お隣の女優とご飯の話

前回の来訪から三日経った今日、彼女は再び僕の家を訪れていた。


「前から思ってたけど、隼人君って料理が上手いよね」


「何回か食べてるじゃないですか。改まってどうしたんです?」


僕は料理の手を止めずにそう答える。

ちなみに今日の献立は肉じゃがだ。

すると、彼女は椅子から立ち上がり、カウンターキッチン越しに僕の手元を見やる。


「今日料理番組の収録があったから、私も料理をしたのだけど出演者に弄られまくってね」


そう話す彼女はとても不機嫌そうな表情を浮かべている。


「それで思ったんだけど、初めて会った時から隼人君が毎回料理を作ってくれているよね。普通に受け入れていたけど、男子高校生が料理を作るって中々ないと思うのよね」


「まぁ、一人暮らしですからね」


「……私も一人暮らしなんだけど」


しまった、と思った時にはもう遅かった。

料理の手を止めて慌てて彼女を見やると顔つきが厳しくなっている。


「どうせ、私は毎食インスタントとか外食とかのズボラ女子ですよーだ」


大人っぽい顔つきの彼女が口を尖らせて子どもっぽい表情をすると、そのギャップに見惚れてしまう。

見惚れて黙っている僕を見ると「何?」と短く一言。

このままでは夕食どころではなくなってしまう。

何かフォローをしなければと僕は慌てて口を開く。


「水野さんは仕事してますからね。僕は時間があるから料理をしているだけですよ」


「本当? 私の事年上のくせしてズボラとか思ってない?」


どうやら僕が彼女の事をズボラだと思ってないか心配しているみたいだ。

彼女にも年上のプライドがあるんだなと可愛らしく思う。


「自炊してるしてないでズボラとかないですよ。それに高校生で社会に出ている水野さんはとても凄いと思いますよ。僕には何もないから羨ましいですよ」


そう言うと彼女はきょとんとこちらを見やる。


「いや、ちょっとクサかったですね。とにかく、ご飯を食べましょうか」


慌てて取り繕うと料理の準備を再開させる。

何を語っているんだととても恥ずかしくなる。


「そんなことないよ」


先程とは違った優しい声色に思わず彼女の方を見る。

彼女は優しく微笑んでいて、ただただ綺麗だと思った。


「隼人君は私と自然に接してくれているからそんな風に思ってくれてるとは知らなかった。だからそう言ってくれて凄く嬉しい」


そう言うと彼女は僕の手を両手包み込んで続ける。


「それにね、隼人君には何もないなんて事はないよ。隼人君が美味しい料理を作って、何があっても優しく私の聞いて癒してくれる。隼人君は私にとってそんな素敵な時間を作って守ってくれているから、私にとってはとても大切な存在だよ」


彼女が握ってくれている手とその言葉から温かさを感じ心が満たされていく。


「あ、ありがとうございます」


恥ずかしくなり、彼女の目が見れず手元を見ながらお礼を言う。

彼女が僕の視線を追って握った手に気付いたのか、大慌てで手を離す。


「湿っぽい話になっちゃったね。お腹空いちゃったなー」


恥ずかしくなったのか、慌てて言うと椅子の方に戻って行く。

この前は自分から胸を押し付けてきても平然としていたのに、恥ずかしいと思うこともあるんだなと新鮮な気持ちになる。


「隼人君、まだー」と彼女の声が聞こえてくる。


彼女が大切だと言ってくれた、この時間を守っていこう。

ただ純粋にそう思った。




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