夏休みの図書館

夏木 咲

0話






- いつも図書室の窓から君を見ていた -















今日も、すっかり定位置となった机を陣取る。窓から見えるグラウンドには、サッカーボールを追いかける君がいる。



文化祭も体育祭も終わった7月、すっかり受験生モードになった私は、昼休みに図書室で勉強するのが日課となった。図書室にはグラウンドを一望できる大きな窓がある。その窓の前には、カウンターのような作りをした3人掛けの自習スペースがあり、そこの1番左の席が私のお気に入りの場所になっていた。



グラウンドには、サッカーをしている男子生徒たちがいて、その中に西山俊が混じっていた。彼は先日の体育祭で赤組の団長をしていた。彼は整ったルックス、後輩に対するフレンドリーな態度、そして団長という肩書きもあり同級生だけでなく下級生の女子たちからも憧れられる存在だ。そして例外なく私も彼に憧れを持った。



しかし、これは恋心ではない。ファンがアイドルに向ける感情に近しいものである。だからこれは断じて恋心ではない。



彼と私は同級生であるものの、彼は文系クラスで私は理系クラス、彼はサッカー部で私は軽音部、と全く接点がなかった。そして彼の教室と私の教室は少し離れているので廊下で見かける事もほぼない。だから図書室で勉強する日、彼がグラウンドでサッカーをしているのを見かけると密かに心を躍らせていた。



彼への想いは恋心ではないと断言したが、憧れてはいるから彼と話してみたいし、目で追いたくなる。昼休み、図書室の窓から君を見る瞬間が、一方的ではあるものの、彼との時間のような気がしていた。だからいつもこの窓の向こうに彼の姿を探し、彼を見ている。



今日はいい日だ。一段と勉強のモチベーションが上がる。合間合間で彼の姿を追って休憩しつつ、物理の演習問題をひたすら進めた。



昼休み終了5分前の予鈴がなった。ちょうどキリが良かったので私は教室に戻る準備を始めた。ふと窓の外を見ると、件のサッカー少年たちも切り上げて教室へと戻るところだったようだ。



私も教室へ戻ろうと窓の外から視線を離す直前、西山俊と目があったような気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏休みの図書館 夏木 咲 @Blooming-edelweiss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ