落第勇者の盗掘英雄譚

みかみかのみかん

第1話



 とある日の事。


「代表、話があります」

「ああ、何だ?」


 ダイスから急な呼びかけに応じる俺。

 いくらなんでも俺が社長という立場とはいえ、長い付き合いであるダイスを前にして立たせ、俺は王座に座る。

 挙句、ダイスに敬語を使わせてしまった。


「2人の時くらいはタメ口で話てもいいのによ」

「じゃあそうさせてもらうわ」

「んで、用件は」


「俺等は最近じゃかなり力をつけてあの6大カンパニーに近づいてる所まで来ている。という点を考えて聞いてくれ

 簡単に言うと、アリスの事だ」

「ん?昇進させると言う事か?」

「いや、その逆だ」


 その言葉に俺は疑問に思った。

 何故アリスが降格しなければならない、立ち上げメンバーの1人でどんな時もずっとそばにいてくれたと言うのにどうして、そんな仕打ちをしなければいけないのか分からなかった。

 辛い時期を知っているから、ダイスも分かっていると思っていたが、答えはその逆だった。


「どういう事だ!アリスは1番最初に苦しい時もこのギルドを支えてくれたメンバーじゃないか!お前が1番分かってるじゃないか!」

「分かってる!分かってるから言ってるんだ!」


 俺の激しい口調に負けずに反論する。


「ここ数年確実に力をつけて来たこのギルドには新たに入ってくる人達も皆優秀なんだ、彼女より若くて彼女よりも優秀、俺がこの間昼食を食べている時に聞こえたんだよ、なんであんな人がこのギルドにいるのかってな」

「なんだと……」


 俺の怒りの矛先がそいつらに移っていく、しかし、それは次に見せられたダイスのデータによって明らかになる。

 実際、アリスの働きが他の人に比べて良くない事は明らかだった。

 その上役職も良いとこに就いている。

 不満を持つ人がいても仕方がない。


「はっきり言うよ、彼女を降格、いや飛ばすべきだ!」

「………!」

「今我々はギルドとして多方面な活躍をしているのはヴェルトが1番分かってるだろう

 その中に彼女を移転させるべきだと俺は思う」

「……それは出来ない!!」


 年齢で昔の様な働きが出来なくなっているからって今までの功績を無かったかのようにただ見捨てるのは俺の信条が許さなかった。


「俺はアリスを見捨てる事は、出来ないっ!」

「じゃあ言い方悪くして言わせてもらうよ

 彼女はあんたのお気に入りで採用させてんだろ!」

「ああそうだよ!!!」


 俺は怒り狂ったように王座から立ち上がり、ダイスに近づき、胸ぐらを掴み高圧的な態度をとる。


「これ以上言うなら、お前を俺の独断で追放する事だって……」

「悪かったって、ごめんな」


 そう言ってダイスは怒りに力を任せた俺を軽く振り払って一歩後ろに下がる。


「お前はこの歳にもなって、好きな人に告白すら出来ないなんて恥ずかしい奴だなって思うと笑いと同時にむかついてきちゃってよ

 悪いな、試すような事して」

「は?」


 俺は一気に話を進めるダイスに理解が追いつかない。

 ダイスは理解出来ない俺を見て笑い続ける。


「いやいや、指輪まで買っておいて、ずっと彼女の事気にしてるのを知ってて見てると面白いんだよねホント」

「お、おい!何で知ってるんだよ」

「分かりやすいって本当に、指輪を自分の机に嬉しそうにしまう姿はもう最高だったよね

 さらに今日こそと思って服に忍ばすけどやっぱ勇気が出なくて机に戻す姿はもう傑作も傑作だったわ」

「…くそっ、

 でお前は何が言いたいんだよ」


 俺はようやっと状況が飲み込めた。

 ダイスが俺の行動を見て笑っていた事は後で絶対に許さない事に決めた。


「だから、お気に入りならすぐにでも自分のものにでもしろって事」

「なっ……!」


 また俺の顔が赤くでもなかったのかダイスが俺を見て笑う。


「今も持ってんだろ?指輪、だからさ早く告白した方が良いぜ?

 彼女はめちゃくちゃ可愛いからなーすぐにでも他の人と結婚してもおかしくないなー」

「お前……」

「早く呼べって、もしこのままビビり続けて彼女自身がギルドにいるのが辛くなって辞めていってしまうかもしれないぞ?」

「ああーもう!くそっ」


 俺はダイスの思うがままになっているような気がして嫌だったが、ダイスは俺には無かった最後の勇気って奴を与えてくれた。

 更に俺に任せろとまで言って来た。

 やっぱり許して感謝する事にした。


「アリス、話がある1番会堂に来てくれ」

「え、あっはい」


 アリスにもここでは敬語を使われてしまう。

 それも考えると嫌な気がする。



 会堂に着くとヴェルトは王座に座っていた。

 アリスは王座の階段の少し手前で立ち止まった。


「話、と言うのは」

「今後の契約についての話だ」


 俺はそう言うと何故か分かっていたかのような顔をするアリスに少し動揺をする。


「分かっていましたよ、私はもう以前の様には動けない、ヴェルトさんの様にはなれないって」

「今は他の人がいないんだ敬語は使わないでタメ口で話してくれよ」

「いえ、それは出来ません」


 俺はまだ何も言っていないのにアリスは涙を流しながら話す。

 そして、タメ口で話して欲しいと言うのに言う事すら聞いてくれない。

 俺は忙しかった。最近はあまり2人でまともに会話すら出来ない程に。それがこの関係値を作り出してしまったのだろう。

 俺は反省する。


「分かっているようだな、最近は仕事量も随分と減っている見たいだな……」

「はい、」

「俺1人でギルド全体をまとめる事も救う事も出来ない」


 ダイスにはもう少しとやれと指示してくるが、流石にもう我慢の限界だった。

 俺は王座から立ち上がり一段、また一段と階段を降り、アリスと同じ高さになる。


「今のギルドは俺1人じゃもう全て見れないくらいに大きくなって来て、出来る事が制限される、だが、俺はこのギルドをもっと大きくしていきたいと思っているだから……

 俺も選択をしなければいけないんだ」


 そう言って、少し俺の方が高かった目線が少しずつアリスの方が高くなる。

 アリスは両手を口に押さえて、涙を流している。

 そして俺は片膝を着いた。


「俺が仲間に裏切られてどん底だった時、常にずっと横で俺を支えて来てくれた……今まで俺は何度も助けられた…2人ならどんな困難だって立ち向かえる気がした……」


 俺は緊張のあまり、顔が上下に動く。

 こういうときやっぱり俺は格好がつかない。

 でも、最後はしっかり決めたいと思い、アリスの顔をしっかりと見る。


「だから、これからは2人で……いや、俺がアリスを支えて行く……大好きです。


 

 ──結婚して下さい」


 アリスの顔に涙が溢れる。 

 そして、一呼吸終えた後に返答をした。

 

「ありがとう…よろしくお願いします」


 そう言ってアリスは俺の手から指輪を受け取った。

 俺も涙を堪えきれなかった。

 そして俺は立ち上がって、2人は抱き合った。


 すると───


「おーい!皆んな!成功だーー!」


 ダイスの声と共に会堂のドアを思いっきり開けて幹部の人達が入った来て、それに続くかのように沢山の仲間達が俺とアリスを祝った。


 「おめでとう」と拍手しか聞こえない。

 今俺は幸せの絶頂にいる事を実感した。


 

「よくやったなヴェルト」

「ああ、ありがとうダイス!」


 俺とダイスを囲んで仲間達が俺に賛辞を浴びせる。


 アリスの方も仲の良い人達と抱き合っている様子。


「おーおー、凄いなこの騒ぎは」


 すると、奥から聞いた事があるような自分よりだいぶ歳上の声が聞こえた。


「ウィル代表!それにドラコさんも」

「今は代表を退いたただの一般人だ」

「久しぶりだな!坊主!」

「どうしてここに?」

「それはな、この男から今日、お前が結婚するからサプライズで来てくれと頼まれたからな

 しかし、これで来たのも4回目か?お前は何度俺を待たせるんだ告白くらい覚悟決めたらピシッと決めてくれないと

 ウチを辞める時はすぐやめたのになあ」

「その時もすぐではないですよ!緊張しましたから」


 ウィルさんは嬉しそうに笑った。

 俺も涙ではなく笑みが溢れた。


 アリス側にはロイさんとサイファリアさんが来ていた。

 アリスはこの2人によくお世話になっていたみたいでそっちの方でも涙ではなく笑顔が見えた。


「いやーあのアリスとお前が結婚なんて本当驚いたな」

「本当だな!アリスはいつもオドオドしてたからな見ないうちに立派になっているじゃないか」

「沢山の人が祝福に来てくれてお前も幸せだなぁ」

「そ、そうですね、両親には来てもらえませんでしたけどね」


 そう呟くと、ウィル代表とドラコさんが目を合わせる。

 しかしその後特にそんな事を気にせず幸せな時間を過ごした。



 そして、ある程度人が減ったところでウィル代表から話をしたいと言われ、応接室にて話をする。


「話しとはなんでしょうか」

「お前に本当の父親の話をしようと思ってな」

「本当の?」


 俺は今更になって父の事を話に出された事に対する驚きもあったが、少し嫌な予感もする。


「あの最悪な両親は本当の両親では無い」

「そうなんですね…」


 こんな話をされても全く意味も分からない。

 

「俺がお前が虐待されてたのを助けた事覚えているか?」

「そりゃもちろん」

「お前を助けろと俺に言ったのはお前の本当父親なんだ」

「それはどういうことですか?」


 俺は何故か本当の両親の記憶が全くと言って良いほどに思い出せない。

 そして、ウィル代表は話し始める。



───


 ヴェルト・ファンタズマ(1)を救う約8年前


ヴァルドの父親視点。

 

 23歳という若さでこの国の勢力図を一変させる程の力を持っていたヴェルトの父フォルドはその日仲間と共に神妙な顔をして見合っている。


「簡単に言おう……俺達は死ぬ」


 一同はその言葉に酷く驚いた様子もなく淡々とその言葉を受け入れていた。

 

「ええ、そんなの分かってるの…それを踏まえて私達はどうしたらいい?」

「最後まで立ち向かうそれだけだ

 前にもボスが言ったじゃねえか、ビビってんのか?サイファー」

「当たり前よ、私だって死にたく無いに決まってる、このフォルズにはこんな美しい彼女と結婚して子供までいるのに、まだ結婚すら出来てないっていうのよ!

 おかしいじゃない」

「そりゃよいくら何でもそこにいる奥さ、いやアイシャさんに失礼じゃないか」


 ロイとドラコはいつも通りサイファーを冷やかしている。

 サイファー自身も取り乱しているようだが、特にいつもとの変化は見られない。

 心配性なのはいつもの事だ。

 それを見て新入りの俺はただニコニコと見ているだけだ。


「考えは…まだある」

「しかし、我々戦力11人に対し、敵戦力は我々より格段に多いそれにこちらの戦力の1人は子供がいるから前線は難しい

 そして相手はニコラス王国軍とラルフワン王国の二国合同、王直属のギルドや組の精鋭集団…はっきり言って勝ち目は無いと見るのが普通…」

「もう駄目だああぁ」


 冷静に状況を伝えるNO.2であり17歳最年少のクランツの説明を遮りサイファーがまた叫ぶ。

 これは流石にいつもと様子が違う。

 そう感じたのか、ロイとドラコがサイファーを別室に運ぼうとする。


「あの……ウィル一緒に運ぶの手伝ってくれ、こいつ軽くないから」

「わ、分かった」


 ロイに言われてすぐさま立ち上がって手伝おうとすると、その手を振り払われた。


「私、そこまでお子様じゃないから!

 1人で歩けるから馬鹿にしないで!」


 流石に怒ってしまったみたいだ。


「こりゃ流石にまずくないか?」

「いや、これくらいやらんと動かないし、明日には全てが終わるんだ

 策があるって言うなら必ずサイファーの力も必要になるのは分かるだろ、だから立ち直ってもらわないと困るんだよウチのエースにはさ」


 元々、サイファー、ロイ、ドラコの3人はこのギルドに加入する前からの友人で有名な盗掘師だったが、とある洞窟で龍玉を獲る際にフォルド単体にロイとドラコは簡単にやられ、残りのサイファーも一矢報いるが見事にボコボコにされた。

 しかし、才能があると判断したのかサイファー1人をフォルズは勧誘するが、


「私はロイとドラコと夢を掴むって決めてるから私1人、あんたのとこに入る事は出来ないわ、だって2人は私にとって大切な親友…だから」


 そう言って、サイファーは去ろうとするが、フォルドは引き留めた。


「なら、その親友の2人と一緒に入るといい俺はフォルド・ファンタズマ、ギルド・Unknownアンノウンの代表だ」

「その名前、聞いた事ある!人数がとても少ない、けど無敗の最強ギルドの名前と同じだ!」


 アホみたいな反応をするサイファーにフォルズは誘う人間違えたかと少し頭を抱え下を向く。


「何よ!私がバカって呆れてるの?」

「いや、それもあるけど、名前が知られるのは恥ずべき事…」

「アンタも相当バカみたいね!私はサイファリア・メルストよ

 よろしくね!」


「……てかanonymousアノニマスって知って、」

「何だ?」


 フォルドはとてつもないオーラでサイファーを制圧した。


「まあそんなこんながあって俺達はサイファーのバーターみたいなもんだ。」

「多分そんな事ないと思うけどな…実際2人主導で大仕事動かした事だってあるしもう誰もバーターなんて思ってもない

 俺だって言われなきゃ気付かないし」

「色々あるけど、やっぱ小軍が夢を見るのは世界が許してくれないって訳だ」

「そうかもな、、まあフォルドさんの考えってのに賭ける価値はある

 …俺は戻る、俺がここにいたら流石に変だからな」


 そして作戦会議が終わり、翌日を迎える。

 結局考えと言うのは最後まで伝えられなかった。

 その場でサイファー1人を安心させる為に使った言葉だったのかもしれない。


 まだ一歳であるヴェルトと嫁のアイシャはギルド内に残し逃げるように指示をしただけで、我々10人は自ら城前へと赴いた。


 フォルドの表情は微かに揺らいでいた。

 これが最後になるかもしれないそう考えると他の人も気を引き締め、他の人を気にする事なく前を向く…ただ1人を除いて。


「どうするよ…本当に終わっちゃうよ」

「まあまあ落ち着けサイファーまだ何も終わっちゃいない」

「…でも」

「安心しろボスだけじゃねえ俺達もいる」

「うん……私は絶対に負けない!」


 すぐにロイとドラコが間を取り持つ。

 この3人は完璧な関係性だ。

 ガラスのハートで絶対的エースのサイファーとガラスのハートを補填する優秀なサイドの2人、足りないとこを補ってより強い軍となっている。


「クランツ……分かってるな」

「もちろんです」


 遂に国王連合軍と対面した。

 やはり人数の差は歴然。

 それでもオーラが違う。

 覚悟が違う。

 積み上げて来た誇り、プライドが違う。


「やあやあ、Unknownの諸君等よ、わざわざ死地に自ら来るなんて

 私達も少し君達を警戒し過ぎたようだ」

「そうか、お前達は俺達を見て何も感じないのか

 やはり王の加護を受けただけの能無しどもが」

 

 そう言い放つと剣を抜き、1番前にいた得意げに放つ男の首を切った後、自分の軍の所に戻り男の首を奴等に見せる。

 不意打ちで反応が鈍っていたのか、移動したのが音を置き去りにしていたように思えた。

 敵の陣に行ったと思った時にはもう戻っていた。

 それにしても、ここまで感情を全面に出すフォルドさんも珍しかった。


「まだ分からないか、俺達と戦う事がどれだけの代償を伴う事かを」

「これ以上お前達を野放しにしてはならない王がそう判断したからにはフォルド!お前を殺さなくてはならない

 数は我々3000に対し、10差は歴然だ!

 全軍、突撃!!」


 その声と同時に前の軍から物凄い勢いでこちらに向かってくる。


「よし、お前ら全員、逃げるぞ」


 その言葉には流石に皆が驚いた表情を見せる。

 作戦を知っていたフォルドとクランツを除いて。


「クランツの可動式転移魔術が完成した。

 俺とクランツ以外は手を繋げ、俺とクランツは別行動、転移魔術は恐らく大きく移動する事は出来ないみたいだ

 だから極力、全員がバラけて逃げてギルドで集合、いいな!」

「え?それじゃあ、フォルドは?」


 サイファーが尋ねる。

 しかしその回答を持ち合わせていたのか、すぐに答えを出した。


「大丈夫だクランツといる限りは俺も危険になったらすぐにワープが……」


 目の前が急に強い光に照らされる。

 視界が元に戻るとフォルドだけがいなくなっていた。

 そのまま次にクランツは他の8人を転移させようとする。


「みんな!手を繋いで!」


 まだ手を繋ぐ前に転移をさせようとしたクランツにいち早く反応したサイファーが皆に手を繋ぐよう声をかけた。


強制転移テレポート


 目の前に光が差し込む。

 

「ここは……?」

「俺達に何が起きたんだ?」


 俺とサイファー、ロイ、ドラコの4人は何とか同じ所に転移する事が出来たが、他の人は手を繋ぐ事が出来ずに違う所に転移してしまった。


「助けに行かないと……」

「そうだな、他の皆んなを探しに行かないとな」


 俺も状況を理解し、取り敢えず現在地を把握する為に誰か人がいそうなところへ向かおうとするがサイファーは違った。


「違う、フォルドを助けないと」

「どう言う事だボスに何があったんだ」


 俺もどうしてフォルドさんだけがまず出てくるのかが分からなかったが、ロイとサイファーは見えていたようだ。

 

「違うんだ、俺達、多分フォルドさん以外はランダムで転移をしていたんだと思う」

「だからどうしたというんだ?」

「見えたんだ先にフォルドさんだけが光に照らされていなくなっただろ、その後目の前からいなくなって……


 ……敵地の中心に転移させられてた」



 俺とドラコはここまで来て少しずつ状況が分かった。

 そして、分かっていくうちに事の重大さにも少しずつ分かって行く事になる。


「つまり、何があったという事だ、教えてくれロイ」

「裏切られたんだ、俺たち全員、クランツさんに」


「多分クランツはanonymousアノニマスって人何だと思う」

「何ですそれ?」


 俺はギルドとか人名をあまり知らないからその名前を出されても全くピンと来ない。


「フォルドが12歳、だから大体11年前にUnknownアンノウンと言う名前が一時期、界隈で少し話題になった時に同名や似た名前を名乗った詐欺グループが多発していたの

 その中の一つがanonymousアノニマスでこれは本家のUnknownアンノウンとは違ってかなり周知され始めた

 そして6年前、遂にanonymousアノニマスが勝負を仕掛けたの、自分の持つ2つ龍玉を賭けて、でも結果は惨敗、Unknownアンノウンの下につくと言う事で殺されるのを免れたの」

「何でそんなに2人の事を知ってるんだ?」

「ええ〜、私この2人のちょっとしたファンでもあったから、あと強い人って興味あるじゃない、情報屋から聞いたんだよね〜」


 そこまでは大分理解して来た。

 クランツがフォルドに真似て、その後勝負を仕掛けて負けた。

 そして、クランツが配下についたと言うのが大方の話。

 しかし、俺はいくつかの疑問点が上がってくる。


「でも何でクランツさんを配下にしたんですか?

 元々Unknownアンノウンは話題にならない様にしていた人ですよね、今だってフォルドさんは人に存在を知られる事が恥ずかしいと言ってるんのに、そんな目立ちたがりの人を引き入れるなんて、他に何かあったんですか?」


 そう、2人には大きな相違点があった。

 俺もギルド・Unknownアンノウンに入る時に聞いたUnknownアンノウンの正体は貴方ですかと。

 そしたら、


「俺はお前にも存在を知られていたのか、もっと上手くやらなければならないな」

 そして、それを何故か聞くと

「活動をする上で名が知れ渡るのは手の内を晒すことに繋がる、それに俺は知られては行けない人間だ」と言った。


 それなのにこの行動はやはりおかしかった。


「それはやっぱそう思うよね、でもそこは誰も知らないんだ

 多分本人にしかわからない事だと思うし、これは聞いちゃいけない事だって思ったの」


 とにかくフォルドさんにも何か人に知られてはいけない事があると言う事が分かった。


「取り敢えず人がいるところに向かうぞ!

 ボスを救出するのはそこからだ!」


 


フォルド視点。


「クランツ……」


 俺が声を出すと、クランツが転移して俺の目の前にまだ来た。


「今日で俺は貴方を超える、その為に全ての時間を費やして来たんだからなあ!」

「お前、やはり…」


 クランツが転移しようとしているのを見て何とか手を繋ごうとしたが敵が俺に向かって来たのを対処したせいで間に合わなかった。


「一般化魔術の第一人者であり聖騎士暗殺、そしてラルフワン王国アイシャ・ラルフワン第二王女の夫であるフォルド・ニコラス・ラルフワンを重要犯罪人とし、即時死刑を命ずる!」

「その名を呼ぶな!」


 俺は激しく声を上げる。

 ニコラスはこの国の王族の名前だ。

 そして俺は王の兄弟の娘の子供、ニコラス王とは離れた親戚であるが俺はこの名をとうに捨てている。


 俺の母親、エマの夫はラルフワン王国の第一王子で時期国王になる予定のノア第一王子だった。

 2人は内密に結婚、そして出産。

 そこで産まれたのが俺だ。


 俺は幼い頃から勉学と剣術を教わった。


 しかし3歳になる頃に両親は王族に捕まり、ラルフワン王国の城の地下に別々の部屋で投獄されていた。


 俺は12の時には密航でラルフワン王国に度々行くようになった。

 その時はやはり本当の両親に一目会いたいという少年の心があったんだと思う。

 そして俺は入り口の騎士を暗殺し、監獄へと向かった。

 俺は新たな両親引き取られた際にそのような話を聞かされていた為にスムーズにここまで来れた。


 そして、父親を発見した。

 父親は俺を一目見てすぐに俺が息子である事に気が付いた。


「もしかして…フォルドか?久しぶりだなぁ」


 整った顔立ちに吸い込まれそうな綺麗な青色の目は当時と変わりはない。

 しかし、10年近く会ってなかった父親は随分と力が無いように見えた。

 そこで俺は残酷な現実を知る。


 母親はニコラス王によって殺された事、そして父親もそう長くないうちに処刑されてしまう事。


 俺には時間がなかった。

 少しでも早く俺は父親を救うために行動をしなければ行けなくなった。

 

 そして、俺が次父親に会いに行く時は食事を持って行ったら、監獄の前に女性が食事を運んでいるのを見かけた。

 そこに俺は話しかけた。


「食事ですか?」

「うわわっ!何でもありません」


 そう言って目も合わせてくれずにダッシュで逃げて行こうとしたので俺は彼女の前に行く。


「俺はラルフワン王国の者ではありません」

「ええっ!…で、では貴方は」


 そこで俺はアイシャ・ラルフワンと出会った。

 そして父に会いに行く度に彼女が食事をこっそりあげている。


「ノア・ラルフワンの息子です」

「ええっ!」


 彼女よほど驚いたのか両手を口に当てる。


「それじゃあもしかして貴方は」

「ニコラス王国の者です、今は縁がないのでただのニコラス国の住民なんですけどね」

「どうやってここに?」

「また、両親に会いたくて……」

「そうなんですか…」

「貴方はラルフワン王国の方、ですよね」

「はい、第二王女のアイシャ・ラルフワンですっ」


 第二王女、俺の父の弟の次女、俺の父親とは何ら関係のない彼女に一つ質問をした。


「どうして俺の父親を助けるんですか?」

「もし2人が同じ国に生まれていたら、こんな悲しみは生まれなかった

 自分もこうやってノアさんに食事を与える事は悪い事だとは分かっています…誰かが苦しむのが私にはとても耐えられないのです

 だから私の助けられる範囲で人を笑顔にしたいのです」


 彼女は優しい声で俺の質問を簡単に答えた。

 

 そして、何度も足を運ぶとやはり必ず彼女はいた。

 そこで何度も会話をしていくうちに俺は段々と優しく上品で芯のある彼女に惹かれていった。


 そして俺が14になる時にアイシャに告白をした。


 自分と付き合ってくださいと、その一文だけを伝えた。

 正直自分でも難しい事は分かっていた。

 それでも帰って来たのは自分の予想とは異なるものだった。


「はい、よろしくお願いします」


 俺は良い反応が貰えないんじゃないかと、無理だと分かっていてそれでも気持ちを伝えたくて告白をした。

 好きだから告白をしたのにいざ良い返事をされると俺は変な反応をした。


「えっ?俺ニコラスの者ですよ?本当に良いんですか」

「うふふっ、ならどうして私に告白をしたのですか?

 私はとても嬉しかったですよ?

 ですが私たちが婚約する事は本来禁忌であるのは事実です

 これから沢山の困難が待ち受ける、けど私達ならどこか大丈夫な気がするんです」


「………、、」


 パシン!


 何も言葉が出ない俺の頬を彼女が叩いた。


「何、弱気になってるんですか!

 私が告白を受けたという事は私も貴方と一緒に罪を背負う覚悟が出来たという事です!

 共に人生を歩みましょう」

「……ああ」


 その後再び監獄に戻り結婚の報告を父親にした。


「……本当か?」


 俺が頷くと、何故か涙を浮かべる。


「どう言う事か分かってるの?」

「……分かってるよ、でも立場がどうであれ息子がこんな素敵な女性と結婚をするんだ

 嬉しくない親があるか、エマも喜んでるはずさ」

「ありがとう…お父さん、」


 その数日後、


「何?アイシャがいなくなった?」

「はい、部屋にも姿が見当たらなくて」

「今すぐ探せ!」


 アイシャの父親が物凄い形相で使用人に対して捜索命令を出す。

 

「大丈夫、俺に任せて」

「ありがとう」


 俺がアイシャをお姫様の様に抱えて、使用人からの追跡を逃れる。


「ここまで離れたら、流石に見つける事は出来ない、」


 そう言ってアイシャを優しく降ろして2人手を繋いで逃げて行った。


 そして、その約一年後、俺が15歳になると同時に2人で静かに式を挙げた。

 俺は妻であるアイシャを幸せにする為世界を変える決意をした。

 11歳の頃にラルフワン国に渡る資金を集めるために開設していたギルドUnknownアンノウンをアイシャと共に再始動させる。


 そしたら何故か同じようなギルドが沢山あると言う事に不信感も覚えつつもこれは自分達が身を潜める事ができ、好都合だと判断した。

 龍玉も順調に手に入れた時もバレる事なく全てが順調であったが、数年前とは違い大規模なギルドが増え、いくら何でも俺1人戦場に出ると言うのはこれ以上厳しいと判断し、少数精鋭の仲間を加えた。


 その中でもベン・グラリオルは俺とアイシャの関係性を唯一知っており、俺の1番の信頼を置いている仲間だ。

 初めてその話をした時は「まじかよ、」とめちゃくちゃ引かれた。

 ベンは立場をそこまで高くしない事で俺の足りない所を補い2人でチームの管理を行っていた。

 

 そして、戦争の前日全ての話し合いを終えるとベンと俺とアイシャ3人で会話をする。


「お前の方は大丈夫か?」

「こっちは問題ねえよ、あのウィルって奴がなかなかに優秀でな、問題はお前の方だ

 クランツになんかあったか?」

「…アイシャ」

「ええ、やはりクランツはニコラスと繋がってると考えて間違い無いと思う…」

「すまん、奴はanonymousアノニマスだってのに信用しちまった」


 少しは警戒していたものの、長年、優秀な二番手として常に俺と戦ってくれたクランツに対して少しずつ警戒心が薄れていってしまっていた、その結果がクランツに転移魔法を習得させた。


「ここで、間違い無くクランツは俺を裏切るだろう」

「ううん、大丈夫私はなんとかなるって信じてるから」

「すまない、俺達はもう…」


 こんな所で俺の夢が潰えてしまう。

 たった1人、人を信じてしまったばっかりに。


 その時、


「もうっ!」


 俺の頬をアイシャが叩いた。


「しっかりして!私はそんな弱気なフォルドが好きになったんじゃない!いつも自分を持ってて頼りになって少し守りたくなる…そんなところに私は惹かれたの!

 あなたらしくないよ、やった事は振り返らないで!今までこんな逆境何度も乗り越えて来たじゃん

 城から抜け出す時に比べたら楽勝だよ」

「そ、そうだな!」


 俺はアイシャの言葉でようやく全ての覚悟が出来た。


「おいおい、ここに俺を呼ぶ必要はあったのかよ

 夫婦喧嘩に俺を入れないでくれ」

「悪い……では作戦を考えるとしよう」


 そこで俺とベンは一夜でどうしたらこの圧倒的不利な状況を打開できるかを複数案立てた。


 

フォルド考案の第一作戦。


 裏切りでは無い可能性又はこちらが勘づいているのを気付かれない為に(城前での)戦いはする。

 フォルドだけが転移された場合、ベンが転移された後に城を目印として助けに向かう。

 

 到着後は2人で戦闘をし、少しずつ敵を減らしていき、クランツを殺害。

 クランツに使用して顕現した転移石を我々が手を繋いで使用し脱出を試みる。

 

 転移石は適応可能な人材にのみ扱える。

 そして、転移使用時は常に転移石を身につけておく必要がある。

 適応者以外が使用する場合、魔力が顕現している場合に限り一度だけ使用が出来る。


 

───ワープ直前のベン・グラリオル


 目の前が急に強い光に照らされる。

 視界が元に戻るとフォルドだけがいなくなっていた。


(フォルドが単独で転移させられた……想定通り)


 そのまま次にクランツは他の8人を転移させようとする。


「みんな!手を繋いで!」


 まだ手を繋ぐ前に転移をさせようとしたクランツにいち早く反応したサイファーが皆に手を繋ぐよう声をかけた。

 しかし、ベンは手を繋ごうとしていない。


強制転移テレポート


 目の前に光が差し込む。


(任せろ!俺がお前を絶対救ってやるからな!)


 そう覚悟を決め光に包まれた。

 転移した所はどこか分からない集落、これも想定内。

 だからこそこちらは戦場を敵の城にした。

 ベンの現在地が分からなくても、クランツの転移魔術の移動距離には限界値が存在するらしい。

 

「ここはどこですか?」

「え?ここはニコラスのラトス村ですが……」

「で、ですよね、ありがとうございます!」


 俺は近くの住民に話しかける。

 俺が転移したのはどうやらラトス村の様だ。

 そしてまた違う人に次はニコラス城がある所を聞くとそれもまた驚かれたが、予想通りそこまで離れていない。

 相当当たりの方に転移したみたいだ。

 城まで30分もかからない。


 馬の貸し出しをしている場所で一頭、危険な場所という事で馬を少々割高で借り、一気に城まで向かう。


「待ってろよ、クランツ!俺がぶっ殺してやるからなあああ!」



 

───フォルド視点。


「これで俺に勝ったつもりかクランツ」


 俺の声はクランツには届かない所にいる。

 もし聞こえていたとしても帰ってくる返答としてはNOだろう。

 あいつは一度戦った時もプライドは高かった他の乱入を入れない為に前の戦いは準備をしていた。

 今回も入念に準備をしているはずだ。

 だからこそ必ずあいつは俺を倒しにくる。

 その時に倒す事さえ出来れば俺達の勝ちだ。


「敵はたった1人だ相手がフォルドだとしても決して怯えるな!」


 上官のその一言で前にいた軍が獣のように俺に向かってくる。

 その反対側からはジリジリと距離を詰められている。

 前後含めて敵の数は大体350超と言った所か、しかしこれ程の人数…一筋縄では行かない。


 初めは順調に前方の攻めて来て浮いた敵を確実に倒していく。

 しかしそれでは350、3000の敵の数を倒す前に俺が力尽きてしまう。相手もそれは分かっている。

 魔法を使える奴はまだ出て来てないみたいだ。

 しかし、遠距離から魔法を使うとなると味方に誤爆する可能性の方が高い。

 まず遠距離攻撃の線は切って大丈夫だと判断し、俺は目の前の敵を両手の双剣に持ち替えて、一気に薙ぎ倒していく。

 相手も王の加護を受けているにしても流石に俺との差は大きい。

 味方がおらず一切気にすることなくただ敵を殺戮して行く。


 

 すると、


「発射!」


 上空から火の雨が降って来た。

 まさかの遠距離魔法攻撃、俺が順調に敵の10%程を倒した時にニコラス王が少し危険と感じ取ったのか、味方の安全を無視して確実に俺を殺す為に更なる人員を一挙に放出。


 俺はすかさず、近くの敵を一掃して、土魔法で自分の周りを囲み安全地帯を作る。

 そのおかげで俺は火の攻撃を受ける事は無く、逆に俺を殺そうと近付いて来た敵の叫び声が聞こえた。

 何人かが味方の攻撃に当たってしまったみたいだ。


(俺の持ってる武器は剣の中でも最長クラスの両手の双刃剣、しかしそれを俺の最速かつ最長射程だと思ってるのか、)

「両剣を戻す、双剣を出してくれ」


 これは俺の持ってる固有の能力の一つであり、龍玉を探す道中で手に入れた指南書で習得した能力で、別スペースが存在しておりそのスペースの中なら何でも取り出す事が出来収納も出来る。

 幅はそこまで大きくは無いが、武器等を収納するなら充分すぎる大きさ。


 土の壁を降ろすと、両剣の対策として射程外に目標が待機していた。

 

(想定内……!)


 俺は短い双剣はポケットから出しておいただけで、背中に付けており俺の手は元々身に付けていた太刀を鞘から抜き、剣を大きく横に振り抜く。

 相手は一見何をしているか分からないだろう。

 これは言わば初見殺しの技。


 横に振り抜いた剣は炎を纏っていた。

 そしてその炎は、剣が切った後の衝撃波の様に敵に打ち付ける。

 勿論、剣としての切れ味も抜群であり、そのまま炎で焼き尽くす事も可能。

 

 王族の一部はこれを知っていた。

 がしかし、前衛に出ている末端の騎士どもは知る由も無い。

 訳も分からず燃やされていく。

 間違い無く前軍に焦りと恐怖の色が強くなって行くのが分かる。

 その手を俺が緩める事は無い、なんなら更にその恐怖を増やしていく。

 俺は太刀をすぐ鞘に納め、次は先程出した双剣を握り、両剣、太刀とは全く違う俊敏な動きをする。

 

 その動きには他にも俺にとって有利な点があった。


「後陣に告ぐ!今すぐ魔法攻撃を中止しろ!」


 そう、俺の動きがより俊敏になった事で魔法での攻撃は逆効果だと判断し、遠距離での攻撃をやめた。


 そうして、約800程の敵を倒したあたりから流石に一筋縄では行かなくなり始めていた。

 ほぼ休む暇も無く、剣を振り回し、動き回った俺は流石に疲れ始めた。

 更に相手は最初の戦力に比べ格段に強さが上がって来ている。

 形勢が逆転し始めた。少しずつ俺が後ろに下がり始める。


「はぁはぁ、くそっ…まだ半分も倒せてねえのに疲れが見え始めてやがる」


 魔法攻撃を喰らってしまったのが痛かった。

 そして俺も魔法を使うと剣を使うよりも体力を消費する。

 最初の方は剣だけで魔法を温存するつもりだったが、相手の力量を見誤った。


 俺はしゃがんで土魔法を自分の足元に流し込み勢いよく小さな岩を建て、その勢いを使い上空に飛びをし、囲みから抜け出した。

 飛んでいる最中に後衛で待機しているもっと危険な奴等とクランツ目掛けて大規模な炎魔法を放つ。

 その後はしっかり着地し、全力で逃げる。

 


 しかし、


「何逃げようとしてんの………お前だけは絶対に逃がさない」


 俺よりスピードのあるクランツが転移魔法の射程範囲に着くと再度俺を転移魔法で敵の中心にワープさせようとした。

 それに気付いて俺は振り向きざまに炎太刀の衝撃波を喰らわそうとする。


「それは見えてる、何年あんたを研究して何年貴方の側で見て来たと思っている

 もう既に俺はあんたを超えている、今日で全部終わりだ!」


 俺の攻撃は失敗に終わり、目の前が光に照らされる。

 光に照らされる僅かな視界でクランツの勝ち誇った様な顔を見た。


「俺はまだ死んでないぞ」と挑発と戦いの目つきでクランツを煽る。


 とは言え転送は成功しまだ俺は窮地に立たされる。

 しかし、全力で逃げたおかげで中央はかなり大きな空間があった。


「俺はまだ死ねねえよ……世界を変えるって決めたからにはな!

 …待ってんだよ俺の帰りを皆が、、家族が…絶対に最後まで諦めねえ!」


 前からも後ろからも敵が押し寄せてくる。

 しかし俺は何も行動を起こさない。

 ただ太刀に手を当てているだけで攻撃をしようとしていない。


「俺は幾つもの戦を乗り越えて来た…だからこそ分かる

 ここは俺の死地では無いと」


 俺は段々と聞こえてくる馬の足音に気が付いていた。

 そして、


「おらおら!どけええ!!俺様のお通りだぁあああ!!!!」


 そう言って物凄い勢いで後ろから走り込んでくるのはベン・グラリオルだ。


「おおっ、結構やられてるじゃねえか

 全部1人で背負うのは流石に無理があんだよバカヤローが」

「すまない、俺の私情なのにこんなとこまで付き合わせて、、」

「構わねえよ

 俺は裏切られるのは嫌いだ、でもよ自分を裏切るのが1番嫌いだからよぉ、それにお前は俺の数少ねえ親友だ、俺には分かる、お前が俺の立場でも必ず助けにくるだろお前ほど人情に厚い奴を俺は知らん、だから気にするな

 だからつべこべ言わずに俺に助けられておけ」

「……ありがとう」


 全てが作戦通りだ。

 何ならこのまま馬で逃げ切れてしまいそうな程に事が上手く運んでいる。

 しかしクランツがそうはさせてくれない。

 再び俺を転移させようとするとするクランツにベンが俺より早く反応をして、馬から飛び降りクランツとの間に割って入る。


「これだな?」

「あっ」


 珍しく隙を見せたクランツにベンは逃さない。

 首に掛けていた転移石の紐を剣で上手く切って、奪い取った。


「これでお前も1人だな、圧倒的有利な状況から見下してた俺1人来た事でこうも簡単に逆転されるなんてな」


「ベン・グラリオル、、理解が出来ない

 何故逃したと言うのにお前は人を助けるんだ!」


 取り乱したクランツがベンに対して強い口調で問いかける。

 それを簡単にベンは答えた。


「教えてやろうか、お前に無くてお前以外にある物、

 それはな、尊敬と信頼だよ」

「それなら俺だって!Unknownアンノウンの事、」

「いや、少なくともフォルド・ファンタズマにお前は信頼も尊敬もしていない幻影を見てるだけのただの17のガキだ」

「うるさいっ!」


 クランツが荒々しくベンに攻撃を仕掛けてくる。

 しかしベンは戦闘のプロだ。

 怒りに身を任せたクランツではベンの防御を破れるはずが無い。


「俺は超えるんだ!誰にも負けない!俺から全てを奪ったお前を殺す為に!」


 クランツの怒りがベンの防御を無視して、俺の所に飛んできた。


 

───クランツ視点。

約12年前。



 俺は裕福な家庭の息子として生まれた。

 しかし、そんな生活は長くは続かなかった。

 5歳の頃に1人の少年に両親を含む家政婦達全員を殺し俺を見下す様な目をして殺さずに去っていった。

 5歳の若さにして生きる全てを失ってしまった。

 以降、クランツは全ての人間に対して閉鎖的になった。

 祖母の家に引き取られた。

 そして、7歳になった時にクランツは家出をして街に出た。

 そこで当時界隈で少し話題になっていたUnknownアンノウンと言う名前を聞いた。

 奴は当時人を殺さない最強の盗掘師として有名だと言う話を聞いた。

 盗掘師と言うのは利益の為に人を殺す最低な輩だと昔、両親から聞かされていたし、俺も盗掘師に全てを奪われた。

 だからこそ人を殺さない盗掘師と言う存在に彼は興味を持った。


 そこでクランツはこの最強と呼ばれる人に近づく為、敢えて似ている名前に目立つ様な行動をして、少しでも本物のUnknownアンノウンに近づく為、日々を過ごしていた。


「こいつも偽物…これで何人目だ

 本当に人を殺さない盗掘師なんて存在するのか?」

 

 そして11歳の時、本物のUnknownアンノウンからようやく手紙が届いた。

 

「お前の持つ龍玉全てを俺に渡せばお前を弟子として受け入れよう」と手紙が帰ってきた。


 そして迷宮で待ち合わせをする。

 緊張のせいか予定より随分と早く到着したクランツに対し、フォルドは時間ぴったりに到着した。

 そこでクランツは顔を見て本能的に攻撃をした。


「お前ええええ!」


 忘れたくても忘れられない。俺の家族を殺した張本人だった。

 怒りに身を任せた攻撃はUnknownアンノウンに届くはずもなく、一瞬でボコボコにされた。

 

「くそっ、何でなんだよ」

(殺さない盗掘師なんて嘘じゃないか…)


 俺は地面に屈しながら怒りが込み上げてくる。

 それでも力の差は圧倒的で何かしようものなら殺されると肌で感じ、何も出来なかった。

 

「約束の龍玉は貰う、いきなり俺を襲って来たんだそれくらいは仕方ないと思え

 ……それで、お前の望みは何だ?弟子入りだったか?なら俺のギルドに入れ」


 しかし、Unknownアンノウンは俺に止めを刺す事をしなかった。

 そこで俺は思いついた。

 こいつの近くにいて、こいつを正体を暴くために。


 それでもやはりUnknownアンノウンであるフォルドは人を殺しはせず、金目の物のみを盗るだけだった。

 その姿は聞いていた通りの俺が憧れた存在そのものだった。

 一緒に仕事に出る時だけはこの人を尊敬していた。






───フォルド視点。(現在に戻る)


「全てを奪ったお前を殺す為に!!」


 俺には身に覚えが無い。

 それでもクランツは続ける。


「12年前、お前は俺の全てを奪った!覚えてないか!俺の家族全員を殺しておいて!」

「………!!」


 俺はその言葉を聞いて記憶が蘇る。

 あの日はいつもと違い上手く事が進まなかった時だ。

 警備の人に見つかり、焦った俺は初めて人を殺した。

 その時の少年の悲壮的な目は今でも覚えている。その時に俺は人を殺さない事を決めた。


 結局、今日は今までの何十倍もの人数を斬ってしまって、守れていないが、


「その時俺はただ無力で見ている事しか出来なかった

 ……でも今は違う、俺は今日フォルドを殺しUnknownアンノウンを超える!それが俺の生きる全てだ!」

「すまなかった……」

「今更謝っても家族は帰ってこない!!」


 俺はただクランツの魂の攻撃を受けるだけになってしまっている。

 それにベンが応戦しようとするがクランツの集中力と執念が凄まじかった。ベンをものともせず、2体1でもお構い無しに攻撃を続ける。


 そこに後ろから王の軍が追いついてくる。

 するとクランツが大声をだす。


「これ以上俺に近づくな!殺すぞ!」


 何とも子供らしい発言だ。

 何事も冷静にこなすクランツとは程遠い姿だ。


「ベン……クランツは俺に任せろ、すぐに終わらせる

 だから1分でいい…奴等を食い止めてくれ」

「任せろよ!護衛は俺の得意分野だ」


 そう言ってベンは戦線から離れ前に出て大軍を1人で迎え待つ。

 

「こりゃ無理だな……ギガロックウォール」


 ほぼ全ての魔力を使い巨大な壁を創り出した。


「これで俺の役目は終わりだな」


 クランツは怒りに力を任せているが、動きは丁寧だ。


「……許さない」


 クランツの叫びに俺は返せる言葉が無い。

 俺がしてしまった事が全ての元凶であり、問題だ。

 あの時俺が失敗しなければクランツが敵になる事も無く、世界を変える事ができたかもしれない。人間は誰でも過ちを犯す、それだけでは許す事の出来ない大罪だ。

 クランツにとって俺の様々な罪よりも自分の怨みがここまで人を動かすとは思えない。


 俺が一瞬の隙をつき、太刀で攻撃をいなすと動きがピタッと止まった。

 そして再びスイッチが入ったかのようにまた動き出した。

 その動きに俺も合わせる。

 互いに目にも止まらぬ速度で剣を交えて交差する。

 勝負は一瞬だった。


 フォルドは太刀を握ったまま硬直。

 クランツはフォルドの太刀を直接受けて倒れた。


「……」

「………」

「…………」

「…………心のどこかで少し貴方の事を尊敬していました、この世界は所詮弱肉強食、奪われる者と奪う者は常に存在する中で俺の家族は昔、悪事を働いていた事を俺は知りました。だから貴方も俺の家族を狙ったんですよね、それでも俺はこの気持ちを抑えられませんでした

……許してください、そしてありがとうございました」


 クランツは最後に感謝を伝えて死んだ。

 その亡骸を俺は抱える。


「俺の方こそ、許してくれ、そしてありがとう」


 怒りを抑えられなかった。

 そんな事言ったって、関係無い。

 犯罪をしていたのを分かっていたから、狙って殺したのは事実。

 それでも当時子供のクランツがそんな事知ってるはずが無い、それを後に知ったとしても、当時の優しい両親を殺されたと言う事には違いない。

 それでも最後に謝罪と感謝を俺に言った。


 俺は転移石を持ち、ベンの射程範囲に移動して自分を残しベンを転移させ、俺は再びクランツの元に戻りあの時貰った龍玉2つをクランツの亡骸の横に置いて俺もその場を去って行った。


 


 ギルドの事務所に集合したベン、クランツ、フォルドを除いた7人はフォルドの部屋の机にある手紙と龍玉を含む財宝の数々を目にする。


「この手紙を読んでくれていると言う事は俺の指示を最後まで聞いてくれた最高の仲間達だ

 結論を言おう、この戦いは全て俺の責任だ。

 許してくれとは言わないがその詫びとしてそこにある物をいる人達で分けてくれ、俺や今いない奴等に残すなんて考えなくて良いからな…

 何故、俺の責任なのか気になる人もいるだろう。

 それは俺の妻が今回の敵国の第二王女であり、俺が有名な罪人のエマ・ニコラスとノア・ラルフワンの息子だからだ」


 衝撃の事実に皆が顔を合わせる。


「その際俺は沢山の罪を犯した、だから俺は活動を通して知られる事を拒み少数精鋭部隊を形成していた

 俺の目標は世界を変える事だった。ニコラスとラルフワンの関係を俺がこの国の王になる事で変えられるのでは無いかと思った

 お前達に付き合わせてしまった。本当にすまない

 この国を変える事が俺1人、ではなく誰であろうと難しいと言う事が分かってしまった…だから俺は自分の命を使ってお前達と家族だけは守ると決めた、

 最後に、俺と妻を探さないでくれ、そしてこの事を誰にも言わないでくれこれがギルド・Unknownアンノウンのトップとしての命令だ

 本当に今までありがとう

          

              ─フォルド・ニコラス・ラルフワン─」




 そしてギルド・Unknownアンノウンは解散した。




 8年後、ラフカンパニーにて


「おいおい!ビックニュースだ!」

「どうしたんだ?ドラコそんなに血相を変えて」

「来るんだ俺達の会社にあいつが!」

「あいつって?」

「剣聖の放浪者だよ!」

「何だって?」


 最近、剣聖の放浪者と呼ばれる人物がよく聞くようになった。

 名前の通り、各地に出現してはすぐにその地を離れる謎多き人物だ。

 しかし実力は剣聖と呼ばれるに相応しく加入したギルド全てで実績を上げている。


「すいません、ウィル代表!お話しをしたいと言う人が、、」

「誰だ?」

「剣聖の放浪者です」

「通してくれ」

「はい!」


 そう言ってまたドアを開けると入って来たのは長い黒髪に雰囲気に合わない和を感じる服。

 鋭い赤の目には俺には見覚えがあった。


「も、もしかして、フォルド、」

「おお!やっぱりここであってたのか、久しぶりだなぁウィル、そしてドラコ」

「ボス!!」


 そして3人で長話をする。


「お前達は俺があんな事したのにまだ盗掘師を続けるんだな」

「それはフォルドさんもじゃ無いですか」

「いや俺はここで最後にする事になった」

「それってもしかして、」

「ああ、見つかった病気で亡くなったよアイシャは」


 その言葉に俺はどうすれば良いかわからなかった。


「息子は引き取られてるんだが、どこか分からなくてよ」


 フォルドのその言葉はとても悲しく弱く聞こえた。

 当時の覇気のようなオーラを感じない。


「面接官に聞いたんだが近日、お前達、龍玉を取りに行くんだってな

 もし良かったら……」

「大丈夫です!龍玉まで手助けしてもらったら我々が今後フォルドさんがいなくなった時に力を失いたく無いんです!」

「おお…見ないうちに頼れる代表になったみたいだな」

「ありがとうございます!」

「ここではウィルが代表なんだ、そんなに敬語で話されても困るぜ」

「、そうだな」

「ロイは面接の時に見かけたんだが、サイファリアはどうしたんだ?ドラコよく3人でいたよな?」

「ああ、サイファーはウチの情報屋として飛び回ってます

 楽しんでるみたいですよ結婚は相変わらずですけどね」


 また敬語になっているのは気にしないでくれた。




 数週間後、龍玉争奪戦にて、我々ラフカンパニーは惜しくも龍玉は逃してしまった。

 そしてその代償も大きかった。

 メンバーの半分はこの戦いで亡くなり、ドラコとロイは無事だが代表であるウィルは腹が貫通し瀕死の重症を負ってしまいもう意識も無くなり始めていた。


「おい!ウィル何やってんだよ!死ぬな

 ロイ、救護を読んでくれ」

「分かったよ」


 俺は息をするので精一杯だった。

 目ももう開く事すら一苦労で声もあまり聞こえない。


「次の代表は、2人で決めて、くれ」

「んな事言うな!まだ死んでねえだろーが!」


 ドラコがどうにかして蘇生を試みるがそんな力をドラコは持ち合わせていない。

 そこに聞いた事のある声が聞こえてくる。


「何やられてんだよ、代表」

「…フォルド!」

「どう、して今、ここに?」

 

 俺はなんとか声を振り絞って出した。


「ん?いや、まずいかなと思ってよ代表が死ぬんじゃこの会社はどうするんだ

 それにお前達にはして欲しい事だってあるんだからよ

 自分を捨てるなんて事をするのは俺だけで十分なんだよ」


 そう言ってフォルドは何かを取り出す。


「今助けてやるからな、代わりに俺の願いを聞いてくれハルル街の最奥に一軒家がある。そこに俺の息子が引き取られてるみたいだ

 なかなか悪い噂があるみたいで俺の代わりにお前達の会社で引き取って育ててくれ

 それが、俺の、最後の願いだ………頼む」

 

 徐々に俺の腹部が再生し、元に戻っていくに連れて、最後の力を使い果たしたフォルドはバラバラに崩れて死んでいった。

 俺がフォルドさんに対して最後に一言を伝える事も出来ずに消えていった。



「これがお前の父親の最後だ

 その時にお前の事を助けてくれと言われたんだ」

「そうだったんですね」


 俺の思っていた反応とは違いやけに冷静だった。


「父は最後まで家族と仲間を護った、代表としてあるべき姿だと思います」

「いや、そんな事をするのは理想論として本当に実行出来るのほんの一握りの人間だけだ

 お前にもそんな器な気がしたんだ」

「そんな偉大な父に似ていると言われると嬉しいです!」

「……すまん涙が止まらなくなって来た今日は本当におめでとうな、絶対に奥さん幸せにしてやれよ、悲しませたら駄目だからな」

「はい!」

「改めて、今日は本当におめでとう」

「ありがとうございます!」


 帰り道、ドラコ、ロイ、サイファーと4人で帰る時、


「お前、まだ泣いてんのか」

「だってよ、俺のせいで死んじまったんだ、あんな幸せな瞬間を見届けてやれないと思ったら俺はなんて事をしてしまったんだって」

「考えすぎね、昔の私みたい」

「逆に今婚活すれば良いんじゃ無い、性格も良くなったし相手見つかるかもよ」

「え?本当?」


「「お前じゃ無理だよ」」


 ロイとドラコが口を揃えて言う。

 俺はまだ涙を抑えきれない。


「大丈夫だよフォルドだってちゃんと見てるよみんなの事をね」


 サイファーがそんな事を言うとまた俺の目には涙が溢れて来た。


「何でまた涙が出てくるのよ」

「本当にそうであってくれたら嬉しくなって」

「今日のウィルはめちゃくちゃだよ

 ヴェルトに気を使わせたんじゃ無いの?」

「当たり前だ!ウィルはそう言う奴だから仕方ない」


 ドラコの容赦の無い一言と夕陽が相まって一気に静まり返った。


「なんか、俺達誰1人結婚してないけどさ、今めちゃくちゃ幸せだよね」


 するとロイがふと呟く。


「そうだな、俺達を繋ぎ合わせてくれたボスに今日は感謝しに行くとするか!」


 ドラコが提案すると皆が同意して4人はまた一歩、前はと歩み出して行く。


 

 

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落第勇者の盗掘英雄譚 みかみかのみかん @m_use

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