第14話三人のオフコラボ。桃のち硝子

お菓子工場の箱内企画の告知がされてから少しの時が流れていた。

各タレントが練習配信を行っており不作之831と加賀烏はオフコラボと称して集まって対戦会を行っているようだった。


「今日はオフコラボで加賀ちゃんの家に集まっているんだけど…」


「そうなんです。格ゲーはオンラインで教えて貰うのが苦手というか…

直接手元を見てじゃないと覚えられないんですよ…」


「加賀ちゃんって格ゲー苦手なんだっけ?」


「格ゲーがってわけじゃないです…。ゲーム全般苦手で…」


「なるほど。じゃあ今日は教え甲斐がありそうだ」


「よろしくお願いします!」


二人は前回のコラボで仲良くなったのか…

現在は隣の家で仲睦まじいやり取りを繰り広げていた。

しばらく僕も配信に目を奪われておりコメント欄なども見ながら過ごしていた。


「831ちゃんって教えるのも上手いよな」


「面倒見の良い姉みたい」


「加賀ちゃんの勝率が徐々に上がっているのが分かる」


「全キャラ使えるってマジか…」


「カンナちゃんがSNSで反応見せているよ」


「マジだ…二人共コメント見て」


コメント欄を見ていた僕も馬生カンナのつぶやきを目にすることになる。

そこには…


「私もオフコラボに参加したい。831ちゃんに教えてほしいな…」


そんな短い文章だったが…

ファンが一気に拡散させて鳩行為にも似たコメントを二人の配信に幾つも残していた。


「え?カンナさんのつぶやき?」


不作之831はコメントを目にしたのか一度練習配信の手を止めるとSNSを開いているようだった。


「マジだ…私に教えてほしいって…」


「私は良いですよ?ここに来てもらえるならば…

831さんが負担に思うなら別ですが…」


「私も加賀ちゃんが良いなら良いけど」


「わかりました。じゃあチャット送っておきますね」


二人は馬生カンナのつぶやきに応える形で個人的にチャットを送っているようだった。

きっと住所などを添付して送信したのだろう。

そこから二人は再び練習配信に向かうのであった。



馬生カンナのつぶやきから一時間が経過する頃だった。

二人の配信にチャイム音が鳴り響いて…

加賀烏は席を外して応答しているようだった。

少しして配信上に三人目の声が聞こえてくる。

コメント欄で事情を理解しているリスナーは馬生カンナの登場を心待ちにしていたことだろう。


「こんにちは。いきなりお邪魔してごめんなさい。

どうしても大会で活躍したくて…

思わずつぶやいてしまったのをリスナーさんが拾ってくれまして…

いきなりのコラボだけどリスナーさんと二人もよろしくね?」


「よろしくお願いします!私の配信では何度も口にしていますが…

カンナさんの見た目が大好きで…

それが理由で私はお菓子工場を選んだんですよ!

端的に言って大ファンです!」


「ありがとう!私も私の見た目が大好きなんだ。

皆んな知っていることだけど…

一輝先生に依頼して欲しいって事務所に直談判したんだ。

もしかして加賀ちゃんも一輝先生のファン?」


「はい!デビュー前の作品も全て観てきたと言っても過言ではないです!

それぐらい本気で追っかけていまして…

作業配信も全部観ているんですよ。

相当ファンだと思います」


「そっかそっか。同士がいて嬉しいよ」


二人はその様なやり取りを行うとにこやかな笑みを浮かべているようだった。

そこに割って入るのが不作之831だったのだが…


「急ですが三人でのオフコラボが始まったというわけで…

二人で対戦してみてもらってもいいですか?

それを観てから何を教えるか決めますので…」


「分かった。じゃあ加賀ちゃん。早速一戦よろしくね?」


「はい!手加減しませんよ」


「もちろん。私もそのつもり」


そうして二人の対戦は始まって…

三本先取の勝負は十分間ほどで勝敗がついて…


「3-2でカンナさんの勝利ですか…結構同じぐらいの実力っぽいですね。

キャラ相性とか考えても本当に実力が拮抗しているように思えます。

じゃあここから個人個人にコーチングしていきますね」


そうしてそこから彼女らのオフコラボ配信は数時間に渡り続くのであった。




彼女らの配信をモニターに流しながら僕は作業を進めていた。

思った以上に作業が進み…

このままなら自らで定めたスケジュール通りに進行が出来そうだった。

一度作業の手を止めて卓上のカレンダーに目を向ける。

本日の予定では義妹の桃が一週間に一度の食事を作りに来る日だと気付く。

作業を終えてリビングに向かおうと思っていた時のことだった。

不意にチャイムが鳴って僕は玄関に急ぐ。

約束の時間よりも早く到着したであろう義妹を招くために玄関の扉を開く。


「こんにちは…一輝先生ですよね…」


そこに立っていたのは桃ではなく…

先ほど隣の家でオフコラボをしていた誰かだと気付く。

いいや…誰かは理解していた。

他の二人の顔は知っているのだ。

となると残された一人以外あり得ないのだ。


「えっと…もしかして馬生カンナさん?」


僕の返答で彼女は一気に目を輝かせているようだった。


「はい!配信観ていてくれたんですか!?」


嬉しそうな笑みを浮かべている彼女に僕は薄く微笑んで頷く。


「うん。箱内企画楽しみにしているよ」


「嬉しいです!主催の一人である私も全力で頑張るつもりです!」


「そうみたいだね。さっきの配信でも頑張っていた」


「はい!一輝先生に褒められて…本当に嬉しいです…♡」


「いやいや。皆んな頑張っていて本当に偉いよ。

僕も負けないように努力を続けようと思ったな」


「一輝先生にやる気や勇気を与えることが出来たのも光栄です♡」


「ははっ。大会本番も頑張ってね」


「はい!それで…」


馬生カンナは最後に言い難いことでもあるのか少しだけ俯き気味な表情で口を開く。


「連絡先って聞いても良いんでしょうか…」


そんな自嘲気味の言葉を耳にした僕は再び薄く微笑む。


「それぐらいは良いんじゃない?」


「やったぁ♡じゃあ早速交換してください♡」


僕らはお互いにスマホを手にするとその場で連絡先を交換する。


「ありがとうございます♡今日はここで失礼します!

今度お礼の品を持ってきますね♡」


「いやいや。何もしていないんだから気を使わないでよ」


「それでも…私がしたいんです♡

それじゃあ…失礼します」


それだけ口にすると馬生カンナは僕の家の前から姿を消すのであった。



リビングに戻るとすぐにスマホに通知が届く。


「カンナさん…来た?」


相手は硝子だった。

僕はそれに肯定の返事をして様子をうかがっていた。


「カンナさんは多分…一輝に偶像的な妄想を抱いているから…

一応気をつけてね?」


「分かった。硝子はまだ熊野さんと一緒?」


「うん。配信はしていないけど二人でゲームしている」


「そっか。分かった」


「何かあった?」


「いいや。これから妹が来て料理をしていくから」


「から?」


「何でもないんだけど…一応尋ねておいたんだ」


「そう…妹さんが帰った後なら…そっちに行きたいかも」


「そっか…分かった。後でまた連絡しても良い?」


「もちろん。待ってる」


そこで僕らのやり取りは一時的に終了する。

少ししてから再びチャイムが鳴って…

義妹の桃が大荷物を持って僕の家を訪れたのであった。




「コラボ配信解禁したんだ?」


義妹の桃はキッチンにて料理をしながら雑談をするように僕に問いかけてくる。


「うん。チェックしているんだ。意外だったわ」


「そう?急上昇ランキングで上位に入っていたから。

嫌でも目にするでしょ」


「そっか…」


「あの二人とは仲良いの?オフでも会うんでしょ?」


「まぁ…仲良いね。一応同業者だし。

僕らは同業者とか関係者とじゃないと遊べないっていうか…

言えないこととか秘密にしていないといけないことが多すぎるから…

必然的に同業者と一緒に過ごす時間が多いだけだよ」


「ふぅーん。同性とはコラボしないの?」


「打診があればすると思うけど。

僕はあまり男性に好まれるタイプじゃないと思うんだよね」


「そんなことないでしょ。今までだって普通に同性の友だちが居たでしょ?」


「まぁね。でもコメント欄とか見ていると…

男性は僕に好印象を抱いているとは思えなくて…」


「それは女性とばかりコラボしているからじゃない?」


「それもあるんだろうけどね…きっとそれだけじゃない気もする」


「そうかなぁー。気にし過ぎじゃない?」


「気にし過ぎぐらいが丁度いいんだよ。僕らの職業は…」


「ふぅーん。大変だね。イラスト一本で生きていかないの?」


「色々とコネや繋がりがある方が良いに決まっているから。

なるべく沢山の人脈は作っておきたい。

もしもイラストレーターとして食っていけなくなっても…

様々な道や選択肢がある方が良いだろ?」


「そうだけど…」


「本気じゃないみたいか?」


「………そうじゃないけど…大変じゃない?自分の時間とかってあるの?」


「もちろん大変だけど。もう慣れたよ」


「慣れてきた時が一番危ないんだよ」


「ははっ。運転じゃないんだから」


「もう…!真剣に聞いてよ!」


「分かった分かった。気をつけるよ」


義妹の桃と僕は世間話風の雑談を繰り広げながら彼女が一週間分の食事を作り終えるまで一緒の時間を過ごしたのであった。



桃は家事の全てを行ってくれて…

一週間ぶりに僕の家はきれいになっていた。

桃は僕の家で夕飯を一緒に食べると片付けを済ませて席を立っていた。


「じゃあ帰るからね。また来週」


「あぁ。いつもありがとう。今度何かお礼をするよ」


「別にいらないって。私が好きでやっていることだから」


「でも何もかもおんぶにだっこは悪いだろ」


「私が一輝を支えたいだけだから」


「そう言われてもな…」


「まぁまぁ。私が嫌になるまではずっと支えるから」


「そうか…ありがとう」


「うん。じゃあね」


玄関のドアを開けた桃はそのままエレベーターの方へと向かっていった。

妹がエレベーターに乗るのを確認すると僕はリビングに戻った。

義妹の桃の今後のことを思いながら…

僕は一人の時間を少しだけ過ごしていたのだ。




そして…

桃が帰宅してから一時間が経過した頃。

僕は硝子にチャットを送って…




次回。

僕の家に硝子が初訪問…!

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このVTuber…どう考えてもワイの元カノなんだが…!? ALC @AliceCarp

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