後の祭り。

ito k-kaku

後の祭り。



0

「死ぬんなら27がいいな、」


「どうした急に、話、聞こうか?」


「俗物めが、」


「ちぇ、」


「27clubってのがあるんだよ、」


「なんだそれ、」


「常人には考えられないような才能で成 

 功を収めた人物達が、その成功と引き

換えたかの様に27で死んだ事で名付けられた。って言う、」


「お前、そんなに朗読うまかったっけ?」


「るせぇよ、」


「第一お前には才能のかけらも感じないよ?おん。」


「更にうるせぇ、けどその才能を得る条件が悪魔と契約する事らしいんだけどさ、んー、でもやっぱ悪魔と契約するなんざぁ死んでも御免だね、」


「死ぬんだよ、契約したら。」


「そうか、ならいいか、」


「でも俺だったら27なんかで死にたくはないなぁ。」


「なんか最近日が落ちんの早まったな、」


「そんだけ歳取ったって事だよ。どっかの誰かさんが数学的には19までで体感時間で人生の半分終わってるらしいって。」


「Wikipediaさんだろ?どうせ、でも、後二年で半分って事か、」


何してんだろ、、、


フードコートと言えば聞こえはいいが、寂れたブルーのプラスティックの椅子とパラソルの外れたテーブルが並んで、売店はホットドックとアイスクリーム屋とたばこの自販機位しか無い夕方のモールの中は、奇妙に生暖かく、居心地の良さを感じた。


結露した生ぬるいコーラの中から、懸命に氷を口に運ぼうと試みる。

染み渡る甘さと冷たさで、脳が焼けた。


「そろそろ帰るか、」


チャイルドブースのクッションの中には、まだ何も知らない子供らが、無垢な笑顔と奇声を撒き散らしていた。


自動ドアを潜ると、通りは一面の椰子と白い舗装に覆われて、左に構えた高架橋の奥には、淡く海が望む。


少し青みがかった夏の夕暮れは、暫し時を止めたように夕凪を遣し、それに甘えるように僕らはまた無駄話をした。


坂の途中の自販機でコーラを買った。


「またコーラかよ、」


「こう言うのはな、飲めるうちに飲めるだけ飲んでおくんだよ。」


「そんなもんなのかなぁ、」

自販機からは、2本のコーラだけが消えた。


「夕方ってさ、なんか安心するけど怖いよな、」


「ん?」


「だってさ、無理やり押し込まれている気がするんだ、この時間の中に、」


夢ん中みたいな感じ。



1

夜、8時頃までは、いつもと何も変わらなかった。

暫くテレビを眺めた後、少し散歩に出る事にした。夜を惑わせるような街路灯が等間隔に道を照らし、もう随分前に夜逃げしたタバコ屋のシャッターの拙い落書きでさえ、何処か美しく感じた。

右側に構えた高架橋には、酷く明るい月が臨んだ。

あのモールに据え付けられたスーパーで、コーラとミントガムを買って、後は直ぐに家へと戻った。


2

「坂道って不思議だよな、」


「何がだい?」


「坂の下から覗く景色と、上でもって登った後の景色とじゃまるで違うときた。」


「空がそれだけ綺麗だって事なんじゃないの?」


「やっぱりそうか。皆んな下から覗いた景色の方が綺麗だって考えるんだな。」


「偏屈かい?」


「いいやそんなんじゃない。ただの興味さ。自分がどれだけ変わってるかって言う。」


「じゃあ僕も変わってるかも、」


「そうかい。」


「なんでそんな怪訝なんだ。」


「自分の中でしか存在しないと思っていた感覚って、随分と美しく感じられたモンだよ。」


「そんな物なのかなぁ。」


「そんなモンだよ。


 そんな事よりさ、

 重力なんて物がなければ、世界はもっ 

 と美しくなると思うんだ。」



3

二階の校舎に位置した3年生の教室からは、淡く霞んだ海が覗く。 


「昨日の宿題で漸化式の極限を求めろってのがあったろう?」


「あぁ、」


————__———_-_____———_———_


「あれ分かんなかったんだよ。」


「僕もだい。」


「私も。」


————__———_-_____———_———_


「でさ、お前は分かったのかい。」


「あぁ、


 勉強なんて分かるかどうかじゃなくて知ろうとするかどうかだ。」


————__———_-_____———_———_


「なんか深いこと言うな、よく分かんないけど、」


「僕もだい。」


「私も、」


————__———_-_____———_———_


「それはそれで幸せだと思うよ。」


「僕も、そう思うな。」


遠くの海で、ウミネコが鳴いた。


4

「今晩皆んなでもって花火でも見に行かないかい?」


————__———_-_____———_———_


「いいね、僕ぁ行けるよ。」


「私も、」


「僕もだい」


————__———_-_____———_———_


「僕も、」


「じゃあ今夜7時に通りの奥のモールの前に集まろう。」


「いや、学校が済んだらすぐでいいさ。」


「そうだな、」



••••••••••••••••••••••••••••••••••••••



「遅くなったよ」


「構わないさ。」


「いくら持ってきたんだい?」


「夏目漱石一人だよ、」


「随分と太っ腹だな、祭り風情に、」


「ソースそばが200円する祭り風情にかい?」


————__———_-_____———_———_


「確かに言えてるなぁ。」


「確かにっ」


「ふへっ」


————__———_-_____———_———_


「花火の色ってなぁ炎色反応でもって決まるんだ。」


「リアカー無きk村か、」


「それさ、」


「でも昔の人は化学の授業なんて受けてないのに、何で花火に色をつけられたんだろう、」


「時間って物は僕らの想像の遥か先で、此方に手を振ってくるものだよ。」




「そんなんじゃ納得できない。」



————__———_-_____———_———_


「」





5

「今日もあの不気味なモールでもってだべらないか?」


「今日は遠慮しておくよ。」


「そうかい、じゃあまた明日にでも行こう。」


「あぁ。」


帰り道はやけに足が軽かった。長い間座っていたせいか、はたまた一人になって歩く速さが増したから、よく分からない。


「一人で歩くと、空は綺麗なモンだな。」



6


17でもって死んだって、何にも残らないじゃ無いか、




−1


拝啓 

コーラは飲めるうちに飲めるだけ飲んでおくんだったよ、全く、来年の夏の花火位は見ておきたいな、まぁあまり悲しまないでくれ、ほぼ半分の人生ならあまり悪くはない。そうだろう?

どうせ3日後には忘れてるさ。

あと、悪魔がどんな成りをしてたのか、向こうで会ったら教えてやるよ。


追伸


追伸を書くのに憧れてたんだ。偏屈だと思うかい?

まぁ、夢が叶ったよ。ありがとう。




0


僕は防波堤に腰掛けて、黙ったまま揺れる波を目で追っていた。

背後のモールでは相も変わらず何も知らない子供達が笑顔と奇声を撒き散らしている。


結露した生ぬるいコーラの中から、懸命に氷を口に運ぼうと試みる。


染み渡る甘さと冷たさで、脳が焼けた。



「忘れられるわけないだろう。」



僕は黙って、家に帰ることにした。

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