Episode.00「ある“男”の終わりとある“青年”の始まり」

1


夜の闇を照らす街灯の光が薄く差し込む部屋で男はベッドに座り込んで居た。


「・・・」


身体は疲れているのに何故か寝れない。そんな中、男は鼻の根元を指で摘みながら目を閉じた。

数秒の沈黙ののち、男はベッドの側に置いてある“包丁”に顔を向けた。


(迎えが来ないなら、此方から行こう。....自害した著名人に、会えるかな?)


そう思いながら男は包丁に手を伸ばした。

次の瞬間、


「!」


男は包丁の前に現れた見知らぬ石碑に手を触れていた。

手のひらに電流が走った様な感覚が男を襲った瞬間、男は石碑がばら撒く水の様な物を浴びた。


「⁉︎」

『〜』

「?、なんだ?、何なんだ⁉︎」

『〜』


石碑から自分の名前を呼ばれる中、男は目を見開きながら反応出来ず居た。

次の瞬間、石碑は水の様な物をばら撒きながら光と共に男を包み込んだ。







2


「ッ!」


スマホがいつもの目覚ましが聴き慣れたメインテーマを流す中、男は布団から飛び起きた。


「・・・」


男はスマホの目覚ましを止めるとベッドから立ち上がったのち包丁に目を向けると恐る恐る手を伸ばし、包丁を掴んだ。


(さっきみたいには、ならなかったな....あれは、夢か?)


ゆっくりと包丁を置いた男は部屋を出て階段を降りると洗面所で洗顔等を済ませたのちリビングへ向かった。

そしていつも通りに両親の朝食を用意し始めた。

“事故で片足を失った母”と“定年を迎えてより一層グータラになった父”の為に。

“1人暮らしの為の練習”と自分に言い聞かせるが、男にとって朝からこれは苦痛だった。


(何で親父の分まで....定年退職してから煙草とゲームに溺れて家の事何もしない親父の分まで)


そんな事を思いながら男は両親の朝食を作り終え、自分の分を作り始める。作るのも食べるのも手早く済ませたのち会社で食べる弁当を作ると保冷バックにケースごと突っ込んだ。

そして医者から出される精神薬を服用したのち開いた扉の方を向いた。


「ちょっと、何よこれ」

「?。ああ母さん、おはよう。いつもよりもだいぶ早起きだね」

「いびきが煩くて眠れないのよ。それと、パンにして欲しいって言ったんだけど?」

「親父が煩いだろ?“マーガリンは体に悪いって”。親父の前で食うと嫌な顔されるぞ」


そう言うと男は小言を言う母親を他所に保冷バックを持ってリビングを出た。

母が自力で歩ける様になったのは喜ばし事だし、母が小言ばかり言う気持ちがわからない訳でもない。だからこそ男にとっては苦痛だった。


だが、それで終わる訳ではない。


『〜』

「?、誰だ?。・・・?」


誰かに呼ばれた様な気もしたが特に気にする事なく男は2階の自室へ戻り、鞄の用意を整え、スーツに着替えた。そして鞄を持って廊下に出ると男は親父と会った。


「あっ、おはよう」

「おう、今日も稼いで来いよ。何だったら今まで以上に」

「・・・」

「返事は?」

「これ以上は稼げないよ」

「口答えするな!」

「ッ!」


男は父親から殴られた。父親は元々暴力的で身体に痣が出来る程殴られた事もあった。が、定年退職してから父親は更に狂った。


「これ以上稼げないなら、もっと稼げるところに転職しろ!」

「障がい者の転職は簡単じゃないんだよ」

「お前は障がい者じゃない!」

「ガッ!」

「もしそうなら、うちに障がい者は2人も要らん!。出て行け!」

「痛ッ」







朝から散々な目に遭いながらも男は通勤の最中に頓服薬を服薬するとそのまま電車に乗った。

満員電車の中、イヤホンからの音漏れを気にしながら男は吊り革に捕まり、いつもの駅で乗り換え、いつもの改札を通り、いつもの駅を出ると10分程歩いて職場に着くと、“一旦”イヤホンを外し、入社し、エレベーターに乗り、自分達のオフィスに入った。

早朝出社、誰も居ない部屋で自分のパソコンを起動させ、引き出しから職場用のイヤホンを取り出すとスマホに繋げ、音楽を流し、仕事を始めた。

それから約1時間後、


「おはよう」

「?。あっ、おはよう御座います」


男はイヤホンを外し、歳上の同僚に挨拶した。


「今日も頑張ろう」

「はい」



「見ろよ。あの2人、また早朝出社だぜ」

「6人でやる仕事を2人でやるんだからな。しかもイヤホンしてる若い方、仕事出来るせいでかなりの量を任されてるらしいぜ」

「あの2人が定時で帰るところ、見た事無いぜ」

「イヤホンしてる若いの、まだ23歳なのに相当老けた表情してないか?」

「医療休暇の病み上がりなのに、あんなに無茶するんじゃな〜、可哀想に」


部署部屋の外から聞こえる声に耳を傾ける事無く、男は淡々と仕事をこなした。無論、イヤホンして居る彼に、そんな声が届く訳もないが。


男の居る部署は障がい者と上司の計7名で構成されていた。だが、上司は上司の仕事を熟しており、男とその先輩同僚を除く4人のうち3人は窓際族。残りの1人は半身麻痺で思い通りに仕事が出来ない。だからこそ自然と2人の仕事の量が増える。

しかも男は他部署からの仕事も熟す為、両者の仕事量は更に増える。


(仕事が多いだけならまだ良いが....)


職場でも窓際族同僚から暴力を受けていた。だが幾ら上司に報告しても「現場を抑えてないから」「彼は重度の障がいだ。軽度である君が我慢しない」と言われ、まともに取り合って貰えない。


(本当、転職して〜)


『〜』

「?」


(イヤホンしても聞こえる。・・・ハハッ、幻聴が再発したかな?)







3


4時間の残業を終え、男は帰路に立って居た。

家に帰ればまた父親の暴力と母親の小言が待っている。脚は酷く重かった。

フラつきを抑えながら歩いていると、


『〜』

「ッ!。何なんだよ!。朝からずっと!。・・・?」


怒り任せに耳からイヤホンを引き抜いた男は振り返った先にある祠の様な物に目を止めた。


(あれ?。古い神社があった場所....だよな)


そう思った男は声にならない声を挙げたのち崩れながら笑うと祠の前に跪いた。


「ああ。等々幻覚まで再発したか.....ハハッ、ハハ、アハハハハッ。・・・?」


男は不審な感覚を覚えると祠を見ながら首を傾げるとゆっくりと立ち上がった。


「呼んでる、のか?」


顔をピクピクさせながらゆっくりと祠に向かって歩き始める男。そして男が祠に入った瞬間、一斉に松明が点火。祠の中が照らされた。


「!」


祠の先にある物を見た男は鞄を捨てて一気に奥まで走った。


「これは....」


祠の奥まで走った男の目の前にあったのは、昨晩触れた“あの石碑”だった。


「・・・」


男は恐る恐る石碑に触れると昨晩と同様の電流らしき物が男の体内に流れ込んだ。

すると男は体内から薄い緑色に発光し始めると石碑も同じ様に発光したのち光に包まれた男を取り込んだ。







4


紺色の様な広いか狭いかも分からぬ空間の中を白くて変幻自在なもの波の様なものが漂い、空間を照らしていた。

その場所は夢の様な、夢と現状が混ざった様な場所で、男に妙な安らぎを与える何処か心地の良い空間だった。男以外誰も居ないその空間は辺りを見渡し、何かを・誰かを探すカズキを他所に妙な安らぎと癒しを与えて続けて居た。


「ァァ、ァッ」


空間に飛ばされてから1分も経たないうちに、男は気を失うとそのまま眠りに付いた。

すると紺色の空間は水縹色へと変わった。

そして安心した様な表情で深い眠りに付く男の側に50m以上はある銀色の巨人が現れると背中にある2本の翼の様な突起物と胸元にある朱色のエナジーコアを発光させたのち身体の色を“薄緑色”に変えたのち突起物の色を“ウォーターグリーン”に変え、エナジーコアを赤く発光させるとカズキに右手を翳し、“若葉色”に包み込んだ。







「・・・、?。....ッ!」


眠りから目覚めた男は慌てて身体を起こすと水縹色に変わった空間を見渡すとゆっくりと立ち上がった。


「此処は?。・・・さっきと違う様な」


そう呟いたのち男は後ろから妙な熱気を感じるとゆっくりと振り返った。

するとそこにはY字の様な、V字の様な赤い発光体があった。

その発光体は心臓の鼓動の様な音を出すとウォーターグリーンとアクアグリーン、2色のオーラを放出し、50メートルはある巨大な人型を作り出した。

2色のオーラで形成された巨人は男を見下ろすと赤い発光体を輝かせたのち別の巨人へと姿を変えた。


「あ、あれは....まさか....」


巨人は背中に2本のウォーターグリーンカラーの10メートル以上の高さはある翼の様な突起物を生やし、身体全体を薄緑色に変えるとモヤを消し去り、姿を現した。


「アンタか。俺の事ずっと呼んでたの」


男からの問いに答える事無く巨人は男を見下ろした。

男は表情を鋭くすると突如としてこの世の者とは思えない雄叫びが耳に入った。


「?」


表情にハテナを混ぜながら巨人と共に右を向いた男。そこには銃を持った男達や剣や刀を持った女達が雄叫びを挙げる怪物と戦っている様子が映し出されて居た。


「・・・何でこんな物を?。....まさか」


男はジェスチャーで巨人に問いた。

“自分があの世界に行くのか?”と

すると巨人は答える代わりに別の物を映し出した。

それは男によく似た、厳密にはカズキを4歳程若返らせた様な青年が様々な手持ち武器を召喚・装着し戦ってる物だった。

男は戸惑いを隠せない様な表情を浮かべながら再び巨人と顔を合わせた。


「“転生”の反動で未成年ぐらいまで幼体化するって事か?。しかも、あんな訳の分からない武器を装着して怪物を斬り、撃ち抜く。そんな世界に行くのか?」


巨人は答えなかった。だが男の考えは既に固まって居た。


「上等だ」


男の答えを聞いた巨人は僅かに頷いた。


「中途半端な障がい抱えながら腐臭漂うお先真っ暗な人生歩むよりは、命掛けで誰かを護る方がマシだ」


そう言うと男は再び右側に顔を向けた。

するとそこには武器を手にした男女が巨大な石像の前で大小様々な怪物と戦う様子が映し出されて居た。


「そんじゃあ。・・・いきましょうか!」


男がそう言った瞬間、男は若葉色の発光体に包まれた。

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REINA 〜集結する“転生者”と“破壊者”〜 村渕和公 @sinotukuame

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