」
「僕は今みたいに風花とこうしてられるのがとても楽しい」
「うん、私も」
「でも、ケジメをつけたいというか、この関係に名前を付けたい」
彼女が息を呑む気配を感じる。
僕も緊張するが意を決して口を開く。
「風花が好きだ。ずっと一緒にいたい、彼女になってください」
そう言うと彼女は僕の胸に飛び込んできた。
「うん! 私も隼人が好き! ずっと一緒にいよう!」
「……ありがとう、すごく嬉しい」
「……私もだよ。それに今までで一番格好良かったよ」
「……風花も一番可愛いよ」
彼女はふふっ、と笑うと静かに目を閉じる。
……そして僕らは口づけをした。
了
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ここまで読んで下さりありがとうございます。
初めて完結させた作品であり、至らない面が多々あったと思いますが少しでも面白かったと思って頂けたら幸いです。
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大学の後輩が僕の家に今日も家事をしに来てくれる
隣に住んでいる女優がよくグチを言いにくる 宮田弘直 @JAKB
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