Episode.24「進化する敵」
1
大きく深い川が空間の中心をゆっくりと流れ、至る所に岩場や岩山、岩壁があり、発光体の様なものが埋め込まれた謎の石碑らしき物と大小様々な湖らしき水溜まりがあった。
そんな湖の側でディフェンスアルファチームの面々は目を開いた。
「此処は....」
「どうやら、此処が噂の戦闘用亜空間の様ですね」
マナミはそう言ったのち辺りを見渡した。
「ッ!。隊長!スモール級の群れが!」
トキミヤがスポットした場所を振り向いたマナミはすぐさま日本刀を構えた。他のメンバーもマナミの側に集結すると同じ様に日本刀を構えた。
(私含め殆どの者が体力と魔力、共に消耗が激しい。....やりきれるか?)
そう思いながら日本刀を強く握るマナミ。すると彼女達の目の前に居るマルールビーストを全て消し炭にするが如く、上空から“三日月型の魔力製光刃”が降り注いだ。
「!」
「なんだ⁉︎」
彼女達が視線を上げた先には上空でスピンしながら【三日月型の魔力製光刃“フライトパーティクルウェーブ”】を放つカズキが居た。
降り注いだ光刃はスモール級だけでなく、ミディアム級やラージ級をも仕留めるとマルールビーストの数を3割にまで減らした。
「カズキさん、飛べるんだ....」
「数は減った。やるぞ、ディフェンスアルファ!」
マナミの号令を前に一斉に返事を返した彼女達は地面を走り出すとマルールビーストの群れに突っ込んだ。
カズキは地面に着地すると高さだけでも60メートル、全長は90かそれ以上ある六足歩行の超巨大マルールビースト“ギガント級”と顔を合わせた。
「(どうするかな。此奴に格闘戦は不向きだろうし....)」
『(魔力系の技を駆使するのが一番だろう。行こう)』
「(だな)」
カズキは再び飛び上がると空中で宙返りしたのちリベレーション同士を干渉させ、魔力を収束・圧縮させた。
普段ならこの状態で腕を広げ“フライトパーティクルウェーブ”を放つが今回は違った。
(さっきの光刃じゃ、擦り傷も与えられなかったからな。なら、)
そう思ったカズキは放つ寸前に拳と拳の間に放つ筈だった魔力を圧縮させたのち、肘から生える刃を赤く輝かせ刃とリベレーションから更に魔力を送り込んだ。
(威力特化型なら、)
ギガント級に向かって降下しながら勢いよく両腕を広げ、【フライトパーティクルウェーブの強化発展型“バーストフライトパーティクルウェーブ”】を放った。
通常のフライトパーティクルウェーブより小振りで攻撃範囲は狭いながらも威力が高い上に同時に3発も放てる強化発展技だったがギガントの前では微かに怯ませるのが限界だった。
「(これでもダメか)」
『(どうやら、装甲が硬い様だな)』
「(装甲、か....ッ!)」
着地したカズキは何かを察知したかの様にマナミらの方を振り返った。
(だいぶ消耗してるな....)
カズキはリベレーションから発生させた魔力を手の平に集めると左脇腹付近で両手を重ねエネルギーを圧縮させると抜刀の如く右手を前に振り出すと手先から【魔力製の光粒子刃“オーバーパーティクルインパルス”】を放つとギガント級の右前脚に直撃させ分子化させた。
(ッ!)
カズキはすぐさま左リベレーションから【魔力製の投てき短剣“ストラトスマヒュリ”】を発生させ右手で掴み投てきするとギガント級の右前脚を砕いた。
前脚を1本失ったギガント級は右側に体勢を崩した。
カズキは走りながら左手の平に水縹色の魔力を纏わせると大川にそれを向け、水を吸収すると全身に吸収した水を纏った。そして自分の周囲に7枚の光輝くカードを周囲に浮遊させると1枚のカードを手にした。
「(ムサシさん。力、お借りします)」
右手の指で掴んだカードを胸元のエナジーコアに沈めたのち左手に集めた魔力混じりの水を頭上に挙げ、上から被る様に両手を外側に広げると全身をウォーターグリーンと水縹色の2色に輝かせた。
そして胸元のエナジーコアを撫で下ろしながら両手を下げたのちほんの僅かに身体を膨らますとカズキは光を消し去った。
(これが、17人目の....)
薄い青が強調されるボディカラーは何処か優しげな雰囲気を醸し出して居た。
カズキはマナミらの側に駆け寄ると左手から放出した魔力でマナミらを包み込んだ。
(これは?)
(何処か優しくて、何処か癒される。何、これ?)
彼女達の戸惑いを他所にカズキは湖に右手を翳し、水を吸い上げるとそれを10等分にしたのちマナミらに浴びせた。
(疲れが消える。魔力が回復していく)
(傷が、治っていく)
マナミらの魔力を回復させ、傷や疲れを癒したカズキはそのままステータスアップブーストを掛けると魔力を解放し、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうございます」
頷いて返したカズキは胸元のエナジーコアに手を添えて全身をウォーターグリーンに輝かせると借りた力をパージし、元の姿に戻るとギガント級の方を振り向いた。
右前脚の再生を終えたギガント級は咆哮を挙げながら歩み出した。
※
2
一方で、
カズキ不在のストライクアルファチームは次々と深層から押し寄せるマルールビーストと防衛ブロック内部で戦って居た。
天井の至る所に大穴の空き、ボロボロのその空間は、まるで防衛隊の現状を示してるかの様だった。
「カズキさんが何体か引き摺り込んだ様ですが....」
「それでも、厳しいですね」
圧倒的物量で押される防衛戦。
全員が負けじと戦うが、防衛隊員は1人、また1人と倒れていく。
サトミとナナミが同時にミディアム級を左右真っ二つに斬り裂いた頃、弾切れを起こした防衛隊員の頭部がマルールビーストの死骸の中に着地した。
「ッ、」
「仇は、とります」
サトミがそう呟いた頃、マツリがより一層表情を険しくすると深層の中から2体の飛行物体が飛び出した。
「ッ!」
「な、何⁉︎」
ソニックウェーブを引き起こしながら飛び出した2体は天井を突き破ると空中で激しく刃をぶつけ合った。
「あれは....」
「クラウスさん?。もう片一方は....」
「まさか....」
片方の飛行物体はクラウスが変身したエンジェルアーチャーである事をマツリ達はすぐさま理解した。だがもう片方の赤紫色の飛行物体の正体に気が付いたのはマツリだけだった。
「四天王....」
「?。あの、ガンツとかって言ってた?」
「恐らくね」
音速の速さで天井を突き破り、広い空の下へと飛び出したクラウスとガンツは空中で鍔迫り合いとなった。
(僕ノ送リ込ンダペットハ、例ノ戦闘用亜空間二飛バサレタカ。ケド、亜空間ニ隔離シタトコロデ、意味ハ無イケドネ)
自身がチューニングを施したギガント級の現状を理解したガンツはクラウスと目を合わせた。
(思ッタヨリシブトイネ。ダケド、ソレダケダ)
ガンツは右手に構えた大剣に力を入れ、膨大な魔力を注入するとクラウスを弾き飛ばした。
「(ッ、これが噂の四天王。流石に強いな。距離も取れない)」
『(弓で戦う事は諦めた方がいいかもしれないな。不利かもしれないが、近接戦闘を続けた方が良いかもしれないな)』
「(だな)」
両腕のアローアームドからマジックブレイドを展開し、二刀流で戦うクラウスは翼を動かして急加速させるとガンツに斬り掛かった。
(二刀流を生かした戦い方をしたいが、相手が大剣となると、厳しいな)
再度弾き飛ばされたクラウスは体勢を立て直すと同時に刃を重ね合わせるとガンツが振り翳した大剣を受け止めた。
(チィッ、....ッ!なっ!)
不意に下を向いたクラウスは目の前に映る風景に驚きを通り越した何かを感じた。
(・・・きぃ様らぁがぁぁぁぁッッ!)
ブレイドの魔力を増強させたのちガンツの大剣を弾き返したクラウスは怒りと鋭さを併せ持った表情を浮かべると目を見開いた状態でガンツを睨み付けた。
(ゆるさねぇ。許さねぇぞテメェら!)
さっきよりも鋭さの増した連撃でガンツに斬り掛かるクラウス。するとガンツは僅かに表情を険しくした。
(並ノ戦士ナラ、キレタラ最後、ミスヲ繰リ返スバカリダ。ダガ此奴ハ違ウ。・・・一体ナンナンダ)
重たく大きな大剣を上手く扱いながらクラウスの剣撃を受け止めるガンツ。
するとクラウスは一旦ガンツから距離を離すと翼を動かして加速させると再びガンツに斬り掛かった。
ガンツはそれを受け止めずに受け払うがクラウスはすぐさま急旋回し、急加速すると再びガンツに斬り掛かった。
(止マッテ居テハ不利カ)
ガンツは翼を動かすと急加速しながら急上昇した。
互いに動きながらぶつかり合う刃、弾いたり弾かれたりを繰り返しながら、空中で魔力がぶつかり合った。
※
クラウスが飛び出して1分もしないうちに、深層の中からストライクブラボーとデルタの面々が上がって来るとストライクアルファに加勢して居た。
「ヴィクトルさんが大規模侵攻の予兆?を検知したので慌てて戻って来ました」
「ええ。とんでもない事になってるわ」
マルールビーストを斬り裂きながら会話するマツリとアニエス。無論、無線から入り込んで来るネガティブな通信で、すぐさま状況を理解したのは、言うまでもないが。
『フェアデヘルデにジャイアント級。なんとかしてくれ!』
「俺達が行こう」
そう言うとヴィクトルは魔導書を消滅させるとすぐさま飛び上がり、天井の穴から地上に出た。他のデルタメンバーも、それに続いた。
「本当、貴方の言う通り、酷い有様ですね」
「悪い予感が当たっただけさ」
そう言うとヴィクトルは壁を駆け上がり西側の街を見るとジャイアント級を目視した。
「あれは?ナイトタイプ⁉︎」
「ジャイアントは俺がやろう。他は任せる」
そう言ったヴィクトルは全身を銀色に輝かせたのち足元に魔法陣を出現させると中から大きな錫杖を呼び出し、それを右手に掴むと自分の目の前に突き立てた。
そして錫杖の先端を三角になぞったのち緑色に光る部分に左手の人差し指と中指を当てたのち左手に緑色のオーラを纏わせるとそれを前に突き出した。
「召喚。【7本の剣と風を操る竜人騎士“セブンソード”】」
突き出された緑色のオーラから出現した巨大な魔法陣から出現した竜人騎士。
現れた騎士は腕を4本持ち、各腕にはそれぞれ片手剣を1本ずつ握り、両腰には大振りな両手剣を1本ずつ装備され、背中には巨大な大剣を背負って居た。
「イフリートだけじゃないんだ....」
「あれはあれで、凄いですね」
「感心してる暇は無さそうよ。行くわよ」
「「「「了解」」」」
※
3
ギガント級の尻尾攻撃で地面叩き付けられたカズキは声にならない呻き声を上げていた。
(流石に、キツいな。....だが、)
カズキはスモール級やミディアム級の群れと戦い続けるマナミらをチラッと見たのち再びギガント級を見るとゆっくりと立ち上がった。
(俺が此処で諦めて良い理由は、ない)
そう思ったカズキは息を切らしながらゆっくりと構えを取った。
その瞬間、ギガント級は咆哮を挙げながら背中の甲羅の一部を開き、結晶体の様なものを出すと黄金色に輝かせた。
何かを感じ取ったカズキはすぐさまストラトスマヒュリを投てきすると尻尾で防がれた。
「ん?。なんだ?」
「何?この不快感は....」
「・・・ッ!、あれは⁉︎」
結晶体の輝きに反応する様に生き残ったマルールビースト達は互いに合体し始めた。そして青白い光を発するとスモール級やミディアム級の融合体は55メートル二足歩行型のジャイアント級へと変わった。
「なっ!」
「馬鹿な!」
更にギガント級は結晶体を黄金色の稲妻らしき魔力を真上に放ち、空間に穴を開けた。その穴から60メートル二足歩行型のグリードワン級が侵入して来た。
「これが、ギガントの....」
「実質1対3、厳しいですね」
「(俺が展開した戦闘用亜空間に亀裂を入れて、ビーストを呼び込むとはな....)」
『(あの結晶体を破壊しない限り、無限に湧いて来るかもしれないな)』
「(・・・敵も進化してるって事か....)」
カズキは自分のもとへ迫るグリードワン級とジャイアント級を交互に見たのち構えを取るとグリードワン級の頭部にストラトスマヒュリを投てきしたのち一気に距離を詰めた。
が、カズキは何かを感じ取ると歩を止めた。
(人間を取り込んでるのか。....けど、助けられるのも居る....)
取り込まれながらも救い出せる人間の気配を感じ取ったカズキはジャイアント級の方を向くと勢いよく走り出したのち飛び上がると右脚に水縹色の魔力を纏わせたのち水溜りや湖から水を吸収し、右脚に纏わせ、水縹色の魔力に変換すると【水魔力変換強化型キック“アクアブレイブキック”】で鋭い飛び蹴りをジャイアント級に喰らわせた。
(此奴を黙らせるには、)
そう思いながら両方のリベレーションからエネルギーを放出するとアームドスレイヤーに纏わせ、着地と同時に脚を滑らせながらアームドスレイヤー同時を重ね合わせ、魔力を干渉・圧縮させると圧縮させた高濃度の魔力を右リベレーションに移したのち振り向きぎわに【けん制向け光線技“ヴェイパーストリーム”】をジャイアント級に喰らわせた。
(これでしばらくは大人しくしてるだろ)
カズキは走り出しながら再び【17人目の破壊者“ムサシ”】の力を借りると勢いよく飛び上がったのち飛行状態に入るとグリードワン級の放つ火炎光線を避けながら胸元に右腕のアームドスレイヤーを添えた。
(ぶっつけ本番だが、やってみるか)
アームドスレイヤーのリベレーションとエナジーコアの光を干渉させたのちアームドスレイヤーに魔力を収束させたのち魔力製の弓を形成するとカズキはそれを構えた。
「弓?一体何をする気?」
「新たな必殺技の準備でしょうか?」
カズキは彼女達の言葉を気にする事なく弓を引き絞り、魔力を溜めると【御祓の弓“メディウムアルク”】を放った。
「⁉︎」
「なんて魔力!」
「・・・あれ?」
「マイさん?」
「なんだろう。あの弓、殺意を感じない」
「?」
マイの発言に一同がハテナを浮かべる中、放たれたメディウムアルクはグリードワン級に直撃。だが、マイの分析が正しいのか、魔力の割に然程のダメージは与えられなかった。
(ッ!見えた!)
カズキは全身を痺れさせながら胸元を赤く輝かせるグリードワンのすぐ側に着地すると同時に右リベレーションから“セービングザイル”を出現させ、グリードワン級の胸元にそれを飛ばすと赤く光る物体に巻き付けたのちセービングザイルを引き、グリードワン級から引き剥がした。
「ッ!」
「なんだ?何をした⁉︎」
ヒヨリからの問い掛けに答える様にカズキは赤く光る物体を魔力で浄化し、水縹色の球体に変えるとマナミらの側にしゃがみ込むとその球体をゆっくりと地面に置いた。
「?」
「ッ!。人、人だ」
球体が消えると同時に防衛隊レンジャー2隊長のアーロンとその部下7名が姿を見せた。
「隊長!」
「確保!」
うつ伏せで地面に倒れ込むアーロンらの元に駆け寄るマナミ達。
カズキはそれを目視で確認すると破壊者の力をパージしたのち右リベレーションから【青葉色のマジックソード“リベリオンソード”】を出現させる走りながらグリードワン級を思いっきり斬り裂いた。
(これで1、)
リベリオンソードを消滅させたカズキの後ろでは朱色の光に包まれたグリードワンが自身を量子化させると数回小さな爆発を起こし、半透明状態になると分子分解され散り散りとなった。
「(キツいな)」
『(カズキ!後ろだ!)』
「(!)」
振り向こうとした瞬間にジャイアント級の火炎ブレスを喰らったカズキは蹌踉めきながら地面にしゃがみ込んだ。それに追い討ちをかける様にギガント級の尻尾で殴打されたカズキは宙を舞いながら地面に背中を叩き付けた。
(ジャイアント....そうだ。まだ居たんだった)
カズキがゆっくりと立ち上がるとギガント級は再び背中の甲羅の一部を開き、黄金色の結晶体の様なものを出すと黄金色の稲妻らしき魔力を真上に放ち、空間に穴を開けた。
空いた穴から55メートル二足歩行型のジャイアント級が2体、戦闘用亜空間の中に入り込んだ。
「(嘘だろ増援かよ)」
『(ビーストも学習してる様だな。やはり、あの結晶体を潰さなければ、キリが無いな)』
ギガント級を護るように布陣する3体の超大型ジャイアント級。カズキは迷い、戸惑った。
(・・・)
カズキは走り出した。
そして【34人目の破壊者“レン”】の力を借りた。
ウォーターグリーンやアクアグリーンの2色で形成されて居たボディカラーはライトブルーとアクアブルーの2色へと変わり、水縹色のラインも大きくなって居た。
(ベルナールさんと同じか。唯一違うのは、こっちはこの空間向けの力だって事だ)
そう思いながらカズキはジャイアント級への殴り掛かった。
※
4
「・・・」
煙草を吹かしながら遠巻きに防衛隊やストライク・ディフェンスの戦いを見守って居たアーネストは溜息と一緒に煙を吐くと咥えて居た煙草を携帯灰皿に吐き捨てると灰皿を閉じたのち、苛立ち・呆れ等を露わにした。
「どう見る....か....」
アーネストは携帯灰皿を仕舞うと右手に握り締めるデルニエフォルテに目を落としたのち苛立ち混じりの溜息を吐いた。
「現場は任せると決めてたから、こう言う事はしたくなかったんだが....こんなところで死なれたら気分悪いからな....」
そう言ったのちアーネストはデルニエフォルテの鞘を左手で持って左腰に構えたのち軽く息を吐いた。
「しょうがねぇな。ちょっと手伝ってやるか」
そう言った瞬間、右腕で本体を前方に引き抜き、右腕を後ろから前に回して本体を空に掲げた。
すると閃光に包まれたアーネストは一昔前の防衛隊員用戦闘服を纏うと右手にバスターモード・スナイプモードを切り替えられる武器、左手にバスターモードとアサルトモードを切り替えられる武器をそれぞれ構えると魔力を使って思いっきり跳躍した。
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