※ 第13話 危険で愚かな回避術


「れい……!?」



言い訳を言う前に身体に衝撃。

一瞬の浮遊感の後に更なる衝撃。



「何をしようとしたの!?」


「いや……」


「影は私の奴隷なの! 所有物なの! 勝手に死ぬなんて許さないわ!!」


「違っ……んあぁ!?」


「来なさい」



麗華は有無を言わさず私の手を引っ張り出した。

抵抗しようとしたけど、中の玩具を動かされて腰砕けにされてしまう。



「や、やめっ……んあっ」


「お仕置きよ」



私は抵抗できないまま、麗華に引っ張られるがままになるしかなかった。

連れて来られたのは調教部屋。そこの拘束椅子に縛り付けられる。



「飲みなさい」


「い、いや……っ、多すぎ……んぐっ!?」



明らかに規定より多い量の媚薬を飲まされて一気に身体が熱くなる。

依然として作動し続けている玩具による快感もより強く感じられるようになる。



「あ"あ"あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? とめっ……とめてぇっ!」


「止めないわ」



麗華はそう言うとナイフで私の服と下着を裂き、私の胸に手を伸ばしてきた。



「んあ"あ"ぁっ! あ"っ、や、やらぁっ!」



薬のせいで、明らかに痛みを伴うレベルの刺激でも感じてしまう。

未知の快感に頭がおかしくなりそうだ。



「ひぁっ! あ"っ、あ"ぁ……やめ、やめぇ……んあ"あぁぁっ!」


「貴女は私の所有物なのよ! ほら、言いなさい!」


「わ、わだじ、はぁ……っ、れいか……んあ"ぁ!?」


「ちゃんとに言いなさい!」



麗華はそう言うと私の胸の先端を摘んだ。



「い"っ、あ"あ"ぁっ! あ"っ、ご……ごめ……なさっ、んあ"ぁぁ!」


「何に対して謝ってるの?」


「わだじが……っ、勝手に死のうとしてぇ……!」


「そうよ」



麗華は私の胸を揉みしだく。



「ひぎぃ!? あ"っ、がっ……あ"あ"ぁっ!」


「貴女は私の奴隷なの。勝手に死ぬなんて許されないわ」



麗華はそう言うと私の胸にしゃぶりついてきた。



「んあ"あ"ぁっ! あ"っ、や……やめっ、いあぁっ!」


「貴女は私に従うしかないの」


「ひぐっ、うあぁっ! あ、いあっ……んあぁ!!」



麗華は胸を吸いながら玩具を更に強くしたようだ。

今までとは段違いの快楽に頭か真っ白になる。



「影は私の奴隷なのよ」


「はいっ! わだじは麗華様の奴隷ですっ!!」


「影は私の所有物」


「はいっ! わだ、じは……っ、麗華様の、所有物ですっ!!」


「貴女は私の全ては私の物」


「いぅ……っ、はいっ! 私の心と身体は、麗華様の…物ですっ!!」


「貴女は誰?」


「麗華様の奴隷の、花柳院 影です!!」


「そうよ。だから勝手に死ぬなんて許されないわ」


「はいっ!!」


「分かったのなら、良いわ……片付けておきなさい」



そこまで言って、ついぞ誤解は解けぬまま、快楽拷問は終了した。

麗華は私を縛めるベルトを外して部屋を後にする。



「ゔっ……あ、あぅ……」



まだ起き上がれない。快楽の余韻で身体が勝手にビクビクと跳ねる。

それでも、少しずつ思考はクリアになってきた。


……麗華、怒ってたな。あれ程分かりやすく激昂した麗華は初めて見たかもしれない。


自分の所有物が勝手に壊れそうになった、からと言ってあそこまで怒るだろうか。

これまで散々メンタルがぶっ壊れそうな程責め立てていたのに?

まさか、もしかして……のレベルだけれど。



「私が死ぬのを恐れている……? 私の事が好き、なのか?」



思えば度々私の事を可愛いだの愛してるだのと言っていた。

嘲りの意味を込めて発していたと思っていたあの言葉はもしかして本心だったのか?

だったらあの発狂しそうな快楽拷問は何なんだ?

麗華なりの愛情表現だとでも言うのか?


……分からない。私の尺度で推し量るには麗華は難解すぎる。

でも、もし本当に私を愛しているのなら、本当に私を失う事を恐れているのなら……



「使える、かも?」



※※※※※



あれから一週間が過ぎた。

縄は捨てられ、包丁が仕舞われている棚は鍵付きになった。

本当に、私が自殺に走るのを恐れているような素振りを見せている。

……これは、上手くいくかもしれない。



「……よし」



無駄にデカい風呂いっぱいに水を張り、私は自分で両手両足に手錠をかけた。

後ろ手にかけるのは苦労したけど、何とか出来た。

後は麗華が来るのを見計らって……風呂に向かってに飛び込む。

派手な着水音と水飛沫が上がり、私は風呂に沈んだ。



「影っ!? 何をしてるの!?」


「げほっ、ごほっ……っ」



麗華は私を抱き起こすと、ズルズルと風呂から引っ張り出した。



「何考えてるのよ!」


「げほっごほっ……も、申し訳ございません……

私、お料理を失敗してしまい……でもお仕置きが怖くて……っ」


「それだけの事で死のうだなんて、そっちの方が害悪よ。貴女のお望み通りキツイお仕置きをしてあげるわ」


「ひっ!? お、お願いします……どうか、お許し下さい……っ」


「駄目よ」



案の定、地獄の快楽拷問が始まった。



ある日、通学中に道路に向かって駆け出したら、麗華に腰に抱き着かれて引き倒された。

泣いて許しを懇願したけどお仕置きされた。


ある日、寮のベランダに身を乗り出したら麗華に服を掴まれて引き戻された。

泣いて許しを懇願したけどお仕置きされた。だけど、媚薬の量は適量内だった。


そして今、豪雨の中私は橋の上に立っている。寮に置き手紙を残して……



「影っ!」



傘も差さずに探し回ったのだろう。

手ぶらの麗華が私を掴んで橋の中央まで引き戻した。



「貴女、何度言えば分かるの⁉︎」


「申し訳ございません……で、ですがっ、本当にお仕置きが怖いんです! 辛いんですっ!

お、お願いします……ひっぐ、お、お仕置きだけは、お許し下さい……っ」


「……もう良いわ。疲れたし今日だけは許してあげる。さぁ、帰るわよ」


「……! あ、ありがとうございます! ありがとうございますっ!!」




やった! 私の目論見は正しかった!

自殺を仄めかし、私自身を人質に取ればお仕置きの緩和、ないし回避が出来る事が証明された。

主従の立場は変わらないまでも、理不尽な快楽拷問の頻度を減らし、いつか無くす事が出来れば私の人生も幾分はマシになるだろう。


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