Episode.23「“限界”」
1
執務室で煙草を蒸しながらストライクアルファ・チャーリーの両チームから提出された報告データに目を通していたアーネストは煙草を咥えたまま口から煙を吐いた。
(レナードも漸くか....にしても、相手は今回カズキを集中的に狙ったのか?。だとするなら、敵ながら見事だな)
そう思いながら報告データの最後にまで目を通したアーネストは机の端にあるスイッチを操作してホログラムを切るとノックされたドアの方を向いた。
アーネストはノックのテンポで誰が来たかを悟ると煙草を指で摘み、灰皿で火を揉み消すと、
「入ってどうぞ」
アーネストの声に反応する様に執務室にジェームズが入室した。アーネストは椅子から立ち上がるとソファを勧めた。
テーブルを挟んで向かい合った2人の間に数秒の沈黙が漂った。
「訓練生らの状況はどうだ?」
「変わらずです」
「そうか....破壊者達は、どうだ?」
「漸く力に慣れ始めた、と言ったところでしょう」
それを聞いたジェームズは表情を曇らせると上着の胸ポケットからシガーケースを取り出し、それをアーネストに差し出した。アーネストは首を横に振ると「葉巻は好きではありません」と言った。
「そうだったな」
「で、要件は?」
ジェームズはシガーケースを両手で持つと表情を僅かに険しくした。
「・・・上層部にしろ、国民にしろ、防衛隊にしろ、色んな奴らが悲鳴を挙げている。“破壊者が来たのに、何故戦いが終わらんのだ”とな」
「奴らには奴らなりのペースがあります。それに破壊者が来たから全てが解決する程、話は簡単ではありません」
「君や私の様に、そう言った話がわかっていれば良いんだがな。だが破壊者が来てから敵の攻勢が強まって居るのも現実だ」
「何が言いたいんです?」
痺れを切らしたアーネストはジェームズの話に割って入る様にそう言った。ジェームズは難しい表情を浮かべながらシガーケースを仕舞うと表情を鋭いものに急変させた。
「新種の討伐や四天王の撃退は、確かに見事な戦果だ。だが、それだけでは足りん。上層部が納得する様な、前向き且つ明確な戦果が欲しいのだ」
「・・・深層の究明や深層の主討伐の様な、大きな戦果が欲しい、と言う事ですか?」
「そうだ。この限界寸前の状況を打開出来るぐらいの、希望が必要だ」
アーネストは溜息を吐き散らかしながら僅かに呆れた様な表情を浮かべると再びジェームズと顔を合わせた。
「君の言いたい事は分かる。だが防衛隊の消耗が激しい今、打って出て戦果を叩き出さねばならん状況なのだ」
「・・・」
「相手が相手。破壊者達のペースを護る事は大切だ。だが、時にはペースを上げねばならん状況もある。それは君もわかって居る事だろ?」
「・・・言ってはみますが、やるか否かは彼ら次第です。ただ、」
「?」
アーネストは若干前屈みになるとより表情を鋭くした。
「たった24名で何千、何万もの軍勢に立ち向かわなければならない身にもなってください。破壊者が来て、漸く互角もしくは僅かに劣勢にまで立て直すことが出来た。と言う状況である事も」
「わかってるよ。・・・わかってるさぁ....」
ジェームズは険しく鋭い表情を浮かべながら立ち上がると部屋の扉の方へと向かった。
「・・・アーネスト」
「はい?」
「男性兵士にして唯一“デルニエフォルト”の起動に成功した男の意見を聞かせて欲しい」
「・・・」
「彼らに、この世が救えるか?」
アーネストはソファから立ち上がると声にならない呆れ声を出しながら表情を若干緩めた。
「今のままでは、経験不足が目立ちます。もう少し経験を積む必要があるでしょう。破壊者と言えどまだ此処に来て1ヶ月経つか経たないか。経験不足が目立ちます」
「そうか」
「ただ、」
「ん?」
「奴らとて、所詮は人間。限界があります。が、諦めない限り、不可能はないでしょう」
「そうか....」
静かにそう答えたジェームズは数歩歩きドアノブに手を掛けると静かにアーネストの方を向いた。
「硬い話をして悪かったな。今日、ミッシェルも誘って、一杯やろうじゃないか?」
「貴方の奢りですか?」
「割り勘だ」
「わかりました。楽しみにしてます」
ジェームズは僅かに口角を挙げるとドアを開け、部屋から退出した。
「・・・」
ジェームズの退出を見送ったアーネストは椅子に座り込むと一本の煙草を咥え、火を付けた。
(難しいな。こればっかりは)
煙草を咥えながらそう思ったアーネストは静かに煙を吐いた。
※
2
「....?、....ッ!」
病室のベッドに横たわって居たカズキは数回小さく瞬きをしたのち大きく目を開いた。
「ッ!。カズキさん!」
「?。....サトミ....さん?」
目が覚めたものの酷く疲弊した顔を動かし、ベッドの横に座って居たサトミに目を向けるカズキ。
サトミはホッと安堵した様な表情を浮かべると前屈みになりカズキの左手を掴むと僅かに呆れた様な表情を浮かべた。
「本当、放っておけない方ですね。貴方は。無茶し過ぎですよ」
「・・・」
声すら真面に出せないカズキにそう言ったサトミは表情から呆れを消し去ると心配を露わにした。
「お....俺、は」
「?」
「知り....たかっ、....た、ん....です」
「・・・今は喋らないで。今、先生呼んで来ますから」
「待....て....」
サトミは椅子から立ち上がろうとするがカズキが自分の手を離す事なくそう言った事で何かを察したサトミは椅子に座り直すとカズキの手を握り直した。
するとカズキは、微かに微笑んだ。
(俺は知りたかったんだ。自分の限界を。俺の力が、彼奴に何処まで通用するか、を....)
そう思いながらカズキは再びサトミと目を合わせた。
サトミは表情から心配を薄れさせると微かに微笑んだ。
一方....
「「・・・」」
マツリとシオリは病室の扉の前に立って居たが何だがの直感が働き、扉を開けられずに居た。
「....なんだか、今入るのは不味い気がするわね」
「そう、ですね。....また、後にしますか」
「そうね」
※
その頃、
クラウスは自分の部屋で現時点で入手されて居るマルールビーストの四天王“リョウタ”と“シーザー”に関する情報を閲覧して居た。
「両者共に変身能力持ちか。ハチロク、どう見る?」
『(君が当たる相手は、恐らく“ガンツ”と呼ばれる3人目だろう。恐らくこの者も、変身能力持ちだ)』
「俺と同じ飛行タイプか?」
『(可能性は高いな。“カズキとリョウタ”、“レナードとシーザー”と言う組み合わせを考えるなら、な)』
「・・・変身時の能力を鍛えないとな....」
そう呟いたのちクラウスはカップを持ちながら背凭れに寄り掛かると中身を飲んだ。
(潜ってみない事には始まらないか。・・・今日の午後一で、行くか)
クラウスはホログラムに表示されるデータを切り替えると深層のデータを表示させた。
(今度はどう来る?。多分雪山って事はないだろうけど....洞窟とかだったら厄介だな)
そう思いながら過去のデータを閲覧しながら整理していくクラウス。暫くしてホログラムを閉じると再び背凭れに寄り掛かり、天井を見上げた。
(考えられるのは、渓谷か渓流、廃墟か....どれも地形に寄っては空中戦がやり辛いな)
そう思いながら椅子から立ち上がったクラウスは部屋から出ようとドアの方へ歩くと丁度扉がノックされた。
クラウスが扉を開けるとアニエスが立って居た。
「アニエス?どうした?」
「あっ、次の出撃はいつかな?と」
「ああ。それなら午後一で出るぞ」
「え?」
「それを伝えようと思って居たんだ。他の奴にも伝えておいてくれ」
「・・・あのクラウスさん」
「?」
部屋から出ようとするクラウスを呼び止めたアニエスは少し気不味そうな表情を浮かべると、
「今回は、成る可く、奥まで行きましょう」
「そのつもりだが、1チームだけで何処まで行けるかって言うのと、あと地形次第だな」
「・・・」
「....アーネストから何か言われたか?」
「⁉︎。・・・」
「図星か。少なくとも、“無理に”ペースを挙げる気は無いぞ。俺達には俺達なりのやり方がある」
「わかっています。アーネストさんも、判断は任せる、と」
クラウスは数回頷くと部屋から出たのち扉を閉めた。
(わかってるよ。・・・先を急がなきゃ行けないってのはさ....)
※
3
次の日....
カズキはベッドから身体を起こし、話せるところまで回復して居た。
『(すまない。ヒーリングが間に合わず)』
「(ミヅハノメが謝る事じゃないさ)」
リョウタとの戦闘で破壊者自体も力を消耗したが為にカズキの回復を思い通りに行えない事をカズキに謝るミヅハノメ。だが、カズキはそんな事を気にしては居なかった。
「上手くいけば今日の午後、遅くても明日の午前中には退院出来ますよ」
「ありがとうございます。エイハブさん」
「私からも礼を言います。ありがとうございます」
「当然のことをしたまでだ。お大事に」
そう言うとエイハブはカズキとマツリに一礼すると病室から出て行った。
マツリはベッドに座り込むカズキの方を見ると微かに呆れた様な表情を浮かべた。
「本当、弟そっくりね〜」
「俺はただ、自分の限界を知りたかっただけです」
「そう言う所も、ね」
「・・・」
複雑な心境を抱えながら反応に困ったカズキはマツリから視線を外し、俯いた。
(本当、声以外はそっくりね。常に限界を追い越そうという所も....)
(マツリさんの弟にそっくり、か....なんて、言い返すべきなんだろ....)
重たい沈黙が部屋の中に漂う中、1つの警報が室内に鳴り響いた。
「防衛ブロックにビーストが侵入した様ね。貴方は休んでなさい」
そう言うとマツリは病室を飛び出した。
「・・・」
カズキは身体を倒しベッドに横たわると天井を睨み付けた。
「ミヅハノメ」
『(私は行ける。が、問題は君の身体だ)』
「・・・」
※
「かなりの数が来てる様ですよ」
「ストライクブラボーとデルタが、深層攻略に向かったのを狙った様に来ましたね」
防衛ブロックに走って向かう中、ナナミは若干弱腰の声でそう言うとマツリは僅かに表情を険しくした。
(全部向こうの想定通り?。だとするなら、かなり不味いわね)
そんな考えがマツリの脳内を過る中、防衛ブロックを目視したマツリはデルニエフォルトを取り出した。それに倣う様に他の4人もデルニエフォルトを取り出すとマツリに合わせる様に変身するとマルールビーストに斬り掛かった。
『ストライクアルファか。有難い』
『こちらレンジャー1のジョルジュ。ストライクアルファの救援に感謝』
「間に合った様でよかったです」
そう言いながらマツリは武器をアサルトモードに切り替えるとマグナムマジックショットでミディアム級を次々と撃ち抜いた。
「流石に、数が多いわね」
「ええ。けど、負けられない」
そう言ったミサキはアサルトモードから薙刀モードに切り替えるとラージ級に斬り掛かった。
ストライクが居ながらも劣勢のままの戦闘。
だが戦場は彼女達が居る場所だけではなかった。
『南部が突破された。ローゼンブルクにビーストが傾れ込んで来る!』
「!」
「ストライクもディフェンスも不在な場所を。敵ながら見事....」
『此方ディフェンスアルファのマナミ。やむを得ません。市街地で迎え撃ちます』
『ディフェンスアルファ到着まで持たせろって言ったのに。アーロンの奴、何やってやがる』
無線越しにジョルジュの舌打ちを聞いたマツリは表情を鋭く、険しくした。
※
4
デルニエフォルトで変身したディフェンスアルファチームの面々は日本刀を両手で構えるとマルールビーストの群れに斬り掛かった。
『レンジャー4が孤立して居る!』
『レンジャー2が包囲されてる。アーロン隊長でも不味いんじゃないか⁉︎』
『此方レンジャー9。レンジャー4の救出に向かいたいが敵の攻勢激しく前進困難、応援を要請!』
『此方レンジャー7。包囲された!増援はまだか⁉︎』
苦戦を知らせる通信が飛び交う中、彼女達は只管マルールビーストを斬り裂いた。
「数が多い上に統制が取れている」
「ヤバいのが、混ざってる可能性ありますね」
「噂の、四天王?」
「・・・いや、」
鋭い表情でヒミカの発言を否定したマナミ。その表情を見たアカネは「まさか」と呟いた。
「・・・ギガント....」
「大いに考えられます。“カズキさんが戦闘不能”・“ストライク2チームが不在”。この状況で大規模な侵攻....」
「しかもやる事は“孤立させての包囲戦”や“手薄箇所の集中攻撃”....」
「手が込んだやり方ね。確かにギガントの可能性がありますが....」
「深層の深き場所に居る最強種が、打って出てくるのか?」
「無いとは言い切れないのが現状ですね」
マルールビーストを斬りながら自身の考えを言い合う彼女達。そんな中でも、状況は刻々と悪化して言った。
『アーロンのレンジャー2と通信途絶!』
『アーロン先輩の隊が殺られたのか⁉︎』
『冗談だろ⁉︎』
「ッ、」
斬っても斬っても減らない、それどころか増え続けるマルールビースト達。にも関わらず味方は減り続ける。そんな最悪な状況が続いた事で無線機の向こう側に居る人間は絶望し始め、マナミも焦りを隠しきれなかった。
『こちらスカウト9。ディフェンスアルファ、そっちにラージ級の群れが向かってるぞ。7メートルサイズ、多数だ』
「了解。・・・ッ!」
「こんな状態でラージ級⁉︎」
「普段なら楽勝だけど、今この状態で来られたら....」
エナがそう言うとマナミはより一層表情を険しくした。
『スカウト11と通信途絶!』
『こちらスカウト6。ディフェンスアルファチーム、そっちにスモール級の群れが向かってる。かなりの大群だ。背後から来る筈だ。注意s、不味い、退避、退避!zzzzzzzzzzzz』
「スカウト6、どうしました?。応答を、....応答を!」
マイの呼び掛けに答える事なくノイズを発生させる無線機。するとマナミは、
「サクラ・ヒヨリ・マイの3名でスモール級をけん制しつつ排除。合流を許すな」
「「「了解!」」」
「ヒミカ・アズミ・トキミヤは私とラージ級の対応」
「了解」
「分かりました」
「了解です」
「アカネ・ツバキ・エナは現エリアの掃討。散ッ!」
※
ディフェンスアルファチームが奮戦している頃、別のエリアでディフェンスブラボーチームも無数のマルールビースト相手に奮戦して居た。
「ちょこまかと」
そう呟いたのち素早く動き回るミディアム級の動きを先読みして剣を振るったアジーはミディアム級を上下真っ二つに斬り裂いた。
「キリが無い....」
「デュース、気を抜いてる暇は無いぞ」
そう言いながらアイラはラージ級を仕留めると着地と同時にスモール級を左右真っ二つに斬り裂いた。
「踏み止まれ!此処を突破されたら、民間人の避難誘導路に、ビーストが雪崩れ込むぞ!」
サイリはそう言ったのち剣を二刀流で構えるとミディアム級を2体同時に仕留めた。
するとネガティブな報告ばかりをして居た無線機から希望とも言える報告が入り込んだ。
『ローゼンブルク北部で、1人戦ってる奴が居るぞ!』
『ラージ級率いるミディアム級の大群を1人で一層しやがった。誰だ?』
『スモール級が一気に消し飛んだ。ありゃ、....男だ。男の戦士だ』
『観た事ない武器を使って、ビーストを斬り裂いてやがる。まさか、破壊者か?』
「⁉︎」
「それって....」
『こちら、ストライクアルファチームリーダーのカズキ。ストライクアルファチーム本隊との合流困難。よって指揮権を一時的に副リーダーのマツリに移行』
『カズキさん⁉︎』
『貴方はまだ療養中の身じゃ』
『大丈夫だ。問題ない』
『ウォォォッッ!破壊者だ!。破壊者の救援だ!』
『ありがたい。まだやれるぞ!』
(俺の、俺達の活躍って、影薄いのな....)
カズキの戦線合流により士気が上がる防衛隊。
するとサイリは剣を強く握ると、
「病み上がりの人間に遅れを取るな!。押し返すぞ!」
「「了解!」」
※
5
ラージ級の群れと交戦中のマナミ、ヒミカ、アズミ、トキミヤの4名。
各自が3体ずつ倒した頃、マナミは日本刀を地面に刺した状態でしゃがみ込んだ。
「キリが、ない....」
「半数も仕留めきれてませんね」
マナミの側で同じ様にしゃがみ込んだトキミヤがそう言うとマルールビーストの死骸が吐き散らかす煙の中から現れた前脚に寄って2人は蹴り飛ばされた。
「隊長!トキミヤさん!。ッ、アッ」
「しまっ」
2人が蹴り飛ばされたのに気を取られたヒミカとアズミはラージ級の頭突きで地面に叩き落とされた。
そんな4人の元に20を超えるラージ級の群れがビルや車、歩道橋を破壊しながら迫った。
「隊長!」
「ツバキ!余所見しない!前!」
「え?。なっ、しまっ」
「ツバキ!」
ミディアム級の突進で突き飛ばされ、ビルに背中を打ち付けたツバキはあまりの激痛を前に動けなくなってしまった。
「ツバキ!。ッ!」
「不味い、ツバキさんが孤立した!」
動けないツバキに迫るスモール級。
その場に居る全員が、限界だった。
「ッ!。多勢に無勢か」
「諦めちゃダメ!」
「わかってるけど....」
チーム全体に諦めムードが漂う中、ツバキに迫るスモール級の頭部が上空から放たれたマグナムマジックショットによって砕かれるとサクラ、ヒヨリ、マイの目の前に居るスモール級の群れにランチャーが撃ち込まれ、6割が消し炭となった。
「ッ!」
「何だ?」
「今の攻撃って!」
全員が空を見上げるとそこにはバスターソードを構えたカズキが急降下しながら迫って居た。
「カズキさん⁉︎」
「なんで、此処に?」
カズキは答える事なくマナミらに迫るラージ級に斬り掛かると次々と頭部を斬り落としていった。
『(スモール級の群れの後方からラージ級が来るぞ)』
「野郎、キリがねぇな」
そう言いながらカズキは左腕に複合銃の“サイクロンインパルス”を装着し、チャージを開始すると複合剣を“バスターソード”から“ノーマルソード”に切り替えたのちランチャーを装着するとサクラらに迫るラージ級の頭部にランチャーを撃ち込んだのち自分のもとに迫るラージ級の頭部にサイクロンインパルスの銃口を向け、引き金を引いた。
銃口から放たれた閃光がラージ級の頭部と胴体を貫くとカズキは地面に着地した。
「救援、感謝します」
カズキは軽き息を切らしながらそう言ったマナミの方を向くと頷いて返した。
「準備体操には、もってこいだ」
「準備体操?」
「多分、途轍もなくヤベェのが来る」
カズキがそう言った瞬間、重たい足音と物凄い地響き、ビルの倒壊音が彼らを襲った。
「まさか....」
マナミがそう言い放った瞬間、彼らの耳にとんでもない通信が入り込んだ。
『こちらスカウト9。・・・信じられない。....ギガントだ、最強種だ!』
「⁉︎」
「ギガント⁉︎」
「やっぱり来たか」
カズキがそう言った瞬間、カズキは指先や爪先、頭部などから朱色の光が紋様の様な物を描きながら血管を辿らせると胸元に集めた。
すると建物の残骸や瓦礫を踏み潰しながら、それは姿を現した。
高さだけでも60メートル、全長は80か90かそれ以上の六足歩行の巨大なそれは、カズキ以外を絶望の淵へ叩き落とした。
「マナミさん、」
「?」
「ちょっと、力貸して下さい」
胸元に朱色に光るY字の発光体を出現させ、瞳をアクアグリーン色に輝かせたカズキはマナミにそう言った。
マナミは何かを察すると力強く頷くとチームを集結させた。
一瞬だけウォーターグリーンカラーの閃光を放ったカズキは49メートルの“スレイヤー”に変身した。
「・・・」
「カズキさんが、小さく見えますね」
カズキは49メートルの人型巨人。ギガント級に比べれば、その体格差は歴然だった。
カズキはすぐさま“マドロックフィールド”を展開し、ギガント級を拘束すると同時にマナミらの足元も泥で包んだ。
「カズキさん1人じゃ、無理って事ね」
「・・・いや、違う。見ろ」
ヒヨリが指差した先では変幻自在に形を変える泥の帯や塊によって拘束された大量のマルールビーストが次々とフィールドに集められて居た。
『おい!目の前に居たスモール級の大群が、泡の様なものに閉じ込められて、どっかに飛ばされたぞ』
『ラージ級が帯の様な物で拘束されてどっかにいっちまった。一体、なんだ?』
「まさか!。ギガントだけじゃなくて、周辺のビーストも纏めて⁉︎」
「前回より泥が大きく広がってます。成る程、ギガント以外のビーストを相手にする為に、私達の協力が必要なんですね」
「でも、かなりの数ですよ」
「・・・やるだけやってみましょう」
過去最大クラスのフィールドを展開し、多数のマルールビーストを拘束したカズキは腕を持ち上げて岩の外壁を展開すると岩のドームを形成したのちドームを泥沼の中へ沈めた。
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