第7話

 走った。

 夏、茹だるような炎天下。太陽からの熱線が地面を焼き、灼熱の地獄と化し、それは白みがかっているように見える。


 そして、目の前の信号は、真っ赤に燃えている。どうゆうわけか、一向に変わる気配がない。その間、熱線は容赦なく肌に突き刺さり、ピリピリと微かな痛みを伴う。どろり、と粘性をもった汗が額から流れ、頬を舐める。


 アスファルトから反射される光はしつこいほどに眩しく、目の前を走り去っていくトラックのエンジンは妙にうるさい。

 電車の時間が迫っていた。いっそのこと、このまま家まで引き返してしまおうか、などと思う。すぐさま、理性が蓋をする。が、体を覆う不快感は、沸々と湧き上がり、怒りへと昇華され、爆発する。


 ついに溢れだした怒りに、理性は吹き飛ばされ、踵を返そうとした、その時だった。

 信号が青く変わった。とても鮮やかな色だった。


 僕は大きく、腿を上げ、地面を蹴り上げ、走り出した。勿論、駅の方へ。

 汗は吹き出し、息を切らしながら、熱風をかき分けるように、走った。電車に乗らなければならいない、それ一点だけを考え、走った。

 先程の自分を振り払うように。しかしながら、或いは逃げているようでもあった。

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戯言。 比良坂ぬえ @hirasaka0719

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