第1話
驚いた。なぜ彼がここにいるのだろう。
すっかり私の定位置となっていたあの席に、西山俊が座っていた。
キラキラと朝日を浴びている彼の横顔は眩しかった。
今日から夏休みなのだが、私は塾に行っていないので夏休みになっても図書室に通うことにした。夏休みの間は普段の教室も自習室として開放されているため、図書室の利用者は相変わらず少なかった。いや、少なかったというか、図書室には私と西山俊しかいなかった。
図書室にはあの窓以外にも本棚に挟まれた場所にある、向かい合って10人ほどが使える大きな長机がある。端の席に座ればこちら側からは窓際の机が見えるが、向こうからは死角となる。お気に入りの席を意外な先客に取られてしまった私は、今日はその席で勉強することにした。
勉強を始めてしばらく経った。キリがついたのでそろそろ昼食を食べようかと考えていると、誰かが私の向かいに座った気配がした。気になって顔を上げると、西山俊と目が合った。
今回は“目が合った気がする”ではなく、ちゃんと“目が合った”のだ。
だって、私の前に座ったのは西山俊なのだから。
なぜ、西山俊がそこに座っているのだろう。なぜ、西山俊はこちらを見ているのだろうか。
なぜ、西山俊は私に話しかけいるのだろうか。
「ねえ、今、勉強のキリいい?ここ、教えて欲しいんだけど。」
そう言って西山俊は数学の問題をシャーペンでトントン、と指した。なるほど、数学の解法を知りたかったのか。図書室には私と西山俊しかいない。だから私に聞くしかなかったのだろう。
「あ、えっと、この問題は接点の座標を文字で置いたら解けると思うよ。」
「ああ、なるほど!ありがとう!」
そう言って西山俊は元の席へと戻っていった、と思ったのだがまたこちらにやって来た。
「ねえ、東野さんさ、いつもは俺が座ってる席で勉強してるよね?俺、席移動しようか?」
なぜ私の名前を知っているのだろうか。そして、なぜ私がいつもそこで勉強しているのを知っているのだろうか。
「あれ、名前、東野理子じゃなかった?」
「ううん、合ってる。あと、席は変わらなくて大丈夫だよ。」
私の返事を確認すると、西山俊は少し残念そうな顔をして、今度こそ元の席に戻っていった。疑問に思うことはたくさんあるが、それよりも驚きと緊張が勝ってしまい、それ以上会話を続けることができなかった。まさか、西山俊と言葉を交わすことになるとは思わなかった。気持ちを落ち着けようと、私はランチバックを持って図書室を後にした。
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