ウミとワタルのとりかえっこ

紺青くじら

エピローグ

「とりかえっこしましょう」


 古びた神社にある小さな池の前で兄ちゃんはそう言うと、拍手を2回した。そうして、目の前の池をじっと見つめる。


「やっぱりダメか」

「兄ちゃん、何してるの」


 尋ねると、兄ちゃんはいたずらっ子の顔をした。


「知らないのか、わたる。この池の怪談」

「かいだん?」

「この池の前で今みたいに、とりかえっこしましょうって唱えて拍手を2回する。そうするとどこからか現れた奴に引っ張られて、そいつと取り替えられちゃうんだとよ」

「ええ!なにそれ、こわいよ〜」


 怖がる俺の姿に、兄ちゃんは満足そうに笑った。


「ただの怪談だよ。現に今やったけど、なんもなっちゃいないしな」

「え〜、ねぇ帰ろうよ〜」

「ったく、お前は本当に怖がりだなぁ」


 もうすぐ夕暮れ時。家に帰ったら、パートから帰ってきた母さんが、美味しいご飯を作ってくれる。今日の夕飯は何かとワクワクしながら、兄ちゃんと手を繋いで歩く。兄ちゃんはもっと速く歩けるのに、俺のペースで歩いてくれている。


「でも俺、兄ちゃんと入れ替わってみたいかも」

「俺と? なんで?」

「だって小学生ってカッコいいし。運動神経もいいし。あ、あとうみって名前もいい!」

「なんだそれ」


 兄ちゃんは笑ってくれた。クシャッと顔を歪ませて笑う兄ちゃんの笑顔が、大好きだった。


 俺は本当に、兄ちゃんが大好きだった。

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ウミとワタルのとりかえっこ 紺青くじら @kugiran

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