第8話 スキルを試す…はずだった…。

「…なんということだ…。」


 アルマンが目の前に広がる光景を見て驚愕していた。

 無理もない…。だってフガイの森の一部が燃えてるんだもん…。


「…」


 エミリスも言葉を失い、その場で立ち尽くしていた。


「いや…あの…。」


 僕は何も言えなかった。


 なぜこのようなことになったのか…。



 ー遡ること2時間前ー


 あの一件以来、しばらくの間、森に行くことを禁止されていた僕とエミリスだが、今日ようやく解禁された。

 しかし探索に行く際は必ずアルマンも同行することになった。

 前回はエミリスのレベルも20ちょっとあったから大丈夫だろうと思い、森の奥へ行かないことを条件に僕との探索を許可したそうだ。

 しかし、帰って来てみれば森の奥にしかいないシルバーウルフを20匹も倒しているし、その内の3匹は僕が一撃で倒したと聞いて驚いたらしい。

 そんなこともあり、森への探索は解禁されたがやはり子ども2人を森に行かせるのは危ないということで同行することになったのだ。

 あともう1つ確認したいことがあると言ったので僕とエミリスはアルマンについていった。しばらくフガイの森を歩いているとアルマンの足が止まった。


「よし、あやつでよかろう。」


 視線の先には二足歩行する大きなキノコがいた。サイズ的に僕と同じくらいだろうか。そのキノコが像の形をした足でノッソノッソと歩いていた。


「あれはマタンゴという魔物じゃ。ワークよ、あの魔物を倒してみるのじゃ。」

「僕がですか?」

「そうじゃ。実をいうとエミリスがシルバーウルフをお主が一撃で倒したという話が信じられなくてな。」

「ちょっとおじいちゃん!私の話が信じられないの?」


 エミリスがアルマンの発言に対して怒って頬を膨らませる。


「いや…エミリスの話を信じていないわけじゃない。ただわしは見習いのお主がどうやって倒したのかが知りたいだけじゃ…。」


 まぁ確かに"はずれ職"の僕が魔物を簡単に倒せるわけないと思うのは仕方ない。

 いくらエミリスに甘いと言ってもアルマンはアルナ村の神官で大人だ…。やっぱり目の前で魔物を倒さないと納得してくれないよね。


 でもどうやって倒そう…。近づいての戦闘はやめとこう…。もしも攻撃して毒とか撒き散らされたら…毒くらうのやだしなぁ…。

 じゃあ短剣を投げてみるか…いやもしはずしたら回収するの大変だし…こっちに気づいて襲ってくるかもしれない。


「あっそういえば…。」


 前回の探索で専用スキル【見様見真似コピーペースト】の能力でエミリスのファイアを習得していたのを思い出した。


 魔法なら遠距離で攻撃できるし、キノコだから火の魔法は相性バツグンだろう。

 僕はさっそく手を広げ、照準をマタンゴに合わせる。

 そして狙いを定め、魔法を唱えた。


「ファイア!」


 魔法を唱えると手手のひらから小さな火の玉が飛び出す。


 まぁ…僕の魔力ならこれぐらいか…。まぁもしマタンゴに当たったとしても周囲が燃えることはないな…。

 ん?でもあの時、シルバーウルフは短剣の切っ先が当たっただけで頭吹っ飛んでたな…。


 考えている間に僕の放った火の玉がマタンゴに当たる…。そして、


『クリティカルヒット!!』


 あの声が響く。次の瞬間…。


 ドゴーン!


 轟音とともにマタンゴの体が大きく燃え上がる。


 あっ...あれ?


 そしてマタンゴの体の火はフガイの森の木々に燃え移り、気がつけばあたり一帯は火の海になってしまった。


 ん~こんなはずじゃなかったんだけど…。


 ーそして現在に至るー


 目の前の光景をただ冷や汗を流しながら見つめるしかなかった。


 僕はゆっくりとアルマンの方を向く、アルマンは顔面蒼白になっていた。

 そしてはっと我に返るとすぐエミリスに


「エミリス!水魔法を!急ぐのじゃ!」

「わ、分かった!」


 なんとか火は消し止められ、事なきをえた。

 アルマンは改めて僕の方に向きなおる。その顔は怒っていた。


「あの…すみません…。」

「なんじゃ!あの威力は!?エミリスのファイアですらあぁはならんぞ!このフガイの森の木は魔力が宿っていて、初級魔法程度では傷1つつかんのじゃ。それをお主は初級魔法でいとも容易く…。」


あっここの木ってそんなにすごいのか…。


「それに普通なら魔法というのは魔法使いメイジや神官といった限られた職業ジョブにしか使えないのじゃ。なのになぜお主が使えるのじゃ!」


 そういえば、僕の専用スキルとか説明してなかったな…。


「あー多分このスキルでコピーしたからだと思います…。」


 僕はアルマンにスキルプレートを見せた。そして他のスキルのことも話した。


「なるほどな…。つまり見様見真似コピーペーストによって本来なら威力が半減されるはずのファイアが会心必当クリティカルヒットの能力によって搔き消されてさらには威力を上書きされたということか…。」


 アルマンは少し考えて僕の方に向く。


「ワークよ。しばらくの間、見様見真似コピーペーストで得たスキルを使うことは禁止じゃ。今回の件はエミリスが間違えて上級魔法を唱えてしまった。という風に説明しておこう。」


 突然名前を出され、さらには自分のせいされたのでエミリスは困惑していた。


「…え?ちょっとおじいちゃん!」

「仕方なかろう。こう説明しなければ村の者も納得せん。もしワークが魔法を使ったと分かれば必ずスキルプレートを確認するだろう。お主が戦士ウォーリアーではなく見習いであることがばれてしまう。」


 そうだった。僕、村の人には戦士ウォーリアーだって言ってるんだった。


「ばれてしまえばワークだけでなく、わしらも何をされるか分からん。そうならんためにもスキルを使わず攻撃だけで魔物を倒すのじゃ。」

「分かりました…。」


 少ししてアルマンが咳払いをする。


「まぁ…しかし、これでお主の実力が分かったわけじゃ。これなら森の奥へ行っても大丈夫じゃろ。」

「じゃあ、おじいちゃん!」


 エミリスがアルマンの言葉を聞いて目を輝かせる。


「うむ、明日から2人での探索を許可する。ただし、無理はするでないぞ。」

「やったー!」


 エミリスは嬉しさのあまり、僕に抱きついてきた。そして恥ずかしくなったのかすぐ離れた。


 エミリスさん…忘れてないかい?森を燃やした件、あなたがやったことになっているんですよ…。


 アルマンが僕の肩をトンとたたく。


「ワークよ。お主の力はいずれこの国、いや…この世界に大きな影響を与えるかもしれぬ…。そのためにもこの森でしっかりとレベル上げをしておくのじゃ。」


 僕はアルマンの目をまっすぐ見つめ、


「はい!」


 そう返事をした。


 よし、そうと決まれば明日からレベル上げがんばるぞ!



ーー補足ーー

○魔物

マタンゴ:人を襲うことはなくただ森の中を歩き回る。自身が襲われそうになったり、森の危険を察知すると体を揺らし、麻痺性の胞子をばらまく。種類によっては毒や睡眠の胞子をばらまくのもいる。


○結果


素材:マタンゴのかさ、毒の粉、木炭


討伐:マタンゴ1匹、フガイの森の木一部全焼(5~6本)


○レベル


ワーク:レベル5→レベル6

 専用スキル【見様見真似コピーペースト】によりエミリスの魔法スキル【アクア】をコピー




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2024年9月20日 09:00 毎週 日・金 09:00

異世界クリティカルヒット!!~はずれ職「見習い」で不運の僕はとりあえず最強を目指します!?~ 闇夜 @yamiyo

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