※第14話 愛(終)
「先にシャワー浴びてきなさい」
「ありがとうございます!」
なんと、シャワーまで先に貰えるようだ。
よっぽど堪えたのか随分としおらしくなった。
温かいシャワーを浴びて脱衣所に戻るとバスケットにバスローブまで用意してくれていた。
「上がりました」
「はい、ココア淹れたから飲みなさい」
「ありがとうございます」
いたせりつくせりとはこの事か。
「美味しい?」
「はい。甘くて暖かくて……」
「良かった。疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます、麗華、さま……」
身体が温まって、麗華に頭を撫でられて私の意識は次第に落ちていった。
※※※※※
「ん……」
「目が覚めた?」
「はい……」
暖かい。それにフカフカで寝心地もとても良い。
やはり良いベッドは睡眠の質が上がるらしい。
しかも未だに頭を撫でられている。今までの行動からすれば考えられない甘々っぷりだ。
「麗華様……」
取り敢えずお礼は言うべきだ、と身体を起こす。
……起こそうと、した。
「……あれ?」
上手く起きれない。正確には手足が動かない。
訳が分からず動揺する私に、麗華は天使のような微笑みを向ける。
「無駄よ。医者に言って影の手足の腱を切らせたんだから」
「……え?」
え、あ……は? いきなり衝撃的な事を言われて頭が上手く回らない。
「な、なんでそんな事を……」
「そうすればもう自殺なんて出来なくなるでしょう?」
「あ、あぁ……っ」
そんな、そんな、そんな……!
ショックの余り勝手に涙が溢れてるくる。
「ぅあ……お、お願いします! もう勝手に死のうとしません!
お仕置きも素直に受けますし、ずっと麗華様のお側に居ますっ!
精いっぱいご奉仕しますから……だから、だから……どうか私の手足を治してください……!」
「影」
私の涙の訴えに、麗華は優しく微んで
「ダメよ」
NOの返事を突き付けた。
「影は私の奴隷。私の所有物。私の言う事を聞かないなら、もっと早くにこうするべきだったのよ。
ふふ、安心して? 貴女のお世話は私がしっかりしてあげるから」
「ひぅ!?」
私の下腹部に柔らかく、暖かい感触。
「分かる? 貞操帯も外してあげたのよ。だって影はもう自分で慰められないでしょう?」
「あっ……あぅ……!」
麗華の細くて長い指が、私の下腹部を優しく撫でる。
あのココアには睡眠薬の他に媚薬も入っていたのか、私の身体は麗華の指を受け入れる準備が出来ていた。
「影。私の可愛い影……貴女は一生私のモノよ。
食事も排泄も性欲処理も……全部私がお世話してあげるから」
「うぁっ……!」
あぁ、あぁ、自分はなんて馬鹿なのだろう。
麗華の狂気を、異常性を甘く見ていた。
恐怖と後悔と絶望に包まれて。
それでも無理矢理与えられる快感には逆らえず……私は絶頂に達した。
※※※※※
あれから一週間経った。
手足の腱が切れてから手術で繋げられるまでの期間はどれ程だったか。
少なくとも一ヶ月経っても大丈夫……という訳では無いだろう。
麗華は驚く程甲斐甲斐しく私の世話をしている。
食事は手ずから食べさせるし、トイレもお風呂も全て付きっ切りだ。
「はい、あ~ん」
「あ……ん」
「美味しい? 今日は貴女の大好きなハンバーグよ?」
「……はい、美味しいです」
私の為に料理の腕まで磨いてくる始末だ。
もう完全に私の身体の自由は麗華に握られている。
「ふふ……影は私の事好きよね?」
「はい……」
「私も大好きよ」
そう言って私の頬にキスを落とす。
反抗しなくなったからか、快楽拷問によるお仕置きもしなくなった。
私も満足出来る……適切な快楽とでも言うのだろうか。
私はすっかり飼われる事に慣れ、そして状況が変われば見え方も変わる。
あれ程恐ろしく、憎らしかった麗華が今では愛おしさすら感じられた。
だから、もう良い。
そう思っていた。諦めて現状を受け入れようと。それなのに……
「何ですか!? やめてくださいっ!!」
その日常は、唐突に壊れた。
麗華の悲鳴に、ドタドタと複数人が廊下を走る音。
「被害者一名発見! 保護します!」
警察の制服を来た男の人達が私を取り囲む。
別の部屋から聞こえる私の名前を叫ぶ麗華の悲痛な叫び声が妙に耳に残った。
今日この日をもって……花柳院 麗華による監禁及び虐待事件は幕を閉じたのだ。
※※※※※
「だから! あれはそういうプレイなんです。全て合意の下行われた事なんです!」
「ですが貴女は違法薬物を服用させられていた。
それに手術が間に合ったとはいえ、手足の腱まで切るのはSMプレイの限度を越えています」
「私、度を超えたMなので」
「うぅん……」
対面のお巡りさんは困り顔。
あの後保護された先で色々な事が分かった。
まず、捜査の手が伸びたのは以前にお見合いした高島 幸成さんの訴えによるもの。
なんと、あの日会ったのが私ではなく麗華だと見抜いていたらしい。
そこで疑いを持って花柳院家を調べたら……という訳なんだそうな。
そして、麗華は私を監禁・暴行した疑いで現在拘留中だ。
「しかし当の麗華さんが罪を認めているんですよ?
影さんに酷い事をしてしまった、後悔していると」
「それを罪と言うのなら、これは私と麗華の共犯です。
私は麗華を訴えたりはしません。絶対に」
「……分かりました。また後日お伺いさせてください」
そう言って刑事さんは疲れた様子で帰っていった。
どうやらお世話をされてから私も麗華に情を抱いてしまったらしい。
私は一貫して今回の件はお互い合意の下で行われた事である、と言い続けてきた。
面会に来た幸成さんからも説得されたけど、麗華への想いを告げると残念そうに引き下がってくれた。
つくづく良い人で、だからこそ申し訳なく思う。
今回こそ付け入る隙を与えたものの、花柳院家の力は未だ健在。
私の証言もあるから、麗華も間もなく釈放されるだろう。
麗華の奴、私に助けられたと知ったらどんな顔するかな?
※※※※※
「ん、ん、あぁ……っ」
結局あの事件は表に出る事なく闇に葬られ、一ヶ月が経った。
私達は大学の寮に戻り、爛れた日常を送っている。
「ひぅっ⁉︎ か、影……っ」
変わった事と言えば、受け攻めが都度交代するようになった事だろうか。
あの後、麗華が妙にしおらしくなったので試しに提案してみたら……なんとそれを受け入れた。
私も麗華に好意を持っている、という事を知って精神的に余裕が出来て、無理矢理に私を繋ぎ止めておこうという考えが薄くなったらしい。
それならば、普段とは違う快楽を得るのも悪くない……との事だ。
ちなみに貞操帯は私と麗華で共有している。
S役からM役に替わる時、直前まで相手が付けていたそれを自分の股間に当てがい、挿入し、鍵をかける。
その瞬間の背徳感は、癖になるほど甘美だ。
これは同じ体型である私達だから出来る事。
こんな所で双子である事を感謝する日が来るなんてね。
「ふふ、麗華……可愛いよ」
「あぁ……っ、影、私もう……っ!」
「うん、イって良いよ。……愛してる」
「んん……っ!!」
私達は変わった。
以前のような主従関係ではなく、対等なパートナーになったのだ。
もう私は奴隷ではない。でもご主人様でもない。
今の私達はただ……愛し合ってるだけの恋人同士だ。
fin
双子の姉に支配されて 生獣(ナマ・ケモノ) @lifebeast
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