第12話 進化は続くよどこまでも
【ポイントを15消費してショベルを購入しました】
「ふう……片付いたわね」
購入したショベルのおかげで、道のど真ん中に散乱したゴーレムの残骸をスムーズに端に寄せることができた僕たちは、守護者が現れた右の道へ進むことにした。
しかし、魔法って便利だよな。僕もポイントを使えば魔法を覚えられたりするのかな?
【可能です。ポイント85000を使用すれば、初級火炎魔法が使えるようになります】
いや、それは流石に無理だろ。
魔法戦車としての人生を諦めたところで、リリアが新たな敵の気配に気がついたようだ。
「あれもゴーレム……なのか?」
遺跡内に輝く魔鉱石の光が、奴の透明な体を通して反射し、無数の虹の帯を周囲に散りばめる。まるで夜空に浮かぶ星々が集まってひとつの巨大な存在となったよう。
「ゴーレムはゴーレムでも、あれはクリスタルゴーレムだ」
奴の体は硬い水晶でできており、冷たく輝くその表面は、無限の年月を刻む時の流れを超越しているようにも見える。背丈は先のゴーレムと大差はないが、その肩口からは鋭利な突起が生え出ている。その見た目は古の神秘を守る盾と言ったところか。
「見惚れている場合じゃないわ。クリスタルゴーレムは物理攻撃にも強いのよ」
「じゃあ、一体どうする!?」
「それはね……逃げるのよお!」
一目散にもきた道へ走り出すリリア。僕たちは呆気に取られつつも、急いで彼女の後を追う。
〈ガコンッ〉
「しまった!」
そう思った時には遅かった。
焦って走り出した僕のキャタピラは遺跡内の歪んだ道に挟まり、カラカラと空回りをしている。
「急いで!!」
「後ろだ、背後!!」
ああ、新たな人生――いや戦車生もここでお終いか。
なかなか楽しかったよ、2人とも。
〈ガチャン……〉
クリスタルゴーレムはその巨体から振り上げた腕で僕の体を何度も叩くが、付くのは擦り傷程度。もちろん痛覚は無いのだが、レベルでいえば10円玉で車体を引っ掻くくらいのもの。
え?もしかして、コイツの攻撃力無いんじゃね?
「ええと、おふたりさんはちょっと離れててもらえる?」
「あ、ああ……流石だな」
主砲をくるりと回し、クリスタルゴーレムの腹部に照準を合わせる。
リリアとアルフが道から離れたのを確認すると、思いきり主砲をぶっ放した。これは別に清き我が車体を傷つけられたから怒っているのではない。ただ単に攻撃されたからやり返しているだけで、立派な正当防衛なのである。
〈ドッゴオオオン〉
耳をつんざく轟音と共に、砲弾がクリスタルゴーレムの胸部に命中した。瞬間的に起こった衝撃は、奴の透き通る体を振動させ、その内部で砲弾と光の粒子が狂乱したように舞っている。
クリスタルの特性により、衝撃波が内部で反射し合い、複雑な波動を生み出す。そのおかげか砲弾は貫通する事なく奴の体内を駆け巡り続け、クリスタルゴーレムは内部から崩壊した。
爆煙も破片も飛び散る事なく、挟まっていたキャタピラも発射の衝撃で元に戻り一件落着。と、思っていたのだが。
「何で慌てて挟まったりしたの! こう言う時こそ冷静に行動しなきゃダメでしょ!」
「はい、すみません……」
戻ってきたリリアに、まるで我が子を叱るような口調で散々説教を喰らったのだった。
元はといえば彼女が急に走り出したのが原因だと思うのだが――。
「何か言いたいことでもある?」
「いいえ、何も」
ここで言うのは控えよう。
異世界軍事奇譚〜転生したら戦車でした〜 小林一咲 @kobayashiisak1
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