第10話 笑ったりしない……?

「私、探偵団に入るなんて一言も言っていませんよ? というかその存在だって、今知ったばかりで……」


 美鈴は明らかに困ったような顔をして沙知にそう訴えはじめる。た、たしかに沙知は知らず知らずのうちに周囲の人をどんどん巻き込んでいくような性質がある。それはいいことでも悪いことでもあるって僕は思ってるんだ。


 踏み出す勇気がなかった人にとっては勇気を出すきっかけになるのかもしれない。だけど最初から無関心で関わりたくないと思っていた人にとっては、沙知のそういう行動はマイナスになってしまうから。


 今回は、美鈴にとってどうなるんだろう。僕は少し心配になって、二人の様子を見守った。


「……まあ、ですがそうですよね。人に事件を押し付けるだけ押し付けておいて、自分は見てるだけなんて言うのも私のやり方にはあっていない気がします。分かりました、私もその『綾森探偵団』とやらに入ることにしましょう」


 美鈴はしばらく考えてからそんなことを言ったので、僕はほっと胸をなでおろした。よかったあ……。万が一、万が一の場合だけど、下手したら彼女たちの仲が悪くなるんじゃないかって、僕は心配しちゃってたから……。


 だから美鈴がそう言って探偵団に入ることを受け入れてくれて、本当によかったって思ったんだ。


「本当に!? やったあ! やったわ!!」


 沙知もあんな大口をたたいたくせに心の中じゃ受け入れられるか不安だったみたいで、美鈴の言葉を聞いた瞬間手をたたいて喜んだ。


「でも」


「ん?」


 その時美鈴はそう言った。「でも」と。沙知がはてなマークを頭の周りにたくさん浮かべる。


「探偵団に入るのは、今回だけ。図書室の事件を解決し終わったら、私は探偵をやめます」


 沙知は今度は目を大きく見開いて悲しそうな顔をした。


「な、なんで? もし私や理玖に対して何か不満とか嫌なことがあるなら、何でも言ってよ! 私、理玖と美鈴ちゃんと一緒に探偵やりたいの!」


「そういうことではありません。お二人とも今日初めて会っただなんて思えないくらいとても親切にしてくださいましたし。不満なんて少しもありません。むしろ感謝したいです。こんなに楽しいって思えたのは、すごく久しぶりだったから……」


 美鈴は静かな声でそう言った。僕たちはいつのまにか職員室に向かう途中の廊下で立ち止まり、なんだか重たい空気のなかで黙っていた。


「沙知さんは、どうして探偵になりたいと思ったんですか?」


「えっ?」


「そういえば聞いていなかったので。どうして探偵に、なりたいと思ったんですか?」


「それは……それは、この学校に起きる事件で困ってる人たちを助けたいって……思ったから……で、あって……ええと」


 沙知は口ごもりながらもそう言った。……けど。いくらなんでも無理があるんじゃないかなぁ……?


「って、それは建前ですよね」


「うう」


 しっかり美鈴に言い当てられて、沙知は決まりの悪いような顔をしながら目をそらした。ほら、言わんこっちゃない。


「私が探偵を目指すホントの理由、聞いても笑ったりしない……?」


 すると沙知は今度は横目に美鈴を見てみたりして、もじもじしだした。


「もちろん、笑ったりしませんよ」


 美鈴がそう言ってしっかりと頷く。それを見て、沙知は安心したような顔をしてから覚悟を決めたのか眉根を寄せた。


「私が探偵になりたいと思った本当の理由。それはね……」


 僕も、美鈴も、息をのんで彼女が次の言葉を口にするのを見守っていた。そしてついに、もったいぶっていた沙知がその口から音を出したんだ。


「シャーロック・ホームズみたく、かっこいい推理がしてみたかったからなの!!」

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