第11話 突撃取材よ!!

「シャーロック・ホームズ……? それって、探偵もののミステリーですよね」


 沙知の宣言に美鈴は「たしか……」と少し自信なさそうに加えた。


「そう、そうなの! 私、理玖からシャーロック・ホームズシリーズの本を借りて読んでいたらすっかりはまっちゃって……。とにかく私は、シャーロック・ホームズになりたいって思ったの! ちなみにしっかりワトソンもいるわよ、ここにね!」


 沙知が僕の肩に手を置いてにっこりと自信気な笑みを浮かべる。


「そうですか……そう……」


 静かな声で、美鈴は言った。僕らの間に窓から風が吹き込んでくる。世界が、美鈴の次の言葉を待っているような。そういう静けさが空気に広がっていたんだ。


「…………それならやっぱり、私は探偵にはなれません。夢も目標も、何もないですから」


 また、風が吹く。美鈴の肩口で切りそろえた髪がさらさらと揺れる。彼女は小さく笑っていた。どうして、そんな顔をしているんだろう。理由もわからないまま、僕と沙知は黙っていることしかできなかった。


「だけど、図書室の謎を解くまでは私も協力します。私が沙知さんたちに依頼したことですから」


「美鈴ちゃん……分かったわ。そこまで言うなら、無理にとは言わない。でも、気が変わったらいつでも言ってね。私の気持ちは変わらないから……」


「ありがとうございます」


 美鈴はそっと微笑んで言った。なんだろう……。少し、心の距離が離れてしまったみたいな感じがする。どうやったら埋められるのかもわからない。よく分からなかった。




「あら秋野さん。遅くまで当番ありがとうね」


 職員室にいる司書の山崎先生に会いに行き、美鈴は当番を終えたことを報告した。そして、


「先生、今日も図書室の鍵がなくなっていました」


 と謎のひとつについてもしっかり伝える。先生はハッとしたように美鈴、そして僕と沙知にも目線をやって、「…………そう」と、優しく吐いた。


「鍵は私のほうで探しておくわ。秋野さん、それにあなたたちも、ご苦労さま。今日はもう遅いから、寄り道せずに帰りなさいね」


 先生はそれだけ言うとそそくさその場を離れた。う~~ん……。なにか変だ。隠し事をしてるみたい、知られたくないことでもあるのかな。


 職員室から出て、僕たちはそのまま昇降口へと向かった。そこで沙知が声を潜めて僕らに言う。


「ねえ、山崎先生。図書室の鍵がなくなったことを離した途端、急に様子がおかしくならなかったかしら?」


 やっぱり沙知も気づいたみたい。まあ、けっこう分かりやすい感じだったけど……。問題は、先生がいったい何を隠そうとしてるのかっていうことだよね。今のところはさっぱりだ。


「先生はいつもああいう感じです。図書室の鍵がなくなったことを伝えると、ああやって少しよそよそしいというか……そんな態度になります。理由はよくわかりませんが、私たちに知られたくないことでもあるんでしょうか」


 う~~ん、引っかかるなあ。先生に話を聞けば、鍵が消える謎に一歩近づけるのかも。


「それじゃあ明日、先生に直接聞きに行ってみるのはどう?」


 僕は沙知と美鈴にそんな提案をした。だって、こうやって考えてるだけじゃ何も起きないもんね。


「理玖くんって、案外大胆な人なんですね……」


「え?」


 美鈴に言われて、僕は変な声で返す。そ、そうかな……。そんなこと今まで言われたことないから、僕はびっくりしてしまった。


「そうね。こうやって三人で考えてるだけじゃらちが明かないし。明日早速、突撃取材よ!!」


 こうして僕たちは明日の放課後、山崎先生に突撃取材をすることになった。


「まぁ。突撃取材って、探偵っていうよりは記者になっちゃってるけどね……」

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探偵からの予告状 夜海ルネ @yoru_hoshizaki

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