Episode.25「人の力」

1


「・・・、?。....ッ!」

「アーロン隊長、気が付きましたか?」


アーロンは数回瞬きをしたのち身体を起こすと辺りを見渡したのち自分の両手を見つめた。


「俺は....と言うより、此処は?」

「カズキさんが展開した、戦闘用亜空間の中です」

「ほう?此処が噂の....」

「てか、俺たち何で生きてるんだ?」

「グリードワンに、取り込まれた筈じゃ?」

「カズキさんが助けてくれたんです」


アーロンは頷きながら辺りを見渡すとハッとした様な表情を浮かべ、再びマナミと顔を合わせた。


「他は⁉︎、他の部下は?」


マナミは静かに首を横に振った。それを観たアーロンは全てを察した。


「嘘、だろ....」


アーロンは静かに重たい息を吐いた。

その間にも、カズキは戦って居た。

【34人目の破壊者“レン”】の力を借り、55メートル二足歩行型のジャイアント級3体とギガント級の計4体と交戦するカズキ。

戦局は劣勢。それでもカズキは諦めて居なかった。

いや、“諦める”という事を知らないかの様な戦い方だった。


「流石に、劣勢か....」


アーロンが呟いたのも束の間、

真上に飛び上がったカズキはそのまま急降下したのち地面スレスレを飛びながら【フライトパーティクルウェーブの強化発展型“バーストフライトパーティクルウェーブ”】を放ちジャイアント級を怯ませて横転させた。


(次ッ!)


獲物を定めて急上昇したカズキは脚に魔力を溜めるとそのまま急降下。【魔力独立型キック“インパクトブレイブキック”】で鋭い蹴りをジャイアント級の頭部に喰らわせると着地したのち再び脚に魔力を溜めて今度は“インパクトブレイブキック”をサマーソルトキックで喰らわせ、横転させた。


(2体ダウン、次!)


カズキは無傷のジャイアント級に“ストラトスマヒュリ”を投てきしてけん制すると、地面を走りながら突っ込んだのち飛び上がり、胸元に連続で蹴りを喰らわせたのち顔面に回し蹴りを喰らわせた。


『(カズキ、後ろ)』

「(!)」


カズキが振り向いた先にはバーストフライトパーティクルウェーブを喰らって横転して居たジャイアント級が立ち上がると同時にカズキに向かって電撃光線を放とうとして居た。

カズキはすぐさまジャイアント級の後ろに回り込むと回し蹴りを喰らわせたジャイアント級を盾に電撃光線を防いだ。


「同士討ちか。考えたな」

「数が多ければ良い、と言うわけでは無いと言う事ですね」


ジャイアント級を盾にして居る最中にリベレーションから発生させた魔力を干渉・圧縮させるカズキ。

そしてジャイアント級の電撃光線が終わった瞬間、カズキはジャイアント級の背後から姿を現すと“ヴェイパーストリーム”を頭部に喰らわせた。


(レンさんの力を借りてるだけあって、技一つ一つが強力だな)


ヴェイパーストリームを喰らったジャイアント級は仰向けに倒れた。それを観たカズキはすぐさま飛び上がり、横転したジャイアント級の上空に辿り着くと“バーストフライトパーティクルウェーブ”を3回連続で放った。

カズキが着地した瞬間、そのジャイアント級は爆散した。


「凄い。あっという間に....」

「油断するな。ジャイアント級の残骸がスモール級やミディアム級に変わって居る。やるぞ、ディフェンスアルファ」

「微力ながら、加勢しよう」







2


クラウスとガンツが空中で火花を散らす頃、

ヴィクトルの召喚した“セブンソード”がジャイアント級を仕留めた。が、まだ終わりではなかった。


「ジャイアント級ナイトタイプが、2体も⁉︎」


無線を聞いて居たマリアは驚きを隠せない声を挙げた。そんな事を気にすることもなくウィルゴーは無言でピストルソードを二刀流で操りながらミディアム級の息の根を止めていった。


「・・・ヴィクトルさん、やる気みたいですね」

「引き続き、ジャイアント級はヴィクトルさんに任せて。私達は他のビーストの対応。散ッ!」


カタリナの号令で一斉に散開するストライクデルタ。

だが幾ら熟練揃いでも連戦続き、疲労は隠せなかった。

だがそんな疲労を表に出す事なく、ヴィクトルはセブンソードを操り、クラウスはガンツと戦って居た。


(アレダケノ連戦ヲ潜リ抜ケテカラノコノ戦闘力。流石ダナ。コレハ、少シ誤算ダッタナ)


クラウスと鍔迫り合いになりながらそう思ったガンツはクラウスを吹き飛ばすと軽く舌打ちをした。


「(流石に....だが、諦めて良い理由はない。カズキは、恐らくもっとやばい筈)」

『(自分の体も大切にしろよ。そろそろやばいんじゃないか?)』

「(これぐらい乗り越えなきゃ、破壊者なんてやってられない。そうだろ?)」

『(そうかもな。....自分のペースを、乱すな)』


クラウスは翼を動かして急加速すると再びガンツに斬り掛かった。

ガンツは僅かに表情を険しくしながら斬撃を数回避けると大剣を振り翳した。

再び鍔迫り合いになる両者、その下ではストライクアルファとブラボーが共同戦線を張って居た。


「大規模侵攻だけあってキリがないですね」

「話してる余裕があるならビーストを斬って!」


ナナミにもミサキにも、余裕は無くなって居た。

幾らストライクとは言えど無尽蔵に魔力を持って居る訳ではない。長期戦になれば成る程、彼女達が不利になって行くのは明確だった。


「このままじゃ....」

「ッ!、ガエルさん!前に出過ぎです!」


メリッタの忠告を聞く事なくマルールビーストの群れに突っ込むガエル。ガエルはマジックショットでミディアム級を仕留めるとランスモードに切り替えてスモール級に斬り掛かった。


(私は、私は“死神”じゃない!)


こう言う状況だからこそ蘇る苦い過去。ガエルの頭の中は、その苦い過去の再来を防ぐ事で頭が一杯だった。


「ガエルさん....」

「・・・ッ!」


オリビアはブレイドを逆手に構えるとガエルを助けようとマルールビーストの群れに突っ込んだ。


『ローゼンブルクの東部で、誰か戦ってるぞ』

『ありゃ、男性兵士だ。しかもストライクと同じ変形武器を使ってるぞ』

『こちらスカウト26。アンノウン確認。ストライクの男性版で一前世代の戦闘服を着て居る』

「ッ!」


耳に入り込んだ通信にマツリはハッとした表情を浮かべた。それに反応する様にサトミはマツリの方を振り向き「まさか」と呟いた。


『アーネスト!何故君が戦って居る』

『ちょっと観てられなくなった。ただそれだけだ』

『君の身体ではデルニエフォルトの負荷には耐え切れない』

『馬鹿野郎。これ以上教え子や部下を死なせられねぇんだよ』


ジェームズの静止に感情的に返すアーネスト。

マツリは勿論、アーネストの事を知って居る誰もがジェームズと同じ気持ちだった。


『こちらスカウト26。アーネスト教官のもとにスモール級とミディアム級の群れが迫ってる!』

『アーネスト教官に負荷を掛けられない。俺達も行くぞ!』

『ああ。スカウトでも、武装はしてるし戦闘訓練は受けてるんだ!』

『26が前に出る?。こちらスカウト34。ディフェンスブラボー支援の為、此方も前に出る』

『もう偵察だけやってる訳にはいかないな。此方21、俺達も戦闘に参加する』


生き残った偵察部隊が次々と前線に出る中、ジェームズの重たい溜息が無線に響いた。すると、


『此方ディフェンスコマンダー。全責任は私が取る。各自、持ち場に縛られず、今出来る最善を尽くせ。戦闘でも救護でも構わん。今やるべきだと思った事をやれ!』

『此方レンジャー24。了解!、これよりストライクチャーリーの支援に向かう。彼らには中距離支援が必要だ』

『此方スカウト14。レンジャー24、遠距離支援は任せろ!』

『此方メディカル15。医療物資は尽きたが弾薬はある。微力ながら、前線に加勢する』


ミッシェルの号令の元で動き始めた防衛隊。風前の灯かの様に見え始めて居た防衛線は息を吹き替えそうとして居た。


(チッ!シブトイ奴ラダナ。リョウタガ追イ詰メラレタ理由モ分カル。人間トハ、コレホドシブトクテ、諦メガ悪イノカ?。・・・ソンナモノヲ、本当ニ滅ボスベキナノカ?)


今までやって来た事に疑問を持ち始めるガンツ。そんなガンツに容赦ない剣撃が襲い掛かった。


(下も頑張ってる。俺がくたばる理由も、息を挙げる理由もない。コイツを討てば、ビーストも退く筈)


ガンツの考えも知らぬまま、クラウスはマジックブレイドでガンツに斬り掛かった。

上も下も、違う意味で激戦だった。







3


(野郎....)


ジャイアント級2体目を仕留め、3体目を瀕死に追い込んだカズキだったがギガント級の力で3体目は息を吹き返した挙句、空間に作った亀裂から更に2体のジャイアント級が現れた事により戦局はより酷い物となった。


「流石のカズキさんも、限界近そう」

「彼は元々病み上がり。元々万全ではない筈よ」


ジャイアント級がばら撒くスモール級を対処しながら地面にしゃがみ込み、胸元のエナジーコアを点滅させるカズキを心配するディフェンスアルファの面々。

カズキは息を切らしながらジャイアント級3体を見上げた。


(このまま、終わるか!。終わって、たまるか!)


両手を強く握りしめながら立ち上がったカズキは真上に跳躍し、そのまま空を飛び回るとジャイアント級のブレスを避けながら“フライトパーティクルウェーブ”を放ちジャイアント級3体を同時攻撃したのちマナミらディフェンスアルファの前にもフライトパーティクルウェーブを落とし、スモール級の8割を仕留めた。


「隊長」

「あの結晶体をどうにか出来れば、勝機はある」

「でも、どうやって?」


アーロンは数秒考えるとハッとした表情を浮かべたのちカズキを見上げた。


「カズキ!もう一度奴に結晶体を出させてくれ!。俺に考えがある!」


地面に着地したカズキはアーロンの方を向くとゆっくりと頷いて返したのち地面を勢いよく走り出した。

そして“リベリオンソード”を二刀流で展開すると2体のジャイアント級を同時に斬り裂いた。


「総員狙え!構え!」

「隊長⁉︎」

「俺達の火器じゃ、ギガントには」

「構わん。あの結晶体を狙え!」

「・・・確かに、ギガントと言えど、急所に攻撃を喰らえば....」

「可能性はあるか」

「けど、防がれるんじゃ?」


アーロンは僅かに笑みを浮かべた。


「意外と“雑魚”の攻撃には気が付かないかもしれんぞ」


アーロンがそう言った瞬間、狙い通りにギガント級は黄金色の結晶体を出した。


「撃てェェェェーッ!」


アーロンらレンジャー2が構えるマシンガンの銃口から飛び出す銃弾が黄金色の結晶体に当たって砕ける中、ギガント級は僅かに怯んだ。

それをカズキは見逃さなかった。

カズキはすぐさま結晶体に向かって“ストラトスマヒュリ”を投てきした。

レンの力を借りる事で強化されたストラトスマヒュリは結晶体を砕くとギガント級は背中から火を拭きながら大きく怯んだ。


「やったぞ!」

「よし!これでもう増援は呼べない!」


カズキは構えながら息を整えると走り出したのちジャイアント級に“インパクトブレイブキック”を喰らわせ、ジャイアント級を蹴り飛ばした。

が、その瞬間、ギガント級は尻尾でジャイアント級を拘束すると自身の魔力でジャイアント級を包み込むとそのまま自身の体内に吸収した。


「なっ⁉︎」

「捕食、ではないか....」


ジャイアント級を吸収したギガント級は咆哮を挙げながら尻尾の先端を鋭い刃物を変化させ、背中の装甲を再生した。


「あれは⁉︎」

「いよいよ本気を出した、ってところかしら?」


再び咆哮を挙げるギガント級。それを観たカズキは一歩退いた構えを取ると表情を険しくした。

点滅を続けるエナジーコア。カズキの限界は誰の目から見ても明確だった。


「カズキさん....」


「(おい、ミヅハノメ。良いから外せよ。余計な鎖をよ)」

『(⁉︎、何を言って?)』

「(此処も外も限界だろ?。此処で俺が、いや俺達が奴をやらなくて、誰がやる?)」

『(だが、今の君の身体では)』

「(良いから寄越せ。鎖外せ)」

『(無茶だ。カズキよせ!)』

「(短期決戦だ)」


カズキは再び水を吸い上げると再び破壊者の力を出現させると【79人目の破壊者“オーガス”】の力を借りた。

オーガスの力を借りたカズキは全身に薄く赤みが掛かったオーラを纏うと瞳を赤く輝かせ、目から赤いオーラを放って居た。


「あれは?」

「破壊者も本気、ってところですかね」


レンとオーガスの力を借りたカズキは残像を出現させる程の高速移動でギガント級と距離を詰めた。

ギガント級の顔面から放たれる散弾ブレスを避けながら走るカズキは自分の元に迫る刃物と化した尻尾を殴り飛ばすとその反動でバックした。が、すぐさま走り出すと飛び上がったのちギガント級の顔面に“インパクトブレイブストレート”を喰らわせた。


「何なんだ、あれは?」


一旦下がったカズキは相手を撹乱する様に動き回ると自分の頭上から降り注ぐ連続尻尾攻撃を全て避けると尻尾の先端を“インパクトブレイブキック”で蹴り飛ばした。


「動きが、見えない」

「残像を捉えるのが、精一杯ですね」


ギガント級の足元にスライディングで滑り込んだカズキは装甲と化した皮膚の一部に捕まると無理矢理引っぺ剥がしたのちその先端で顔面を突き刺すと脚の剥き出しになった部分に“ストラトスマヒュリ”を投てきし、ギガント級を怯ませた。


(・・・。使い熟してみせる。だからもっと力を寄越せ。こんなもんじゃないだろ、“間違いを破壊する力”はっ!)


そう思いながら更に鋭い動きでギガント級の前脚を駆け上がったカズキは背中に着地すると甲羅の一部を引き剥がし、自分に迫る尻尾の盾に利用すると更にもう一枚、首元の装甲を引き剥がすとギガント級の喉元に突き刺した。


「あれが、“間違いを破壊する力”・“間違った終わりを破壊する者”、か....」


残像を引き連れながら空へ飛び立ったカズキは急降下しながら引き剥がして剥き出しになった部分に“バーストフライトパーティクルウェーブ”を喰らわせ、ギガント級を大きく怯ませた。

急降下姿勢から体勢を立て直すカズキ。

だが次の瞬間、カズキが借りて居た破壊者の力が強制的にパージされるとカズキは体勢を崩し、地面に落下した。

カズキは物凄い速度で点滅するエナジーコアを右手で抑えながら立ち上がると弱り始めたギガント級と目を合わせた。


「(何故、だ。....俺は、....俺は、まだ....)」

『(これ以上は、カズキの身体が持たない)』

「(だからって、)」

『(君に死なれては困る。私だけでなく、君の仲間も)』

「(だが、....だが此処で奴を、....奴を、)」

『(リミッターを外すだけが、やり方じゃない)』

「(・・・)」


カズキは再び魔力で水を吸い上げると破壊者の力を出現させたのち、1枚の光を手にした。

[chapter:「(“セツナ”さん。力、お借りします!)」]

【45人目の破壊者“セツナ”】の力を借りたカズキは普段とあまり変わらない姿だった。


(終わらす。終わらしてやる)


カズキは“リベリオンソード”を出現させると更に魔力を送り込み【“リベリオンバスターソード”】に進化させるとギガント級と距離を詰め、ギガント級が操る尻尾と激しく刃を交わした。


「・・・凄い」


カズキはギガント級の尻尾を弾き飛ばすと一瞬の隙を突いて飛び上がり、尻尾のど真ん中を斬り裂くと尻尾を分子分解させた。


(行ける!)

「カズキさん!あと一息です!頑張って!」

「負けるなカズキ!油断せずトドメをさせ!」

「カズキさんなら出来ます!」

「カズキさんがやらないで誰がやるんです!頑張って!」


ディフェンスアルファの声援を受けたカズキはギガント級の目の前に着地するとギガント級の方を向いたのち再び飛び上がると“リベリオンバスターソード”を【“オーバーロードリベリオンバスターソード”】に進化させると全長100メートル近くあるギガント級を真っ二つに斬り裂いた。


(・・・)


“オーバーロードリベリオンバスターソード”を消滅させ、セツナの力をパージしたカズキは尋常じゃない速さで点滅するエナジーコアを抑えながらしゃがみ込むと顔を挙げてギガント級を観た。


「どうなった?」


ギガント級は真っ二つに割れながら量子化すると地面に倒れ込むと同時に分子分解された。


(終わっ....た....)







4


「ッ!。オレノペットガ....」


ガンツは悔しげな表情を浮かべると大剣を空振りしたのち深層の出入口に急降下するとそのまま闇の中へ消えた。

それを合図に、マルールビーストは大慌てで撤退した。


「(終わった、....のか?)」

『(今回は、な)』


クラウスは翼を羽ばたかせながら防衛ブロック側の地面に着地すると変身を解いたのち地面に座り込んだ。


「カズキの奴、やったみたいだな....彼奴も力に慣れて来たって事か....」


息を切らしながらそう言ったクラウスは自分らのもとへ駆け寄って来るアニエスらを観て全員の無事を確かめると仰向けに倒れた。


「ハハッ。....やべぇ、今回は流石に、無茶し過ぎたな。・・・ともかく、アニエス達が無事でよかった」


そう呟いたクラウスはアニエスらの声が遠くなるのを感じながらゆっくりと目を閉じた。


(俺も、少し適応出来て来たのか?。この膨大な力に、適当出来て....)


そう思いながらクラウスは意識を手放した。


「クラウスさん!」


慌てて駆け寄ったアニエスはクラウスを抱き起こすと息があるかを確認すると安堵した表情を浮かべた。


「クラウスさんは⁉︎」

「力の使い過ぎで、気を失ってるだけみたい」


アニエスの言葉に全員が安堵した表情を浮かべた。

が、周りの破壊されっぷりは、そんな表情をぶち壊す程の物だった。


(勝った、で良いんですよね?)

(幾つもの命が失われた。防衛は成功しても、勝ったと言えるのか?。いや、そもそも成功したのか?)


全員が疑問に思う中、冷たい風が彼女達を包み込んだ。







「戻って、来ましたね」

「・・・酷い。街が....」

「ビーストを退いても、これは防衛失敗じゃないかしら....」


エナがそう言うと彼女達は俯いた。そこへマツリ率いるストライクアルファの面々が到着した。

マナミは変身を解くと、同じく変身を解いたマツリと顔を合わせた。


「何とか、なった....わね」

「犠牲は、計り知れませんが。恐らく....」


マナミの返答に険しい表情を浮かべるマツリ。

そんな彼女達を他所にカズキは地面に座り込んでいた。右眼から血を流し、鼻血を流しながらゆっくりと顔を挙げたカズキはストライクアルファ・ディフェンスアルファの両チームの無事を確認すると微かに微笑んだ。


『(大丈夫、ではないな)』

「ああ、右腕が動かねぇ。右眼も見えないな」

『(右腕は数時間で治せる。が、目は数日待ってくれ)』

「ありがとな。助かる」

『(・・・あそこでオーガスの力をパージしなかったら、修復不可能、半身不随になって居たぞ)』

「破壊者の本気。恐ろしいな」

『(病み上がり且つ長期戦で疲弊して居たからな。そんな状態で使って良い力ではない)』

「そうかよ」


鼻で笑ったカズキはゆっくりと俯くと目を閉じようとした。が、


「居た!カズキさん!」


聞き慣れた声に反応する様に、カズキはゆっくりと目を開いた。するとそこへマツリとサトミが駆け寄って来た。


「相当無茶したわね....全く、貴方って人は、」


心配と呆れを混ぜた様な表情でそう言うマツリ。するとサトミはゆっくりとカズキの目の前にしゃがみ込んだ。


「本当、放っておけない人ですね。貴方は....」


虫の息で呼吸しながらやっとの思いで意識を維持するカズキ。するとサトミは今にも泣き出しそうな顔でそっとカズキを抱きしめた。


「無茶し過ぎですよ。本当に」

「・・・」


返す気力も残ってないカズキはそのまま眠りについた。







5


3日後....


「久々にデルニエフォルトを使った感想は?」


ジェームズを招き入れたアーネストが1番最初に聞いた質問はそれだった。

アーネストは咥えた煙草に火を付けたのち咥えたまま口から煙を吐くと煙草を指で摘み、ゆっくりと口から離した。


「彼らに良い刺激を与えたと思う。そんなところです」


ジェームズは鼻で笑うと「そうか」と返した。


「問題が山積みだよ。何より人が足りん」

「訓練生150人卒業では、足りなさそうですね」

「その通りだ」

「・・・言えた義理ではありませんが、護りが成ってなければ、攻めに専念するのは難しいかと」

「そこだ。そこなんだ」


そう言うとジェームズは上着の裏ポケットからシガーケースを引き抜くと葉巻を1本取り出すと吸い口を切り落としてからガスライターで炙る様に火を付けると葉巻を吸い始めた。


「無人兵器を増設すれば、と言う簡単な話ではない」

「ええ。現に、南部の防衛ブロックが突破されたのは、戦闘用ドローンが動かず、タレットのみだった事も挙げられます」

「結局は、“人の力”が大事なんだよな」

「・・・その力量が不足している、と?」

「ああ」

「・・・」

「君に言っても何も解決にはならんだろ。・・・だが、共に考えて欲しい。“破壊者の力”に頼らず、“人の力”でこの場を乗り越える方法を」

「・・・わかりました」

「すまんな」


ジェームズはソファから立ち上がると「今夜、割り勘で呑みに行こう」と言ったのち部屋を出て行った。


「・・・」


煙草を咥えたまま口から大量の煙を吐いたアーネストは上に登る煙に目を向けた。


「人の力、か....」


ソファの背凭れに寄り掛かりながら天井を見上げたアーネストはそう呟くと怠さを押し殺しながらソファから立ち上がった。







右眼の視力回復後、初のトレーニングを終えたカズキは1人で通路を歩いていた。


「助かったぜ。ミヅハノメ」

『(君が無茶をしても、誰も喜ばないって事を、良い加減知るべきだ)』

「わかっているつもりでは居るんだがな」

『(怪しいな)』

「ところで、だ」

『(?)』

「さっきなんで変身を止めた」

『(再生は人の仕事だ。修復や復興まで破壊者に頼る様ではダメだ)』

「だが、あの惨状を観たら」

『(我々は“破壊者”だ。救済者でもなければ神でもない)』

「言ってる事はわかるが、納得いかないな」


そう言ったカズキは歩みを止めると夜空に変わったばかりの空を見上げた。


『(再生と復興は人の力あってだ。結局は何をするんでも、人の力が必要なんだ。・・・破壊者の力を扱うのも、結局は人だからな)』

「“人の力”か....」


カズキは僅かに笑みを浮かべながら前を向き、歩き始めると「夕飯の時間だな」と呟いた。


「ミヅハノメ、晩飯何が良い?。俺は丼が食いたい」

『(ではカツ丼を)』

「またカツかよ。昨日とんかつ食ったばっかりだろ」

『(私はカツ丼の気分なんだ)』

「てか最近肉ばっかりだなおい」

『(では何故聞いた?)』

「いつもの会話は大事だろ」

『(君は何が食べたいんだ?)』

「丼物って言ったろ?。だからカツ丼で良いよ」

『(肉ばかりで嫌なら他のものにしたらどうだ?)』

「折角決めてくれたんだ。それに聞いたの俺だしな」


(ミヅハノメも少し変わったな。・・・まさか、それも人の力か?)


そう思ったカズキは一瞬笑みを浮かべると食堂へ脚を進めた。

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REINA 村渕和公 @sinotukuame

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