ウミとワタルのとりかえっこ
紺青くじら
エピローグ
「とりかえっこしましょう」
古びた神社にある小さな池の前で兄ちゃんはそう言うと、拍手を2回した。そうして、目の前の池をじっと見つめる。
「やっぱりダメか」
「兄ちゃん、何してるの」
尋ねると、兄ちゃんはいたずらっ子の顔をした。
「知らないのか、わたる。この池の怪談」
「かいだん?」
「この池の前で今みたいに、とりかえっこしましょうって唱えて拍手を2回する。そうするとどこからか現れた奴に引っ張られて、そいつと取り替えられちゃうんだとよ」
「ええ!なにそれ、こわいよ〜」
怖がる俺の姿に、兄ちゃんは満足そうに笑った。
「ただの怪談だよ。現に今やったけど、なんもなっちゃいないしな」
「え〜、ねぇ帰ろうよ〜」
「ったく、お前は本当に怖がりだなぁ」
もうすぐ夕暮れ時。家に帰ったら、パートから帰ってきた母さんが、美味しいご飯を作ってくれる。今日の夕飯は何かとワクワクしながら、兄ちゃんと手を繋いで歩く。兄ちゃんはもっと速く歩けるのに、俺のペースで歩いてくれている。
「でも俺、兄ちゃんと入れ替わってみたいかも」
「俺と? なんで?」
「だって小学生ってカッコいいし。運動神経もいいし。あ、あとうみって名前もいい!」
「なんだそれ」
兄ちゃんは笑ってくれた。クシャッと顔を歪ませて笑う兄ちゃんの笑顔が、大好きだった。
俺は本当に、兄ちゃんが大好きだった。
ウミとワタルのとりかえっこ 紺青くじら @kugiran
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ウミとワタルのとりかえっこの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます